伝説のグレード「ti」がBMW1シリーズで復活!気になるMとの違いは?

BMWは2020年10月に1シリーズに新グレードの「128ti」を追加することを発表しました。「ti」というグレードが復活するのは2004年以来のこととなりますが、歴史を遡れば1960年代のノイエクラッセと呼ばれた1500シリーズにまでたどり着けます。今回復活した「128ti」はスポーティグレードとして設定されているようですが、すでに1シリーズにはハイパフォーマンス仕様のMモデルが存在します。新たな128tiはどんなスポーツモデルなのか、過去の歴史もひもときながら解説していきます。

最初の「ti」の登場は1964年

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「128ti」の「ti」とはドイツ語の「Turismo Internazionale」、英語では「Touring International」の略です。BMWでtiがグレード名として登場したのは1960年代まで遡ります。1961年にデビュー、その後のBMWスポーツセダンの源流となった「1500」の派生車種として1964年に登場した「1800ti」が元祖です。「1800ti」はその名のとおり直列4気筒SOHC 1800ccエンジンを搭載して当時のハイパフォーマンスパーツであるソレックスのサイドドラフトツインキャブレターを装着することで最高出力110PSを発揮していました。

tiのネーミングどおり、「1800ti」は当時の欧州ツーリングカーレースで圧倒的な強さを見せつけたのです。さらにレース用のホモロゲーションモデルとして200台限定の「1800ti/SA」を投入、最高速度186km/h、0-100km/hの加速が9秒と圧倒的なパフォーマンスを誇りました。とくに日本では「マルニ」として親しまれている「2002ti」には量産車世界初のターボエンジン搭載車が設定されるなど、ti=高性能なスポーツセダンというイメージが確立していったのです。

日本でもBMWにならって?tiというグレードを設定したのが1977年に登場した5代目となる日産スカイライン、通称「ジャパン」でした。当時のスカイラインといえば直列6気筒の「2000GT」がイメージリーダーでしたが、直列4気筒エンジン搭載車もラインナップされていました。「ジャパン」ではショートノーズに独自のフロントマスクを与えられ「1600/1800ti」とネーミングされるなど単なる廉価版ではなく力の入ったグレードとなっていました。tiはBMW同様に「Touring International」の意味です。しかし「スカイライン=直列6気筒の2000GT」という市場のイメージには勝てず、モデルチェンジを期にtiグレードは消滅してしまいました。

第2世代はコンパクト・ハッチバックとして登場

「2002ti」の生産中止から久しく途絶えていたtiが1994年になって「316/318tiコンパクト」として復活しました。このいわば第2世代となるtiは3シリーズ(3代目E36)がサイズアップして価格帯も上がってしまったことから、より購入しやすいモデルとして用意されたものです。フロント部分は3シリーズと共通のイメージで仕上げられていましたが、ボディ後半は大きく違ったデザインが採用されました。2ドアクーペのトランク部分を短くカットしたような軽快なスタイルでハッチバックを採用することにより利便性も確保していました。当時のVWゴルフやオペル・カデットをライバルに想定していたと思われますが、駆動方式はこのクラスでは一般的だったFFではなく3シリーズ同様にFRが採用されています。デビュー当時は1.6Lと1.8Lの直列4気筒モデルのみでしたが、1996年の一部改良で2.5Lの直列6気筒モデルである「323tiコンパクト」も追加されています。

価格とバリューのバランスの良さで市場から高い評価を得た第2世代のtiは2001年1月にフルモデルチェンジを行います。先代同様に3シリーズ(4代目E46)をベースにボディ後半をハッチバック化したものですが、より独自性の高いエクステリアデザインが与えられています。実は先代ではエクステリアデザインこそE36に似せていたものの、基本となるシャーシーは1世代前のものを使用していたのですが、E46では基本部分はセダンと共用化が図られています。

エンジンにはBMW独自の可変バルブ機構、「VANOS」が3シリーズの中でもっとも早く採用され、さらに日本向けとしては珍しく5MT仕様も用意されていました。BMWならではの気持ちの良いエンジンをマニュアルで楽しめるなど単なるエントリーグレードとは言えない魅力的なモデルに仕上がっていました。最終的に第2世代のtiは2004年12月に1シリーズにその役割をバトンタッチして生産を終了しています。

「ハイパフォーマンス:初代」+「ハッチバック:2代目」=3代目はホットハッチ!

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BMWが突如(?)復活させた3代目となるtiは新型1シリーズをベースにした「128ti」
です。エクステリアはMスポーツと基本は共通ですが、専用カバー&トリムモールディング、サイドスカートトリムを装備することで特別な1シリーズであることを強力にアピールします。また通常の1シリーズではメッキ処理されているキドニーグリルがブラック塗装となることで一段とすごみが増しました。

気になるパワープラントですが、選ばれたのは「ツインパワーターボ」と呼ばれる新開発の直噴2.0L直列4気筒ガソリンターボエンジンです。265hp/4,750rpmという最大出力もさることながら400Nmという強力なトルクを1,750rpmという低回転域から発生するのが特徴です。トランスミッションは8ATで駆動方式はFFが選択されています。パフォーマンスは0~100km/h加速6.1秒、最高速250km/h(リミッター作動)とスポーツカー並の強力なパフォーマンスを発揮します。その昔、FFは強力なトルクステアが発生するのでハイパワーなエンジンを搭載することはできない、と言われていたのが嘘のようです。

もちろんこのパワーを受け止めるべく「128ti」にはトルセンLSDが標準装備されています。トルセンLSDは正式には「Torquesensing Limited Slip Differential」(トルク感知式の差動制限装置つきディファレンシャル)の略です。コーナーリングの際に駆動輪の片側のタイヤがスリップしたときにディファレンシャル・ギアによってタイヤが空転するのを防いでトラクションを確保する装置です。採用された「Mスポーツサスペンション」は「128ti」専用のチューニングが施された結果、車高は10mmダウンしてBMWの特徴であるリニアなハンドリング性能はさらに高まっています。標準装備された「M スポーツブレーキ」はフロントに4ピストンを採用したベンチレーテッドディスクで高い制動力を発揮、さらにブレーキキャリパーは「M135i xDrive」と同様に赤で塗装され、スポーティ度もアップしています。さらに「128ti」専用に18インチツートーンカラーホイールが用意され、強力なエンジンに対応して足回りも強化されています。

インテリアに目を移すとスポーツシートはもちろんドアパネルやインストルメントパネル、ステアリングホイールリムとエアバッグカバーなどには、赤色がアクセントとして入れられています。やや古典的な手法ですが、このインテリアだけでも購入動機になるという方も多いのではないでしょうか。

「128ti」は絶妙なポジショニング

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2020年11月に販売が開始された「128ti」のドイツ本国価格は約4万1575ユーロ(付加価値税16%込み)と発表されていて、円換算すると約520万円です。価格帯としてはトップモデルの「M135i xDrive」と「118i Mスポーツ」のちょうど中間の価格に設定されています。

1シリーズの日本での価格表を見ると「118iMスポーツ」の販売価格は消費税込みで416万円、M135i xDriveは同じく消費税込みで633万円と、この2車の中間のポジションがぽっかりと空いていることが分かります。よりパワフルな1シリーズが欲しいけれど4WDではなくもっと軽快なモデルが欲しい、というニーズに「128ti」はぴったりと当てはまるのです。「128ti」はパワーこそ「M135i xDrive」には一歩譲る(「M135i」の最高出力は306PS/5,000rpm)もののAWDではなくFFとすることで車重は80kg軽いことから「M135i xDrive」とは一味違ったホットハッチらしい切れ味のある走りが楽しめる仕様となっているのではないでしょうか。もちろん価格的にも「M135i xDrive」と「118i Mスポーツ」の間を埋める絶妙なポジションでBMWのマーケティングの上手さがうかがえますね。

生まれ変わった1シリーズの新たな選択肢として

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「128ti」はすでに海外ではプロトタイプに試乗したメディアのレポートも公開されています。「128ti」のライバルとして同じくFFのスポーティカーであるホンダ・シビックTYPE Rやルノー・メガーヌRSといったクルマの名前が挙がっています。「128ti」については、ライバル車と比較して過激さはない反面、バランスのとれた仕上がりという評価がありました。タイヤには無償オプションで快適性も犠牲にしないミシュラン・パイロットスポーツ4が選択可能なことからも、単にサーキットでのラップタイムが速いだけでなく1シリーズの上級グレードとしての役割も担っていることがうかがえます。現在のところ日本での販売時期については未定のようです。待ち望んでいる方も多いと思いますが、今はBMWからの吉報を待ちたいところですね。

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