BMWは常に時代をリードするクルマを開発し、市場に送り出してきましたが、その中には世界で初となる技術も数多く存在します。クルマの未来を見据えた最先端の技術から、「これもBMWが世界で初めて実現したの?」といった、今では一般的になった身近な技術まで、今回は「BMWの世界初」を紹介していきます。
カーデザインを変えた!キセノンヘッドライト
キセノンヘッドライトとは電球の中にキセノンというガスを充てんし、その中に電気を流すことで発光するもので、原理的には一般家庭にある蛍光灯に近い仕組みのライトです。メーカーによってはHIDやディスチャージドと呼ばれることもありますが、基本的には名称が異なるだけで原理は同じです。
クルマのヘッドライトで長く主流だったハロゲンランプは、いわば昔からある電球でフィラメントと呼ばれる電熱線により発光します。それに対しキセノンヘッドライトはフィラメントを使用しない分寿命が長く、発熱も少なくて省電力、しかもハロゲンランプより3倍程度明るいと、数多くのメリットがあります。
現在では多くのクルマに採用されているこのキセノンヘッドライトを世界で初めて市販車に採用したのがE32型7シリーズで、1991年の一部改良時に装備されました。キセノンヘッドライトと相性が良いのがプロジェクターランプで、この2つを組み合わせることで光が拡散せず、効率良く前方を照らすことができるのと同時に、ヘッドライトユニットを小型化できるという利点があります。ちなみにプロジェクターランプについてもBMWが世界で初めて市販化したアイテムの1つで1986年に7シリーズで採用されました。
それまではウェッジシェイプのスポーティで薄いフロントノーズを実現するためには、かつてのスーパーカーのように格納型のリトラクタブルヘッドライトを採用するしか方法がありませんでした。しかしリトラクタブルヘッドライトは機構が複雑で重量もかさむ上、点灯時には空気抵抗が増える、万が一の事故の際には歩行者へのダメージが大きくなるなどのデメリットも数多く存在していました。
他にも様々な要因はありますが、キセノンヘッドライトの登場により、リトラクタブルヘッドライトを採用しなくてもシャープなフロントノーズが実現できるようになったこともリトラクタブルヘッドライトが廃れていった主な理由の1つと言えるでしょう。
技術の進歩がクルマのデザインに大きな影響を与えることは少なくありませんが、キセノンヘッドライトはその良い例と言えるでしょう。
BMWでは最近でもLEDよりも明るく、小型で省電力のレーザーライトを世界に先駆けて市販化するなど、ヘッドライトの性能向上に努力を惜しみません。ヘッドライトの性能は夜間走行時の安全性に直結するので、BMWがこだわるのも当然と言えば当然なのかもしれませんね。
気分はあの有名スパイ?車外からリモコンで自動駐車
2016年5月、BMWではクルマの外からリモートコントロールで自動駐車を可能にするオプションを7シリーズに世界で初めて用意しました。駐車区画が狭く、いったん駐車してしまったらドアが開けられないような駐車場でも、先にクルマから降りて「BMWディスプレイ・キー」を操作することで自動的にクルマが駐車区画に入っていき、駐車を完了したら自動的にエンジンがオフになるよう設定されています。
もともと7シリーズにはクルマにPDC(パーク・ディスタンス・コントロール)といって駐車時に車両前後の障害を検知する装置が備わっていました。そのため、大掛かりな追加装備は不要でオプション価格も7万円程度と、7シリーズの本体価格が1千万円以上することを考えればかなりリーズナブルな設定だったと言えるでしょう。
現状では前から駐車してバックでクルマを出すというシンプルな動きに限定されていますが、3シリーズではすでにハンズオフ(手放し運転)を実現しています。
このため、実際にはもっと複雑な動き…例えばハンドルを何度も切り返しながら縦列駐車を完了するといったようなことも自動で行えそうですが、安全を第一に考えてのことなのでしょう。時速は1.8km/hに抑えられており、もちろん歩行者や障害物を検知して自動的に停車する機能もあります。
7シリーズがボンドカーとして登場した「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(日本公開1998年)に誰も乗っていない750iLが遠隔操作で自動的に走り出す、というシーンがありましたが、その約20年後に同じBMWの7シリーズで現実化したというのも面白いですね。
一気にパワーアップ!航空エンジンからヒントを得たターボチャージャー
現在では多くのBMW車のエンジンにターボチャージャー、いわゆるターボが装着されています。もともとターボチャージャーは、酸素の薄い高高度を飛ぶ航空機で多くの酸素を取り込んで燃焼させるために開発された技術です。原理としてはエンジンから排出されるガスを利用してタービンを回して空気を圧縮し、より多くの酸素を燃焼するという仕組みです。このターボをクルマのエンジンに転用するアイデア自体は、GMが1962年に2車種にオプションとして用意することで実現していましたが、パワーアップの幅もわずかで人気を得るまでには至りませんでした。もともとアメリカ車の場合は車体も大きく、ターボよりも手っ取り早く排気量の大きなエンジンを積むことでパワーアップすることが可能だったのでニーズがなかったのでしょう。
そして量産車としては世界初のターボ車となるのが、1973年にリリースされた2002ターボです。すでに販売されて好評を得ていた2002(通称マルニ)の2Lエンジンにターボチャージャーを追加することで、ベースとなったエンジンに対し30%ものパワーアップを実現しました。すでにBMWはツーリングカー選手権でターボ車を投入して実績を上げていたので、満を持しての導入だったと言えるでしょう。
2002ターボはパフォーマンスアップだけではなく、エクステリアにも大きく手が入れられていました。当時としてはワイドなタイヤを履くためにオーバーフェンダーが追加され、ボディのフロントにはエアダム、テールにはスポイラーが装備されたルックスは当時のツーリングカー選手権に出場していたレーシングカーのイメージもオーバーラップします。
2002ターボ以降、日本でも日産スカイラインや三菱ランサーターボといったターボカーが誕生しますが、いずれもエクステリアには2002ターボ同様の手法を用いて高性能車であることをアピールしていました。現代のBMWでもMモデルを見るとしっかり2002で確立した手法が受け継がれていることが分かるでしょう。2002ターボは世界初の量産ターボカーというだけでなく、ハイパフォーマンスカーのルックスも定義したという点でもエポックメイキングなクルマだったと言えるのではないでしょうか。
究極のエコカー、量産車初の水素自動車
ガソリンや軽油といった化石燃料を使用することで二酸化炭素が大気中に放出されますが、それにより二酸化炭素の濃度が高まると熱の吸収が増えます。その結果、気温が上昇し始めることで地球の温暖化が進行し、気候変動や海面上昇などが世界的な問題へと発展しています。そこで代替エネルギーへの関心が世界的に高まっていますが、中でもとくに専門家が注目しているのが水素です。水素は水という化合物のかたちで地球上どこにでも存在していることから、実は内燃機関が発明された当初より水素で走るクルマも開発されていましたが、さまざまな課題があり実用化には至りませんでした。
そんな中、早くから水素の可能性を追求し、研究開発を続けてきたBMWが2007年に量産車としては世界初となる水素自動車、「Hydrogen 7」(ハイドロジェン・セブン)を市販化しました。Hydrogen 7は7シリーズ(4代目 E66)をベースに水素用の供給口や燃料経路、水素タンクなどを追加したものですが、外見上はノーマルの7シリーズとほとんど区別はつきません。
またユニークなのは水素に関するインフラがまだまだ未整備であることを踏まえ、水素だけではなくガソリンでも走行できるようにしている点です。燃焼効率の面ではまだまだガソリンのほうに分があることから、燃料を切り替えた際の違和感を減少させるため、ノーマルの最高出力445PSに対し、Hydrogen 7では260PSと抑えた仕様となっています。それでも2トン以上に及ぶ巨大なボディを最高速度230km/hまで引っ張り、0-100km7h加速は9.5秒というハイパフォーマンスぶりを発揮します。
なお、トヨタやホンダも水素燃料のクルマの市販化に成功していますが、こちらはFCV(燃料電池自動車)と呼ばれるタイプのものです。FCVは燃料電池(Fuel Cell)を使い水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を作り、その電気でモーターを回して走行するので基本的には電気自動車の一種です。BMWがFCVではなく既存のエンジンをベースにガソリンでも走行できる水素自動車を開発したのは、水素供給のインフラが追いついていないことを踏まえてのことだと思いますが、そこにエンジン屋(BMW=バイエルン発動機製造株式会社)としての意地を感じます。
Hydrogen 7は100台が生産され、ドイツ環境省などの公的機関に導入されました。ここで得られたデータは次世代のクルマを開発する上で非常に貴重なものとなっていくのではないでしょうか。
常に挑戦しつづけるBMW
今回紹介した以外にも、BMWでは量産車初の前後ディスクブレーキ搭載(1956年 BMW507)やオールアルミサスペンション(1996年 E39 5シリーズ)、バルブトロニック(2001年 E46 3シリーズ)など数多くの「世界初」を生み出してきました。最近では2015年に7シリーズに採用された、ドライバーの手の動きによってオーディオの調整やハンズフリー電話の操作などが行えるジェスチャーコントロールも世界初の機能として話題を呼びました。
常に挑戦を続け、アグレッシブに時代を切り開いていくーそんなBMWの企業姿勢がさまざまな「世界初」を実現してきたのでしょう。これからどんなBMW発の「世界初」が生まれてくるのか、期待が高まります。