アルト、ワゴンR、スイフト…スズキ車にはそれぞれ個性的な車名がつけられています。それぞれどんな意味なんだろう?と思ったことはないですか?そこにはスズキが考えるこだわりや願い、またはダジャレ?といったさまざまな理由があります。ユニークなスズキ車のネーミングについて解説していきます。
その1 英語によるもの
現行のスズキ車のラインナップで英語由来の車名を挙げると、「スイフト」(SWIFT=軽快、快速)、「キャリイ」(CARRY=運ぶ)、「エブリイ」(EVERY=どこへでも)、「(アルト)ワークス」(WORKS=メーカーが手掛けたレースマシン、あるいはレーシングチーム)、「ハスラー」(HUSTLER=ハッスルする人、あらゆることに行動的に取り組み、俊敏に行動する人)、「(ソリオ)バンディット」(BANDIT=山賊)があります。ワークスやバンディットのようなサブネームを除けば実質4種類と、車名=英語というイメージがあると意外に少ないな、と感じませんか?
しかもスイフトはカルタスの輸出名として1983年から、エブリイは1982年、ハスラーは二輪車の車名として1968年、そしてキャリイに至っては1961年から(実は現行のスズキ車で最も歴史のある車名)と、いずれもかなり長い間使われてきた車名です。他社も含め日本の自動車メーカーは車名に英語を用いることが多いので、すでに響きの良い単語は商標登録されてしまっているということなのかもしれません。
また、日本人にとっては良いイメージであっても、ネイティブの方からすれば首をかしげてしまうような英語の車名もあるようです。イギリスで人気のファッションブランド「Super dry 極度乾燥(しなさい)」のロゴが入ったTシャツを外国人の方が、「これがかっこいいよね」、と着ているのを見たときの違和感に近いと言えば分かっていただけるでしょうか。
これは他メーカーの例ですが、ダイハツがかつて「ネイキッド」(NAKED)という軽自動車を販売していたことがあります。さまざまな装飾を剥ぎ取ったシンプルなクルマという意味でネーミングされたと思うのですが、ネイティブの方には文字どおり「全裸」で、「なんでよりによってそんな車名にしたの?」と思われてしまったようです。
そのほかにトヨタが販売していた「セリカXX」の「XX」が北米では成人映画指定を表すことから輸出の際には「スープラ」に変更していたという例もありました(後に国内でもスープラに名称変更)。日本人にはかっこいいイメージのある英語のネーミングですが、車名に使おうとすると意外に選択肢が少ないのかもしれません。
その2 造語によるもの
「ジムニー」(JIMNY)は4WDの代表である「ジープ」とその小型版であることを表す「ミニ」を合わせた造語です。まさに「見たまんま」ですが、語呂も良く長い間に渡って親しまれるネーミングになりました。
造語のちょっと変わった例として、ワゴンRについて、「ワゴンは分かるけど『R』はどういう意味なんだろう?」と考えたことはありませんか。スズキの公式なコメントによれば、「Rは革新(Revolution)、くつろぎ(Relaxation)の頭文字であり、軽自動車の新しい流れをつくる新カテゴリーのクルマで、同時に生活にゆとりを与えるクルマ、という2つの意味を込めました」とされています。しかし、実際には「ワゴンもあーる」よ、というダジャレ(脱力)だったことをご存知の方も多いのではないでしょうか。ちなみに、当初は「ZIP(ジップ)」の予定だったのですが、当時のワゴンR開発者の方が反対して急転直下でワゴンRになったそうです。「ZIP」も決して悪くはないですが、ちょっとインパクトにかけますね。
現行型スイフトのご先祖にあたるのが1983年に登場した「カルタス」です。スズキの公式なアナウンスではネーミングの由来は「崇拝」を意味するラテン語が語源の「CULT」(カルト)で、そこから「現代のクルマ文化に貢献したい」という願いを込めて作られた造語とのことです。しかし、それとは別にカルタスがスズキのリリースした久々の小型乗用車だったことから、「軽に足す」=カルタスになった、という説もありますが真偽のほどは不明です。
とはいえ、カルタスは日本市場専用のネーミング(海外ではスイフト)だったことと、CMのコピーが「オレ・タチ・カルタス」や「ハード・タチ・カルタス」(いずれも俳優の舘ひろしさんがCMキャラクター)、「カルタス、千里、走る」(歌手の大江千里さんがCMキャラクター)だったのでもしかすると…
造語の車名にはネーミングのセンスが試されますが、スズキの場合は親しみやすいものが多くてクルマ自体のキャラクターに合っていると思うのですがいかがでしょうか?
その3 英語以外の言語を使ったもの
英語以外の言語からネーミングする場合も多く見受けられます。一番有名なのは、なんといってもアルトでしょう。「アルト」(ALTO)はイタリア語です。「秀でた」「優れた」という意味があり、また声楽では女性の低音域を表す言葉でもあるので初代アルトの女性的なイメージにはぴったりではないでしょうか。
アルト以外にもイタリア語の例では「バレーノ」(BALENO=閃光)、かつて生産していた「セルボ」(CERVO=牡鹿)があります。そういえば、軽スポーツカーの「カプチーノ」(CAPPUCCINO)もすっかり日本語になった感がありますがイタリアのクリーム入りエスプレッソコーヒーですね。
シティ派コンパクトSUVの元祖と言える存在の「エスクード」(ESCUDO)はスペイン語で、かつてスペインやポルトガル、中南米諸国で使用されていた通貨の単位です。古い金貨から冒険心をイメージしてネーミングされたそうです。スペイン語では他に「ソリオ」(SOLIO=玉座)やジムニーの乗用車版の「シエラ」(SIERRA=連峰、山脈)もあります。
他社も含めてイタリア語やスペイン語でのネーミングが比較的多いのは、先に述べたように英語の車名はある程度出つくしてしまったことに加えて、語感の良さや発音がローマ字読みで日本人に馴染みやすいというのもあるのでしょう。
日本語の車名ではスズキ唯一の大型セダン、「キザシ」(もちろん「兆し」)や「Kei」(軽自動車だから「軽」、分かりやすい!)がありますが、実は日本語由来のネーミングは非常にレアな存在なのです。他メーカーでもトヨタの「MIRAI」(未来)や「SAI」(彩)、かつていすゞが生産していた「アスカ」(飛鳥)など20車もありません。逆に海外向け仕様では「サムライ」(ジムニーの輸出名)や「ショーグン」(三菱パジェロの輸出名)、「サッポロ」(三菱のギャラン・ラムダの輸出名)と日本語を使うパターンも見受けられます。
スズキは二輪車ではカタナ以外にもスーパースポーツの「隼」やかつてはスクーターで「蘭」や「薔薇」といった日本語の車名を採用していたこともあります。若い世代には古風な日本語がかえって新鮮に感じられるようなので、これからは日本語の車名も増えてくるかもしれませんね。
その4 昔の名前で出ています?
スズキは四輪車だけでなく二輪車も手掛けているので、かつての二輪車のネーミングを流用?するパターンもあります。中でも最も有名なのは「ハスラー」でしょう。元々は1968年から1981年まで生産されていた空冷2サイクルのオフロードバイク、TSシリーズに用いられていた愛称でした。四輪車のネーミングに用いるのにあたり、スズキでは「あらゆる事に行動的に取り組み、俊敏に行動する人」というイメージを込めた、と説明しています。オフロードつながりということでしっくりきますね。
ソリオのカスタムバージョン、「バンディット」は「山賊」というワイルドなネーミングですが、元々は1989年に発売された流麗なデザインのスポーツバイク、バンディット400として最初に用いられていたものです。
また、これは市販モデルではありませんが、2020年1月に幕張メッセで開催された東京オートサロン2020にはスイフトスポーツ・カタナ・エディションというモデルが出品されていました。カタナはもちろん皆様ご存知のスズキ伝説の大型バイクで、そのイメージを取り入れたアグレッシブなデザインが採用されていました。いわばメーカー内コラボモデルで二輪と同じく「刃」ステッカーもあしらわれるなどマニアの心をくすぐる仕様となっていました。ちなみに「カタナ」はインドで販売されていた旧型のジムニーの現地でのネーミングに使われていたこともありますよ。
車名は大事!だからこそネーミングにはどのメーカーも苦労する
BMWのように車名をアルファベットと数字の組み合わせにしているメーカーもありますが、日本ではユーザーの購買意欲を左右することもあるのでネーミングは非常に重要です。
とはいえ、車名は商標登録されるので先に登録されていると他社では使用できません。有名な例では、ヤマハがRZ250R(二輪車)の後継となるモデルを企画し、「RZ-1」と名づけようとしたところ、すでに日産が「RZ−1」を登録し「サニーRZ -1」という車を販売していたことから泣く泣く「R1-Z」に変更したという説があります。
いかにインパクトがあってユーザーに親しみをもってもらい、しかも他社がまだ登録していないネーミングを考えるか…スズキの商品企画担当者は、今、このときもこれから登場する新型車のネーミングに頭を悩ませているかもしれません。