「BMWといえば50:50、でも何がすごいの?」今更聞けないクルマの前後重量配分について解説!

BMW の代名詞となっているのが前後重量配分50:50ということです。でもなぜ50:50が良いのか、BMWがこだわっているのか、その理由を知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。BMWはハンドリングが良い、その定評を支えているのはBMWがこだわる前後重量配分50:50にあると言われています。なぜ前後重量配分が50:50が良いのか、今回は知っているようで意外に知らないクルマの前後重量配分について解説していきます。

FF車はフロントをリアよりも重くするのが定石

画像引用:https://www.bmw.co.jp

エンジンをフロントに搭載し前輪を駆動するFF車の場合、前後重量配分は60:40前後が一般的です。クルマはスタート時や加速時には慣性の法則で重心が後ろに移動します。そのためFF車ではフロントをある程度重くしておかないと駆動輪である前輪がうまくパワーを路面に伝えきれなくなるのです。BMWでもFF車について前後重量配分は50:50になっていません。

かつてホンダがFFフロントミッドシップというちょっと変わったエンジンレイアウトを採用していたことがあります。直列5気筒またはV型6気筒エンジンを縦置き(正面から見てシリンダーが一直線に並ぶ)してその後ろに変速機を配置、ドライブシャフトはエンジン真下から通して前輪を駆動するというものです。FR車のようなフロントオーバーハングの小さい引き締まったスタイルが取れ前輪の切れ角が確保できるので、通常のFF車よりも小回りが利いてコーナーでの回頭性も向上する、といううたい文句でした。しかし前輪への荷重が少なくなることでトラクションが不足し、室内空間が狭いなどFFを採用したメリットが薄れてしまうことから、「いっそFRにすれば?」というもっともな疑問を投げかける人も少なくありませんでした。このため現在ではこのレイアウトを採用した車種はありません。

ミッドシップはリアが重くなる

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FFとは逆にエンジンをドライバーの後ろに置くミッドシップの場合を考えてみましょう。一見かけ離れているように見えるFFとミッドシップですが、エンジンと変速機、そして駆動輪が一体になったパッケージという点では共通しています。量産型ミッドシップカーの元祖ともいえるフィアットX1/9を始めトヨタ「MR2」やホンダ「ビート」など大手メーカーのつくるミッドシップカーではFFの量産車のパワートレーンをまるごとリアに移す手法が定番になっています。

ミッドシップはF1をはじめとしたフォーミュラーカーでは主流ですが前後重量配分35:65になると言われています。市販車ではもう少し重量がフロント寄りになっているようですが、いずれにせよエンジン関係一式をリアに移しているのでFFとは逆に後ろが重くなります。スタート時にはしっかり後輪に荷重がかかるので加速の面で有利です。もちろんフロントが軽いのでコーナリング時の旋回性も良好とまさにレーシングマシンにうってつけのレイアウトです。

それほど優れているのなら全部のクルマが採用すれば、となるかもしれませんがパワートレーン一式をリアタイヤの前にレイアウトすることで後席のスペースを確保できないため一部のスポーツカーに限られているのはご承知のとおりです。

また、ミッドシップ車はリアが重いことから限界領域でのコントロールがシビアになります。電子制御が発達したのでかつてのスーパーカーのようなリスキーさはありませんが、それでも一度テールが流れればそのままスピンモードに入ってしまうという基本特性は変わりません。

BMWが量産ミッドシップとしてi8を開発する際、重量のある大排気量エンジンではなく直列3気筒1.5Lのコンパクトなエンジンを選択したのにはミッドシップならではの前後重量配分を改善する意図もあったのかもしれません。

前後重量配分50:50が活きるのはFR車

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前後重量配分50:50が活きてくるのはフロントにエンジンを搭載し後輪を駆動するFR方式です。ワインディングロードをBMWで走行しているところを思い描いてください。カーブの手前で減速し、ハンドルを切るとクルマが旋回姿勢に入ります。ハンドルが決まればあとはアクセルペダルの微妙なオン/オフで車体をコントロールできる歓びはFRのBMW車ならではと言えます。FF車の場合はアクセルを踏むとフロントを中心に車体が外側に膨らむアンダーステアが顔を出しますし、一方、アクセルを緩めるとハンドルを切った方向に急激に切れ込む、いわゆるタックインという現象が発生し車体が不安定になります。もちろん現代のFF車ではこれらの特性はかなりマイルドになっていますが、全く消えてしまったわけではありません。走りにこだわるならやはりFR、と言われるのはこのためです。

もちろんFRにすれば簡単に理想のバランスを手に入れられるわけではありません。一般的なFR車のようにエンジンと変速機を経てドライブシャフトというレイアウトではなく、変速機を後輪側に持ってきてバランスを適正化するトランスアクスルという方法も使われていたほどです。

BMWでも通常はエンジンルームに搭載されるバッテリーをわざわざトランクルームに配置するなどの手法を用いていたモデルもあります。当然、配線も長く複雑になりコストもかかりますが、BMWらしいこだわりと言えるのではないでしょうか。

前後重量配分50:50の目的はマスの集中化

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一見、前項と矛盾するようですが、BMWは前後重量配分50:50だから走りがいい、というのは半分正解で半分間違っていると言えます。そのことを理解したのはFRだった旧1シリーズに用意されていた直列3気筒エンジンを搭載したモデルのエンジンルームを見たときでした。もともと旧1シリーズは基本となるプラットフォームを1クラス上の3シリーズと共有化していたのでエンジンルームには長い直列6気筒でも搭載できるだけの余裕がありました。しかし旧1シリーズの3気筒モデルであってもエンジンがフロントのバルクヘッド(エンジンルームとキャビンを隔てている壁)にほとんどめり込むような状態で配置されていました。

エンジンをフロントタイヤより後ろ側に持ってこようとするとそれにつながる変速機も後ろに押されて居住空間に食い込むことになります。居住性という面では当然不利です。それでもあえてエンジンを後方にレイアウトしているのは重量物をなるべく車体の中心に持っていくためです。単純に前後重量配分を50:50にしたいだけであれば、もともとの前後重量配分が60:40であってもトランクルームにおもりを積んでしまえば実現できてしまうことになります。しかし同じ50:50であってもフロントのオーバーハング(前輪から前の部分)が重ければアンダーステアが強くなりますし、リアのオーバーハング(後輪から後ろの部分)が重ければテールの振り出しが速いだけの低級なドリフトマシンになってしまいます。このように無理やり前後重量配分を50:50にしたとしても専門家の方が「雑味がない」と評するBMWのようなステアリングフィールは実現できません。

BMWの場合はマスの集中化を図っていくことで結果的に前後重量配分50:50を実現した、というのが正解なのでしょう。実際にFRのBMWでコーナーを回ると自分を中心に車体が旋回していくような独特のフィーリングがあります。この「人車一体」とでも言うべき感覚は他車ではなかなか味わえないことはBMWのオーナーの方ならば誰でも理解いただけるのではないでしょうか。

FRへのこだわりが前後重量配分50:50に結実した

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前後重量配分50:50ということ自体には意味がない、という意見もあります。車体の姿勢はつねに細かく変化するので例え静止時に前後重量配分が50:50であってもクルマは常に加速、ブレーキそしてコーナリングにより前後4つのタイヤが受け持つ重量はめまぐるしく変化していくからです。各タイヤが受け持つ重量はタイヤを地面に押しつける力になり、最終的にはタイヤのグリップ力になります。

しかし、4つのタイヤの重量配分のもととなるのはやはり前後重量配分であり、その重要性から車検証にも記載されているのです。実際にクルマを設計するときには大きさもさることながらエンジンや変速機、駆動方式や定員数などさまざまな要素から前後重量配分が決定されています。

ご存知のとおり、BMWほどFR車にこだわり続けてきたメーカーは珍しいでしょう。国産メーカーでは1990年代には主要車種のFF車への変換が完了していました。BMW最大のライバルであるメルセデス・ベンツも最初のFF車であるAクラスをリリースしたのは1997年でした。一方、BMWでは最初のFF車である2シリーズアクティブツアラー/グランツアラーをリリースしたのは2014年とつい最近のことです。MINIを2001年には発売していたのでFFに関する技術はあったにもかかわらずです。

1シリーズや2シリーズのようにFF車のラインナップも増えていますが走りにこだわる「M」モデルはFR車しかリリースしない、というBMWからのコメントもありました。そのコメントのとおり、2022年の登場が噂される新型のM2も他の2シリーズと異なりFR方式を採用すると言われています。走りならFR、そしてFRならば前後重量配分は50:50にというのはBMWならではのこだわりですね。BMWのFR車はいずれも真上から見ると、エンジンや駆動系などの重量物は前輪と後輪の間にきれいに収められていてクルマの中心に重心がくるように設計され、さらに4名乗車時の挙動もしっかりと担保されています。いまや少数派になったFR車ですが、BMW車の車体レイアウトの巧みさは今一度評価されるべきではないでしょうか。

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