BMWをデザインしているのは日本人!デザインすることの難しさとは?

BMWのエクステリアデザイナーに永島譲二氏という日本の方がいらっしゃるのをご存知でしょうか?すでに30年以上もBMWのデザイナーとして活躍しており、これまでにZ3や3シリーズなどを担当してきました。今回は数少ない海外で活躍する日本人デザイナーである永島氏と、その永島氏が「難しい」と表現するBMWのデザインについて紹介していきます。

BMW本社で活躍する現役の日本人カーデザイナー、永島譲二氏とは?

画像引用:https://www.bmw.co.jp

永島譲二氏は1955年生まれ、現在、BMWドイツ本社のデザイン部門でエクステリア・クリエイティブディレクターを務める現役のカーデザイナーです。武蔵野美術大学、米国ウェイン州立大学を経て、1980年にドイツのオペルに就職し、カーデザイナーとしてのキャリアを開始しました。

オペルを選んだのはアメリカの大学の教授にオペルの方がいて、その方から誘われたとのことですが、当時のオペル本社には海外で活躍する日本人カーデザイナーの草分けである児玉英雄氏も在籍していたことから日本人を受け入れやすいという環境もあったのかもしれません。オペルでは主にコンセプトカーやラリーカーを担当されていたそうです。

その後、1984年にフランスのルノーに転職しルノー・サフランなどを手掛けてから1988年にBMWに移籍しました。

グローバル化が進む昨今ですが、ことカーデザイナーということに限ればまだまだ海外で活躍する日本人カーデザイナーは少ない状況です。

ざっと名前を挙げるとイタリアのカロッツェリア、ミケロッティの内田盾夫氏、さきほど述べたオペルの児玉英雄氏、日産からアウディに移籍した和田智氏、ピニンファリーナでエンツォ・フェラーリなどを手掛けたケン・オクヤマこと奥山清行氏、そしてポルシェで911 GT3などを担当した山下周一氏ぐらいでしょうか。この内、今も現役で辣腕をふるっているのはポルシェの山下氏と永島氏のみとなっています。

なお、永島氏はBMWの仕事と並行して2015年からは東京工科大学デザイン学部客員教授、日本工学院専門学校特別講師に就任しており、後進の指導にもあたっています。

さらに自動車専門誌、「カーグラフィック」で「駄車・名車・古車・デザイナー的見解」というイラストエッセイを10年以上も連載、さらにそのエッセイに添えられた水彩画イラストなどを中心に個展も開くなど、社内デザイナーの枠にとらわれない幅広い分野で活躍しています。

BMW Z3のデザインはクレイモデル用の習作だった?

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永島氏がBMWに入社して初めて手掛けたのが、1996年に登場したオープン2シーターのスポーツカー、Z3です。映画「007 ゴールデンアイ」でボンドカーとして起用されるなど、世界中でヒットしたクルマですが、もともとは永島氏がBMW入社後にクレイモデルの練習台のためにデザインしたそうです。クレイモデルとは工業用の粘土(クレイ)を使って作る車の模型です。

各メーカーによって細かな違いはありますが、車のデザインが決定されるまでの流れは次のとおりです。

デザイナーがもとになるデザイン画を描く→クレイモデラーがそれにもとづき5分の1のクレイモデルを作成する→複数のクレイモデルでコンペによりデザインを決定→実車サイズのクレイモデルを作成する→クレイモデルを3Dデータにスキャンして試作データを作成→試作車を作る

こう聞くと、「わざわざクレイモデルを作らなくても、最初に3DCGを作ってそこからデータを起こせば良いのでは?」と思うかもしれません。

しかしデザイン画という2次元を3次元の立体に起こすのはデザイナーとはまた違った感性や技術が要求される重要な仕事で、各メーカーでもクレイモデラーの育成にも力を入れています。

Z3の元になったデザインについても、永島氏は市販化については全く考えておらず、純粋にクレイモデラーの練習用としてデザインしたそうです。しかしそのタイミングでマツダがユーノスロードスターを世界的にヒットさせたことから状況が変わります。あれよあれよという間に正式なプロジェクトとして格上げされ、最終的には市販車としてリリースされることになったのです。

BMW Z3のデザインは比較的コンサバティブなデザインが多かった当時のBMW車の中ではやや異色とも言えるアグレッシブなものになりましたが、もともと練習用として永島氏が自由な発想でスタイリングしたことが理由の1つなのかもしれませんね。

変化するキドニーグリル

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永島氏は日本人唯一の現役BMWデザイナーであり、かつ日本の大学でもカーデザインについて教鞭を取っていることから、日本でBMWのデザインについて発言する機会も多いようです。永島氏の発言からBMWデザインの秘密を読み解いていきましょう。

BMWのデザインと言えば、なんといってもフロントのキドニーグリルでしょう。1933年にジュネーブ・ショーで発表されたBMW M303に起源を持つキドニーグリルはほぼすべてのBMW車に用いられており、クルマにあまり詳しくない方であってもキドニーグリルさえ見ればBMWだと分かるほどです。

2000年代になってアウディが大きく口を開けたようなシングルフレームグリルを採用して他車との差別化を図り、その他のメーカーでも統一したフロントグリルで個性を主張するようになりました。しかし、それまではBMW以外にはロールス・ロイスぐらいしかメーカーで統一したフロントグリルを用いた例はなく、先見の明があったと言えるでしょう。

BMWのアイコンともいえるキドニーグリルですが、ボディスタイルにどうやってフィッティングさせていくかがデザイン上の腕の見せ所といえます。過去のモデルでは比較的控えめな大きさで形状も長方形とほぼ決まっていましたが、近年はBMW車のラインナップの拡大にあわせ、形状も大きさもバラエティに富んできています。

永島氏はコンセプトモデルのプロジェクトマネージャーを務めた8シリーズクーペを題材にキドニーグリルのデザインについて解説しています。8シリーズのキドニーグリルは単なる長方形ではなく、横部分に頂点がある5角形のような形状です。そしてその頂点の部分が中央よりも下になっています。永島氏によれば、視線が集まる位置を相対的に低くすることで、車高の低さを強調してスポーツカーらしくみせるため、とのことでした。新型のZ4でも同様の手法が用いられていますね。

BMWは走りだけではなく、高級車でありながらスポーティさを感じさせるデザインが特徴ですが、それもこういった繊細なテクニックを積み上げていった結果なのでしょう。

3シリーズのデザインは難しい

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BMW3シリーズはBMW車の中で売り上げの大半を占める基幹車種であり、ステーションワゴンやクーペ、カブリオレなどの幅広いバリエーションも用意されるという、まさに「THE BMW」とでもいうべき重要なモデルです。

永島氏は、BMWの中でもとくに3シリーズをデザインすることはとても難しい、と述べています。
長い直列6気筒エンジンの搭載が前提で、大人4人が快適に過ごせるキャビン、乗員分の荷物を搭載できる十分なトランクスペースを備えながら高い走りの資質を備え、さらに年々厳しくなる衝突安全基準を充たすこと、それらを高い次元で実現し、その上で何より「3シリーズに見えなければならない」と様々な条件がつけられているからです。

3シリーズは世界的な注目度も高く、市場での失敗は許されないモデルで、3シリーズをデザインすることは難しいチャレンジだと、永島氏は述べています。

さらに年々ボディサイズが拡大しているのもハードルを上げている要因となっているようです。ボディサイズの拡大については、実際の人間の体格が年々良くなっていることを受け、設計に使用する標準サイズのマネキンが大きくなっていることに加え、衝突安全の基準が年々厳しくなっていることによるもので、世界的な傾向です。

素人考えでは、ボディサイズが拡大すればデザインの自由度も高くなるのでデザイナーとしては大歓迎なのでは?と思うのですが、こと3シリーズのデザインについてそれは当てはまらないようです。

新型3シリーズはかつての5シリーズに迫るサイズになっており、そのままデザインするとこれまで3シリーズの持っていた軽快感やスポーティさがそがれてしまう可能性があるからです。新型3シリーズではテールランプ付近を回り込ませてすぼめるような造形にすることで、斜め前から見たときにテール部分が短く、軽快に見えるような処理がされています。

またドア中央付近からボディサイドを少しえぐったような処理にすることで引き締まった印象にするだけでなく、後輪を強調してスポーティなイメージにしています。「美は細部に宿る」と言われますが、新型3シリーズもじっくりとディティールを見ていくと様々な工夫が積み重ねられており、その結果が現在の3シリーズらしさにつながっているのでしょう。

SUVはチャレンジングなデザインが可能

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BMWの中心はやはり3シリーズを始めとした4ドアセダンですが、永島氏によればセダンのデザインは「シルエットで見ればほとんど同じで、他社のモデルとは30㎜違っているだけで大きな違いになる」、と述べるなどなかなか新しい提案が難しくなっていることを感じさせます。例えばトヨタは新型クラウンで従来のモデルよりもルーフラインをややなだらかにした上、リアピラーに小窓を設けたデザイン(6ライトウインドウと呼びます)を採用しましたが、それだけで「こんなのはクラウンではない」といった批判を受けたほどです。3シリーズもそうですが、長い伝統がありファンも多いモデルはデザインに関してはコンサバティブにならざるを得ないといえるでしょう。
クリス・バングル氏がデザインした7シリーズ(E65)や5シリーズ(E60)も賛否両論を巻き起こしましたが、シルエットだけみれば伝統的なサルーンの形を大きく逸脱するものではありませんでした。

その一方、SUVのデザインは、四角い面だけを使ったミリタリールックのデザインやその反対で流麗なデザインまで、どんな形でもSUVなら表現できると語っています。BMWは2000年にX5をデビューさせて現在につながるSUVブームのきっかけを作っただけでなく、クーペスタイルのX6を登場させてこちらもヒットさせるなど、SUVデザインの可能性を広げています。

永島氏によれば現在、BMWでSUVの生産比率は約36%を占めており、さらにこれからSUVの比率は伸びていくとみられているので、まだまだチャレンジングなデザインのSUVが誕生する可能性は高いとのことです。これからのBMWデザイン、とくにSUVについてはどんな斬新なデザインが登場するか、注目していきたいですね。

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