MINIはなぜ1.5Lの3気筒を選んだ?エンジン最新事情を解説

MINIはスタンダードな1.5L車に直列3気筒エンジンを搭載しています。かつて3気筒といえば振動や音の面でやや安っぽいという印象があり、MINIのようなプレミアムブランドが選ぶことは考えられませんでした。MINIが直列3気筒を選んだのは、最近の自動車をめぐる状況が大きく影響しています。MINIのエンジンをキーワードにして最新のエンジン事情について解説していきます。

直列3気筒をメインユニットに据えた三代目MINI

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初代MINIに搭載されたエンジンはクライスラーと共同開発した1.6L及びそのスーパーチャージャー仕様が搭載されていました。二代目ではPSA(当時、仏プジョー・シトロエングループ)と共同開発したエンジンが採用されました。ベースモデルのONEには1.4L(後に1.6Lに変更)、クーパーとクーパーSには1.6L及びそのターボ版が用意されていました。これらは細かな仕様の違いはありますが、いずれも直列4気筒エンジンでした。

一方、2014年に日本にデビューした三代目となる現行型MINIでは排気量を1.5Lにダウンサイジングするとともに直列3気筒仕様としたことは日本市場においては驚きをもって迎えられました。日本では直列3気筒エンジンといえば軽自動車のイメージが強く、プレミアムコンパクトカーのMINIのメインエンジンにしても大丈夫?という声もあったようです。

直列3気筒にはこんなメリットがある

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直列3気筒のメリットとデメリットについて、乗用車のエンジンとしては従来からスタンダートとされた直列4気筒と比較して見ていきましょう。

まず直列4気筒に比べて一気筒少ない分、直列3気筒ではエンジンの全長を短くできるのでコンパクトにつくることができます。

さらにエンジンの排気が効率的に行えることもコンパクト化に貢献しています。少し専門的な話になりますが、1つのシリンダー(1気筒)の排気中に次のシリンダーの排気が始まることで、先に排気していたシリンダーの排気ガスが邪魔になってスムーズに排出されなくなることを排気干渉と呼びます。

直列3気筒の場合はそれぞれのシリンダーから排気ガスが出るタイミングがうまくずれているので排気干渉についてはさほど心配する必要はありません。近年は排出ガスをめぐる規制が一層厳しくなってきているので各自動車メーカーでは吸排気の設計については頭を悩ましており、どうしても構造が複雑で重くなりがちです。直列3気筒にすれば課題を1つ減らすことができる分、シンプルな設計にして軽くすることができるのです。

また近年高まる安全性についても、直列3気筒はエンジンルームにコンパクトに収まるため、ボディの「つぶれ代」を確保できるので有利です。

直列3気筒のデメリットは?

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一方、直列3気筒のデメリットはエンジンから出る振動です。エンジン内ではピストンが往復運動を行っていますが、奇数気筒のエンジンだと各気筒同士で振動を打ち消し合うことが期待できません。そのため、振動は大きくなりがちですが直列3気筒の場合はとくにその傾向が強くなります。

直列3気筒では横から見てエンジン自体を回転させるような力(偶力と呼びます)が働き、それがエンジン全体を揺らすような振動の原因となるのです。

また直列4気筒に比べて排気音が「ポロポロポロ…」といった、いわゆる快音とは程遠い印象になるのもマイナスでしょう。

直列3気筒というとかつての軽自動車を思い出して音や振動になんとなく安っぽい印象を抱いている方もいらっしゃると思いますが、その感覚はあながち間違いではないのです。

デメリットを解消した直列3気筒B38型エンジン

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MINI及びBMWに搭載されている直列3気筒エンジンはB38型という型式で呼ばれています。ベース仕様のモデルに搭載されているエンジンですが、直噴+ターボ加給に加えてダブルVANOSと呼ばれる可変バルブタイミング機構と吸気バルブの連続可変リフト機構であるバルブトロニックといった最新仕様となっています。

MINIに搭載されている仕様では最高出力137PSですが、BMWのハイブリッドスーパーカーi8に搭載された仕様では231 PSを発揮することから分かるように非常に高いポテンシャルを秘めたエンジンです。同じ排気量であれば直列3気筒は直列4気筒に比べて低速トルクの面で有利ですが、高回転域の伸びでは一歩譲ります。その点もB38型ではターボ加給を行うことで高回転域でも力強い伸びを実現しています。

3気筒ならではのエンジンを回転させるような振動を防ぐためにバランサーシャフトも装備されています。ピストンの上下運動を回転運動に変えるのがクランクシャフトの役割ですが、バランサーシャフトとはクランクシャフトと平行に取りづけられた「重り」のようなものです。エンジンが回転しようとする方向と反対方向に回転することで振動を打ち消す効果があります。

もちろんバランサーシャフトを装着することで、メカニズムが複雑化するため純粋なコスト増となりますが、ブランドに相応しいエンジンにするためにそこはあえて目をつぶったということなのでしょう。実際にMINIに乗ってエンジンが3気筒であることのネガを感じる場面はないはずです。

また、振動を感じやすくなるのはアイドリング時ですが、MINIにはアイドリングストップが装備されているので3気筒であることのネガは徹底的に潰されています。直列3気筒を搭載するというとコストダウンのイメージがあるかもしれませんが、MINIに搭載されるB38型についてはむしろ非常にコストをかけたエンジンと言えるでしょう。ガソリンエンジンとしては珍しくエンジンの基本となるシリンダーブロックを共有化するなどディーゼルエンジンとも、高い品質を保ちながら量産効果によってコストを抑えるという企業努力の賜物ですね。

1気筒=500ccは理想的な排気量

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MNIが1.5L 直列3気筒エンジンを採用したのはBMWグループ全体の戦略によるものです。BMWではグループ全体でエンジンのモジュラーユニット化を進めています。これは1気筒あたりの排気量を500ccとして、排気量を拡大する時には気筒数を増やして対応するものです。MINIではクーパーSに搭載されている2Lエンジンには直列4気筒が、BMWの上級車種に搭載される3Lエンジンでは直列6気筒がそれぞれ採用されています。

1一気筒を500ccに設定したのにはもちろん理由があり、実はエンジンの燃焼効率としては500ccがもっとも理想的とされているのです。これよりも排気量が大きくなるとシリンダー内の燃焼が追いつかず効率が落ちますし、また小さいとトルクが弱くなります。

かつて日本でも1.6LのV6という多気筒小排気量のエンジンが市販化されたことがあります。しかし低速トルクが不足するのでアクセルを踏み込まないとパワーが得られないため燃費も今ひとつでユーザーからの評価も芳しくなかったことから早々と市場から姿を消しました。

モジュラーユニット化で環境規制への対応

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BMWグループ全体でモジュラーユニット化を進めているのは年々厳しくなる環境規制への対応のためです。とくに排出ガス規制の分野でデファクトスタンダードとなっている北米の基準は非常に厳しく、基本となる1気筒分の開発だけでも相当の時間を要するほどと言われています。更に燃費の分野ではEUが厳しい燃費規制を設けているので、新しいエンジンを開発するのは並大抵のことではありません。

エンジンの排気量を一本化してターボやスーパーチャージャーを追加、さらに車種ごとにチューニングすることで1.2Lから従来の2Lクラスまでカバーしようとしたメーカーもありましたが、市場からの評価は今ひとつだったようです。

BMWグループでは基準となる1気筒500ccをしっかりと作り込み、気筒数を増やしていくことでさまざまな車種に対応しています。BMWグループにはMINIからBMW、ロールス・ロイス、コンパクトカーからスポーツカー、そして究極のラグジュアリーカーまで幅広くラインナップしていますが、モジュラーユニット化により、それぞれの排気量で理想的なエンジンに仕上げることが可能です。エンジンの将来を見据えた非常にクレバーな戦略ではないでしょうか。

MINIにジャストフィットな直列3気筒

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現代のクルマを考える上で、エココンシャスなエンジンが求められていることは当然ですが、それだけでは味気ないものです。しかしMINIはそんなつまらないエンジンを選択することはしませんでした。低速からパンチのあるトルクを発生し、そのままターボ加給で高回転までカバー、エンジンの重量も軽い直列3気筒エンジンはMINIのベースエンジンとしてとてもフィットしています。

MINIの走り味の特徴といえる「ゴーカートフィーリング」にも一役買っています。初代、2代目に搭載された直列4気筒エンジンよりも明らかにハナ先が軽く、いつでもどこでも元気な走りを見せてくれます。またこのエンジンに組み合わされる7速のDCTは素早い変速とトルクロスのないスポーティな性格でマッチングは最高、街中でもワインディングロードでもきびきびとした走りが楽しめます。

このエンジンを搭載したMINIが265万円(3ドア:税込)からとなっています。軽自動車でも200万円を超えるのが珍しくない現在、とてもリーズナブルなプライスといえるでしょう。さらにMINI3ドアと5ドアにはMINI Victoriaという特別仕様車が用意されています。タータンチェックをあしらったサイドマーカーとユニオンジャックのリアランプがさりげなく英国生まれであることを主張します。ボディーカラーも豊富で全8色から選べますが、とくにイメージカラーとなっているペッパー・ホワイト・ソリッドとのコーディネートは完璧です。
先進安全装備のドライビングアシストやLEDヘッドライトなど欲しかった装備を標準化して価格は3ドアが290万円、5ドアが307万円となっています。

直列3気筒エンジンを積んだベーシックなMINIの実力を試してみたいなら、ぜひ一度ディーラーでお確かめください。

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