BMWにはバイクのエンジンを搭載したクルマがあるってほんと?

BMWにはなんとバイクのエンジンを搭載したクルマがあるのをご存知でしょうか。GSシリーズをはじめバイクも手掛ける数少ないメーカー、BMWならではとも言えますが車種は現行型のi3と過去のイセッタのわずか2車種のみです。軽量で高回転高出力なバイク用のエンジンを搭載すればキレのいいスポーツカーになりそうですが、なかなか市販化されることはありません。そこで四輪車とバイクのエンジンの違いについて解説していきます。

i3のレンジエクステンダーにはC650のエンジンを搭載

画像引用:https://www.bmw.co.jp

BMWのEV、i3には純粋なEV車に加えてガソリンエンジンを搭載した「レンジエクステンダー」があり、レンジエクステンダーに使われているのがBMWバイクのビッグスクーター、C650のエンジンをベースにしたものです。

W20と呼ばれるこのエンジンは直列2気筒DOHC 647ccで、圧縮比の変更により最高出力は38PSとC650に使用されているものに比べて最高出力を抑制し、i3に搭載するために一部形状は変更しているものの基本的な構造は同じです。

ところでこのエンジンですが直接車輪を駆動するのには使用せず、純粋にバッテリーが切れたときのための発電用となっています。一方、高速域ではガソリンエンジンのほうが効率が良いとされており、ハイブリッドカーでも高速ではガソリンエンジン主体で走るクルマが主流となっています。ただし、ガソリンエンジンでも駆動することになるとより排気量の大きなエンジンが必要になりますし、ドライブシャフトなど、通常のガソリン車同様の構成になるので車重の増加は避けられません。i3の場合はEV車としてのメリットを最大限に活かすためにあえてガソリンエンジンによる駆動は行わなかったと考えられます。BMWにはより排気量の小さいバイク用単気筒エンジンもありますが、振動の少なさを考慮して直列2気筒のW20型が選ばれたのではないでしょうか。

BMWイセッタには名車R25用の単気筒エンジンを搭載

画像引用:https://www.bmwgroup-classic.com

BMWが1955年にリリースしたイセッタには当時のBMWのバイク車、R25用の空冷4ストローク245cc単気筒を搭載していました。もともとイセッタ自体がBMWオリジナルではなく、イタリアのイソ社が生産していたものをライセンス生産したものです。もっともイソ社ではイセッタのようなマイクロカーよりも高級スポーツカーの開発のほうに舵を切っていたことから、イセッタの量産にはあまり熱心ではなく、むしろライセンス契約により収入を得ることを重視していたようです。

高級車にしかクルマづくりの経験がなく、戦後のドイツで売れるような大衆車の開発に苦心していた当時のBMWにとってはまさに渡りに船。イソ車からは生産設備についてもBMWに譲渡するなどBMWにとっては非常にありがたい提案だったのではないでしょうか。製品の質についてもイソ社のクルマよりもBMWイセッタのほうが上回っていたことから生産台数についてはBMW製のほうが圧倒的に多く、1962年までになんと16万台以上が生産されたと言われています。

もともとイソ社が製造していたイセッタ自体が空冷2ストローク236cc単気筒とバイク用のエンジンを搭載していたのでBMWがバイク用のエンジンを流用したのも自然な流れです。こんな小排気量のエンジンでもなんとか成立したのはイセッタが本格的な四輪車というよりもスクーターに人が乗るためのキャビンを載せたような、現在で言えば宅配ピザ用バイクの発展型のような成り立ちだったからです。車重が後期モデルのイセッタ300(1960年式)でも約340kgと圧倒的に軽量だったのでバイク用エンジンでもなんとか成立したのでしょう。それでも空力が良いとは言えないこのボディを時速80km/hまで引っ張れたというのはBMW製エンジンの素性が良かったことの証かもしれません。R25は当時、単気筒のバイクとしては異例のセールスを記録したので、量産効果によりエンジンの信頼性も高かったのではないでしょうか。

バイクのエンジンをクルマに搭載するのはレア

画像引用:https://www.bmw-motorrad.jp

BMWがバイクのエンジンを四輪車に流用したのは長い歴史の中でも先に挙げた2車だけです。BMW同様にクルマとバイク両方を生産しているメーカーでは日本のホンダとスズキがあります。スズキはスーパーバイク、「隼」のエンジンを搭載したレーシングカートのようなモデルをコンセプトカーとして発表し、ホンダは軽自動車にゴールドウイングの水平対向4気筒エンジンの片バンクをベースにした2気筒エンジンを搭載したことはありますが、ほぼそのままの形で市販化した例はありません。

ところでBMWが6気筒エンジンを搭載したバイクを発売したとき「このエンジンを四輪車に搭載できないの?」と思った方はいらっしゃいませんか?BMWの6気筒エンジンといえば、なんといっても「シルキーシックス」と言われるほどのなめらかさ、回転の精緻さでBMWの代名詞となってきました。

しかし近年、BMWでは環境対策への高まりを受けてエンジンのモジュラー化を進め、1気筒あたり500ccのシリンダーをベースにしてその組み合わせでより排気量の大きいエンジンを構成する方法を取っています。つまり1.5L車であれば3気筒、2.0Lであれば4気筒です。6気筒エンジンを搭載したBMWなら3.0Lになるので、かつてのように2.0Lで直列6気筒といったエンジンはラインナップされていません。単純に考えてこのバイク用6気筒エンジンを四輪車に移設することはできないのでしょうか?

バイクは最高出力、四輪車はトルクを重視

画像引用:https://www.bmw-motorrad.jp

バイクと四輪車のエンジンは何が違うのか、一番大きいのはトルクの違いでしょう。比較的排気量が近いBMW 118iの1.5L(直列3気筒+ターボ)とバイクのK1600GTの1.6L(直列6気筒)で比較してみましょう。

排気量 最高出力 最大トルク
118i(四輪車) 1,499cc 140PS/4,600rpm 220Nm/1,480rpm
K1600GT(バイク) 1,648cc 160PS/7,750 rpm 175Nm/5,250rpm

118iのほうが排気量が若干少ないものの、ターボが追加されているので出力には有利なはずですが、数値で見るとK1600GTのほうが上回っています。その一方でトルクでは逆転して118iのほうが大きくなっています。さらに注目したいのが最大トルクの発生回転数です。118iは220Nmという強力なトルクを1,480rpmというアイドリング状態からアクセルを軽く踏み込んだ回転域から発揮します。

この違いの秘密はエンジンのボア×ストロークにあります。ボアはエンジンのシリンダーの内径でストロークはピストンが上下する長さのことです。118iのエンジンはボア×ストロークが82.0mm×94.6mmとボアよりもストロークのほうが長くなっています(ロングストローク型)。一方のK1600GTは72.0 mm x 67.5 mmとストロークが短くなっています(ショートストローク型)。ロングストローク型はピストンによりクランクシャフトをつなぐ棒(コネクティングロッド)が長くなります。このため「てこ」の原理でピストンがクランクシャフトを回す力がショートストロークよりも強くなるので低速トルクを出すのに最適です。ショートストロークはコネクティングロッドが短いため、ピストンのスピードを速くすることができるので高回転型のエンジンになります。

四輪車が低速トルクを、バイクが高回転を重視した設定になっているのには車重差が大きく影響しています。118iの車重はこのクラスとしては平均的な1,390kgです。K1600GTはツアラーということもあり344kgとバイクとしては重量級ですがそれでも118iの3割以下にとどまっています。さらにドライバー以外の乗員や荷物の重量も考慮する必要があるので高回転型のエンジンでは発進することさえおぼつかなく、非常に運転しにくいクルマになってしまいます。

それでもBMWバイクは比較的回転数を抑えて低速からしっかりトルクを発揮する設定になっていますが、かつての国産のバイクではレッドゾーンが19,000rpmという超高回転型のエンジンのバイクもありました。

レース用のマシンであれば低中速域での運転のしやすさを考慮する必要はないのですが、もしこんなエンジンを四輪車に搭載するとトルクが出る回転域をキープするために常にシフト操作をしなければならず、市街地を走るだけで疲れてしまうでしょう。

四輪車のエンジンを積んだバイクはある?

画像引用:https://www.bmw.co.jp

四輪車のエンジンをバイクに搭載した例として一番有名なのは、ブラジル製の「アマゾネス」でしょう。フォルクスワーゲン・ビートルの空冷水平対向4気筒エンジンを搭載したこのバイクはかつては「世界最大の排気量のバイク」として知られていました。

なぜ、ビートルのエンジンをバイクに?と思われるでしょうが、当時から現地ではフォルクスワーゲンの現地法人があり、中でも主力生産車だったビートルは非常にポピュラーな存在だったのです。バイクを構成するパーツの中でもエンジンは最も開発が困難な部分だったので、手っ取り早くバイクの生産を立ち上げるためにノウハウのあるビートルのエンジンが抜擢されたという事情があったようです。

アマゾネスは排気量こそ1.6Lあったものの最高出力は50PS程度、さらに車重が384kgもあったと言われているので最高速度は150km/hと平凡な動力性能にとどまっていたようです。アマゾネス以外では0-400mの加速性能を競うドラッグスター用のカスタムマシンなどの特殊な例にとどまっています。

バイクの場合は四輪車に比べて車重が軽いのでそこまでの低速トルクは必要ありません。かえって低速トルクが強すぎると加速が必要以上に鋭くなって、市街地などを走るときには過剰なほどでしょう。ラフなアクセルワークだと容易にホイールスピンしてしまうなど、運転に神経を使うバイクになるはずです。こういった理由からあえて四輪車のエンジンをバイクに流用するケースが特殊な事例にとどまっているのでしょう。

四輪車とバイクのエンジン共用化は難しい

画像引用:https://www.bmwgroup-classic.com

四輪車とバイク、両方を生産しているBMWでも2車種にとどまっていること、ホンダやスズキでも共用化している事例がないことを考えれば、四輪車とバイクのエンジンを共用することの難しさが理解できるのではないでしょうか。

環境問題を始めクルマやバイクを取り巻く状況はますます厳しくなっていく一方ですが、それぞれに必要とされる特性があります。今後合理化が進んでいくとしてもバイクのエンジンを四輪車と共用することは現実的ではなさそうです。

関連記事

月別アーカイブ

ページ上部へ戻る