日本車のような愛称(ペットネーム)を一切採用していない、ドイツ車メーカーがあります。お察しの通り、それはBMWですね。 一番左1桁目の数字が繰り上がると、クルマのランクもアップしていく。BMWをはじめ、メルセデス・ベンツやアウディのドイツ車はみな一様にこの「名付けルール」です。他にも欧州車のジャガーやプジョー、ボルボも数字とアルファベットを組み合わせて車種を名付けています。ですが、同じドイツ車でもフォルクスワーゲンだけは、日本車と同じく愛称での呼び名を採用しています。未だに、不思議なんですが(笑)。
BMW、メルセデス・ベンツ、アウディのドイツ車に、無機質な車名が使われているその理由は? ドイツ人的合理主義の表れではないでしょうか。数字やアルファベットの組み合わせから、車格や排気量、クルマの志向やポテンシャルまでが、一目ですぐに判別できます。日本車のように愛称を付けるとなると、販売する国々によっては商標にひっかかるため、名前を変えるデメリットも生じます。世界戦略車として共通のイメージを貫き、名付けルールから紐解くBMWの合理主義哲学とは? ということで今回は、BMW車のグレードを読み解く、その傾向と対策のコラムです。
シリーズ車種やエンジン種類、まずは基本形の法則
BMW車のリアバンパーの右上部には、その車種の戸籍を表す数字やアルファベットが整然と並んでいます。一見して複雑そうに見えますが、その法則を一度覚えてしまえば、あとは簡単にクルマの素性が分かると言うもの。それぞれに意味があり、その内容を知ることで、リアエンブレムを見ただけでBMW車の種類やクラスが知れるようになります。まず手始めに、BMWの代表車種でもあり、ラインナップの一番多い3シリーズを例に紐解いていきましょう。
BMW 320i
まず読み方として、サン・ニーマル・アイ。0 はゼロではなく、マルと発音します。いかにもBMWっぽい硬質なイメージですね。320iの初めの 3 の数字は、3シリーズ車種ということを指しています。その後ろに続く 20 は、エンジンの排気量を示します。ただ、ジャスト2,000ccということではなく、そのクルマの排気量に最も近い数値が記載されます。320iなら総排気量は、1,998ccということになります。現在では、末尾二桁の数字が実際の排気量を表していないモデルがほとんどですが、この数字が大きくなるほどパワフルなエンジンということになります。
320の後ろにある i は、インジェクション(injection)=燃料噴射装置の頭文字で、ガソリン車なら燃料噴射式のことを示します。しかし今の時代、普通乗用車なら、ほぼ間違いなく燃料噴射式であることはもうご存じでしょう。ひと昔前、例えば昭和の時代などは、キャブレターを搭載し、燃料をエンジンシリンダー内に供給していたので、この呼び分けがあるのです。
ちなみに、新しい技術を次々と生み出すBMW社は、1979年にキャブレター式ではなく、電子制御でエンジンの燃料噴射装置をコントロールするシステムを開発。新型のBMW 732iに搭載し、世界に先駆けて発表しました。その時の誇りを高く掲げるために、今でもこのインジェクションの i の文字にこだわり、車名エンブレムに使っているという訳なのです。
このiの文字が d であれば、ディーゼル仕様車320d(サン・ニーマル・ディー)であることを意味しています。e の文字が付き330e(サン・サンマル・イー)になれば、いま話題のPHV車。外部からの充電も可能な、プラグインハイブリット車のことだと判別できます。
ただ同じiでも排気量が記載されておらず、BMW i3 と一括りになるエンブレムが存在します。これはガソリン車ではなく、電気自動車のこと。 iシリーズ として、BMW i3(アイ・スリー)、BMW i8(アイ・エイト)クーペ、BMW i8ロードスターが発売されており、iの後ろにつく数字がシリーズ車種になります。ちなみに、この場合のiはインジェクション(燃料噴射装置)ではなく、イノベーション(innovation)=革新の i を意味しています。
加えて、駆動系が4輪駆動になった場合は、320iに別のエンブレム x Drive(エックス・ドライブ)が装着されます。雪道や凍結路など悪条件の道路でも、自動的に前後駆動配分を変更する、BMW独創の4輪駆動システムを搭載した4WDモデルです。特に X の文字は、BMWにとって4輪駆動を表す重要キーワードになります。と、ここまでが基本形の「名付けルール」になります。
そして応用篇、記号さえ覚えてしまえば難しくない
今までは、エンジン種類と排気量などの組み合わせでしたが、駆動系やスタイリングの種類、走りのポテンシャルの意味づけの記号はどうなっているのか? さてさて、ここから応用篇と参りましょうか。
BMW X3
x Drive (エックス・ドライブ)の4WDモデルは前述しましたが、これはセダンなどのクラスにも4輪駆動の仕様があるという説明でした。さて、BMWには、SUV というカテゴリーのクルマが存在します。アルファベットとして、やはり4WDモデルを表す X という文字が使われます。1〜8シリーズのようなシリーズ名ではなく、Xモデル 名付けられています。
いわゆるSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)は、スポーツ用多目的車と訳されます。しかしBMWでは、敢えてSUVとは呼ばずに、実用性を重視したスポーツ・アクティビティ・ビークル=SAV と、クーペスタイルのスポーツ・アクティビティ・クーペ=SAC の2カテゴリーにコンセプトを細かく分類し提唱しています。SAV&SAC、そのどちらもBMWらしいスポーティな走りを楽しめるクロスオーバー的な4WDモデルを打ち出しているのが特徴です。ちなみに、SAVはX1、X3、X5。SACはX4、X6の各シリーズで展開しています。
BMW M3
同じ3シリーズの中でも、M というアルファベットが付くモデルがあります。そのBMWの最高峰が Mモデル。BMWにおけるMの呼称は、高性能スポーツの証でもあります。M3、M5などMの後ろにつく数字がベース車を表しており、BMW M社が開発を行っています。さて、M社とは? これは、BMWの研究開発やモータースポーツカー、チューニングパーツの製作を担当するグループ会社のクルマメーカーが BMW M。通称M社です。
つまりBMW Mは、BMWのハイパフォーマンスモデルを担い、それがMモデルとしてリリースされます。レースで鍛え抜かれたM社の技術すべてが投入され、走りに特化したスペシャルティカーとして製作。“駆けぬける歓び”をさらに体感したいドライバーの心を鷲掴みにする、最強のスポーツモデルとして仕上げられています。
BMW X5M
また同社が製作した、ハイスペック仕様のSUVは、X5M や X6M、M社が初めて手がけた4WDモデルとなっています。BMWの区分けにのっとると、SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)がX5Mになり、クーペフォルムのX6Mが、SAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)に分類されます。
BMW Z3
また、現在は生産終了になっていますが、正規ディーラーの認定中古市場では未だに根強い人気のあるお馴染みのオープンカー、Z3。BMW唯一のロング・ノーズ&ショート・デッキ、2シーターオープンカーの Zシリーズ です。Z は、BMWではロードスターモデルを示すアルファベットです。ドイツ語のZukunft (ツークンフト)、日本語では「未来」を示す頭文字として使われています。直近では、新型のZ4ロードスターが初公開され、2019年の春には世界市場で発売すると発表されています。
BMW 320i SE
時々、SE の文字が付いたBMW車にお目にかかることがあります。例えば320i SE。SEとは“Special Edition”のこと。特装車とか特別仕様のモデルという意味です。特別仕様であれば、価格がぐっと高くなるイメージですが、BMWでは「お買い得車」という意味合いで使われています。
例えば、外見は320iとまったく何も変わりない、BMW 320i SE。しかし、装備類などが徹底的に簡略化されているモデルになっています。簡略化されていると言っても、エンジンや足回りなどは本来の320iとまったく変わりはなし…。装備類を厳選した、「お買い得モデル」という感じでしょうか。なので車両価格は、320iよりもかなりリーズナブル。スマホで例えるならば、iPhone SE。機能やスペックを厳選した格安スマホのようなイメージですね。
BMW ALPINA B3
BMW ALPINA D3
最後に、ALPINA(アルピナ)という名前はご存じでしょうか?厳密に言うと、BMWの傘下ではないのですが、BMW車をベースとし、熟練のマイスター達によってスペシャルな一台を世に送り出す自動車メーカー、それが ALPINA です。前述のM社は、最もスポーツ仕様に特化したモデルを開発、ただし製造はBMWが行っています。ALPINAは、M社とは立ち位置が異なり、スポーツ志向かつ、エレガント路線としての魅力を併せ持ち、日常の使用にウェイトをおいた超高性能モデルを造るメーカーです。
アルピナの企業スローガンは“感動の極み”。M社とは、似て非なる最高級ブランドと言えましょう。B の紋章は、アルピナ社の創設者であり、現役代表でもあるブルカルト・ボーフェンジーペン氏(Burkard Bovensiepen)の名前から受け継いでおり、次の数字はベースとなったBMWのシリーズ車種を意味しています。D の文字になると、もちろんディーゼル車を表しています。
そぅ、BMWの数字とアルファベットのリアエンブレムとは、クルマのサイズや個性、例えるならカー・アイデンティティとでも言うべき車種の特徴を表すものです。こうした系統立てた商品開発と機能的ネーミングの世界展開が、BMWの人気を底支えしていると言っても過言ではないでしょう。以上が、BMW車のグレードを読み解く、その傾向と対策でした。