3シリーズに待望のツーリングが追加されました。車格、性能とも大幅に旧型からアップしましたが、そうなってくると悩ましいのがより上級の5シリーズツーリングの存在です。実はグレードによっては価格も近いこの2台、どちらを選ぶのか迷っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は新型3シリーズツーリングと5シリーズツーリングをさまざまな面から比較していきます。
新型3シリーズに待望のツーリング誕生!…でも5シリーズツーリングも気になる?
昨年デビューした3シリーズに、待望のステーションワゴン、ツーリングが追加されました。3シリーズセダンが2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤーにおいて輸入車トップとなる、インポート・カー・オブザ・イヤーを受賞するなど評価も高かったことから期待も高まります。
とくに買い替えの機会をうかがっていた先代ツーリングのオーナーの中には、いよいよ!とわくわくしながらBMWのオフィシャルwebページをチェックしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、「そういえばツーリングは5シリーズにもあったよな」…と5シリーズツーリングのページもチェックし始めると運の尽き?で、新型3シリーズツーリングとそれまで考えもしなかった5シリーズツーリングの間で気持ちが揺れ動くことになってしまうのです。というのも新型3シリーズツーリングはセダン同様、先代モデルよりもサイズアップしたことから5シリーズツーリングに車格が近づいています。
5シリーズツーリングと新型3シリーズツーリング、そして参考までに先代3シリーズツーリングのボディサイズを比較したのが次の表です。
5ツーリング | 3ツーリング | 3ツーリング(先代) | |
全長(mm) | 4,950 | 4,715 | 4,625 |
全幅(mm) | 1,870 | 1,825 | 1,800 |
全高(mm) | 1,500 | 1,470 | 1,460 |
ホイールベース(mm) | 2,975 | 2,850 | 2,810 |
もちろん、まだまだ3ツーリングのほうがコンパクトではあるものの、先代3ツーリングに比べれば新型はぐっと5ツーリングに近づいたと言えるでしょう。とくに全幅についてはついに1,825㎜と、1,800㎜を超えました。これまでの3シリーズは日本の駐車場事情などを勘案して日本仕様については1,800㎜以下にこだわってきたのですが、ついに一歩踏み出した印象をうけます。
さらにユーザーを悩ませるのが価格設定です。新型3ツーリングの価格は494万円から1,005万円までとなっていますが、494万円の最廉価グレードのSEツーリングは装備をかなり簡略化したほぼ受注生産モデルです。対して1005万円の最高級グレードは「M」の名を冠するハイパフォーマンスモデルであることから、新型3シリーズツーリングの価格帯は実質的には600万円台がメインと言えるでしょう。
5シリーズツーリングはスタンダードな523iツーリングが696万円からとなっています。523iツーリングはベースグレードといっても装備は充実しているのでとくにオプションを追加しなくても満足できるでしょう。一方、価格が相対的に低い3シリーズツーリングであっても、あれこれとオプションを追加していくと価格差がどんどんなくなって、「あれ、これなら5シリーズにも手が届くかも」となって悩んでしまうことになるのです。
3シリーズツーリング(上級グレード)と5シリーズツーリング(スタンダードグレード)のどちらを選ぶのか、という悩ましい問題については最後に回答することとしてそれぞれの違いをチェックしていきましょう。
操縦性、スポーティさでは3シリーズツーリング
新型3シリーズツーリングはセダンの走りの良さを受け継ぎ、やや拡大されたボディをものともせずスポーティな走りをみせます。一般的にステーションワゴンはセダンの派生モデルとして位置づけられているのに対し、ツーリングはセダンとは別の独立した車種として開発されています。開口部の大きなワゴンボディは、セダンに比べるとボディ剛性や走りの面では一段落ちる、とよく言われるのですが、3シリーズも5シリーズもセダンとワゴンの走りの違いを実感することは難しいでしょう。
走りの面ではやはり、より小さく軽いボディを活かした3シリーズツーリングのほうが上です。大きくなったことから、走りの面でも5シリーズに近づいたのでは?という心配は無用です。
リアサスペンションも5・7シリーズと3シリーズは別に設計されており、低くなった重心もあわせて、Mスポーツ仕様ではまるでスポーツカーのようなハンドリングをみせます。ただし、その分乗り心地は硬いことから、よりマイルドなハンドリングがお好みであれば標準仕様を選ぶほうが良いでしょう。
5シリーズツーリングは同じクラスのワゴンに比べるとBMWらしく十分スポーティな仕上がりですが、3シリーズツーリングに比べるとやはりミドルクラスらしい落ち着きが感じられるものとなっています。
嬉しい装備は新しい3シリーズツーリングが一歩上
BMWがツーリングをデビューさせたのが1987年、それから30年以上の長い経験に基づき、さすがと思わせる装備が豊富なのもツーリングの特徴となっています。
例えばリアハッチとは別にウインドウ部分のみで開閉することが可能なテールゲート。大きく開くテールゲートは非常に便利ですが、開閉するためのスペースが必要になります。ツーリングはリアウインドウが傾斜したデザインを採用していることもあって、後ろの空間に余裕がなくてもウインドウ部分だけを開くのであればぶつける心配もありません。
もちろんウインドウだけを別に開閉させるとコストもかかりますし、重量も重くなるのでBMW社内でも廃止しようという意見はモデルチェンジのたびに出るようですが、ユーザーの使い勝手を優先して搭載を続けているとのことです。
また、荷室部分に装備されているパーセルシェルフ。大きな荷物を載せる時には取り外すことがもちろん可能ですが、外したパーセルシェルフは意外にかさばりますし、とくに輸入車の場合は頑丈に作っているので重かったりするため、外して家にしまいっぱなしになっている方、いらっしゃいませんか?
3シリーズツーリング、5シリーズツーリングともに荷室の床下にちゃんとパーセルシェルフを格納するためのスペースが用意されています。ここには外したヘッドレストやラゲッジネットもきれいに収められるので、さすがきれい好きなドイツ人、と感心させられるポイントです。
さらに3シリーズツーリングにはオプションですが、荷室にアンチ・スリップ・レールと呼ばれるアルミ製のレールが敷かれています。これだけならよくある装備なのですが、このレールとフロアの周りにゴムが挟まれており、クルマが動き出すと自動的にこのゴム部分がほんの少し(約2㎜)上昇することで荷物を滑りにくくするというものです。荷物の出し入れはレールを使ってスムーズに、積み込んで走り出したら荷物は安定させる、という実に目からうろこの装備ですが、目の付け所と、そしてそれを実現したアイデアは拍手ものですね。
この他にも先進運転支援機能としてセダン同様に「ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能」を標準装備するなど、やはりデビューが新しいだけあって装備については3シリーズのほうが優勢と言えるでしょう。
荷室は5シリーズツーリングが広さと使い勝手で圧倒
新型3シリーズツーリングの荷室は通常状態で500L、後席を倒した最大容量は1,510Lです。それに対して5シリーズツーリングは通常状態で570L、後席を倒すと1,700Lにまで広がります。
ツーリングの要となる荷室ですが、新型3シリーズツーリングよりも絶対的に車体の長い5シリーズツーリングに有利なのは当然といえば当然なのですが、単に容量だけではなく、ホイールハウスの出っ張りが少ないので、より荷物が積みやすい形状になっているのがポイントです。
ゴルフ専門誌でBMW各車にキャディバッグを何個積めるか?という検証をしたところ、先代3シリーズではキャディバッグを横向きに積むことができず、3個積むためには分割可倒式リアシートの一部を倒してからバッグを縦に入れる必要がありました。新型3シリーズツーリングの荷室幅も形状を工夫して先代からは広くなっているようですが、容量自体は5L増えただけなので、この点は変わらないと思われます。
それに対し5シリーズツーリングは荷室幅があることに加え、手前の側壁を少しくぼませた形状になっていることからキャディバッグを横にして積み込むことができるのです。そしてリアシートを倒すことなく4個のキャディバッグを荷室内にぴったり納めているので4人プラス人数分のキャディバッグを積んでゴルフ場に行けます。荷室のパーセルシェルフを取り外す必要はありますが、後方視界も充分確保されています。
荷室の広さと室内の広さ、快適な乗り心地でゴルフ場エクスプレスとして5シリーズツーリングは最高のパートナーとなりそうですが、ゴルフのたびに運転手として駆り出されてしまいそうなのが問題かもしれませんね…。
SUVからツーリングへの回帰もある?
かつては日本でも人気のあったステーションワゴンですが、現在はSUVブームに取って代わる形で、とくに国産車のラインナップではほぼ「絶滅危惧種」に近い状態です。BMWも現在はSUVの車種を増やしており、すでに販売台数全体の3割以上がSUVとなっているようです。
その一方、とくに欧州ではツーリングにも根強い人気があり、本国ドイツでは先代3シリーズの場合、販売台数においてセダンが4割弱なのに対しツーリングは6割以上を占めたとされています。
SUVはオフロード走行を考慮して、最低地上高を上げていることから運転席から見晴らしも良く、乗降性も良好です。その一方、コーナーリングでは重心の高さを感じさせる場面も少なくないですし、大径のタイヤに重くなりがちなボディは燃費や走行性能の面でも不利となります。また、とくに日本の都市では駐車場の問題もあり、SUVを購入したものの、意外に不便だな、と感じることもあるはずです。
これだけSUVが流行っていると、もともとは差別化をしたくてSUVを選んでいたはずが、逆に周囲に埋もれてしまうことにジレンマを感じている方もいらっしゃるのでは?
5シリーズツーリング、3シリーズツーリング共にBMWツーリングの伝統にのっとりセダンと変わらない快適性、冠婚葬祭からキャンプ場まで、シチュエーションと場所を選ばない万能性と都市での使い勝手の良さなどがこれからまた見直されてくるのではないでしょうか。
最後に、同じ600万円台で3シリーズツーリング(上級グレード)と5シリーズツーリング(スタンダードグレード)のどちらを選ぶのか、という悩ましい問題についてはスポーティに走りたいのであれば3シリーズ、快適性を求めるなら5シリーズと回答して、月並みですが結論としておきましょう。