話題のコンセプトカー、スズキWAKUSPOとHANAREは市販化されるの?

2019年の東京モーターショーでスズキが出品した2台のコンセプトカー、WAKUSPO(ワクスポ)とHANARE(ハナレ)はユニークなコンセプト、デザインなどで話題になりました。そこで気になるのがこの2台の市販化です。これまでもスズキはモーターショーで出品したコンセプトカーを市販化した実績もあります。今回の記事ではこの2台が市販化される可能性や、また市販化する場合にはどんな形で発売されるかについてこれまでのスズキのコンセプトカーの例も振り返りつつ解説していきます。

クーペからワゴンへ変身!レトロモダンが新鮮なWAKUSPO

画像引用:https://www.suzuki.co.jp

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WAKUSPOは家族3世代で楽しさやわくわくを共有できるクルマをコンセプトに作られました。デザイナー自身が、「スズキのオリジンとも言えるスズライトや初代フロンテをモチーフにした」と語るとおり、ちょっとレトロな印象のデザインですが、それがかえって新鮮です。といってもLEDを使って表情を変えるフロントグリルなど未来的なイメージがあり単なる懐古趣味ではないところに新しさを感じさせます。

このWAKUSPO最大の特徴はルーフが変形してクーペスタイルからワゴンスタイルへ「変身」するところです。ワゴンスタイルに変身すると自動的にリアシートも後ろに下がるなどユニークな機構も採用されています。このクーペスタイルからワゴンスタイルへ「変身」するというコンセプトですが、実は先例があります。日産が1986年にリリースした「エクサ」にはノッチバックの「クーペ」とワゴン風の「キャノピー」の2種類のボディが用意されましたが、その違いはリアハッチの部分のみでした。輸出仕様ではリアハッチの取りつけ部分に互換性を持たせていたのでリアハッチを交換してクーペからキャノピー、あるいはその逆への変身を可能にしていたのです。残念ながら日本仕様では諸事情によりこの交換システムの採用は見送られてしまいました。実際問題として、リアハッチは大きくて重量も約25㎏と重く、一人での取り外しはまず無理ですし、日本の住宅事情では置いておく場所にも困ったでしょうが…。

WAKUSPOのコンセプトはこれを自動化したものといえ、一見突飛なアイデアにも思えますが、ルーフを自動で折りたたむことによりクーペからオープンに変身するリトラクタブルハードトップ車が既に市販されていることを思えば意外に実現可能な機構ではないでしょうか。

市販化にあたりネックがあるとするならばコストの部分とルーフの変形機構による重量増をどう抑えるかという点かもしれません。

HANAREは動くリビングルーム

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もう一台のコンセプトカー、HANAREは車輪にモーターを組み込んだEVです。

一見、普通のワンボックスワゴンに見えるデザインですが、驚くことに車内に入ると当然あるはずのハンドルやシフトレバー、アクセルやブレーキが見当たりません。いや、それどころか運転席さえもなく、とても車内とは思えません。ソファのようなシートが置かれたインテリアはまるでマンションのリビングルームのようです。

ボディサイズは全長×全幅×全高=3,900㎜×1,800㎜×1,900㎜と全幅を除けば比較的コンパクトですが、何しろ車内には「何もない」ことからサイズ以上の広々感があります。

スズキによればHANAREとは「離れ」の意味で、移動する小さな家をコンセプトにしたとのことです。2040年頃の完全な自動運転(レベル5)が実用化された時代を想定したもので、室内には大型モニターが装備され移動中にも映画やゲームなどが楽しめるとされています。

HANAREについて、スズキではたとえ自動運転が実現した社会でも、「自分だけのクルマが欲しい」、という所有欲はなくならないと想定してコンセプトを決めたとされています。

機能面では未来的ですが、家の建材をイメージしたというエクステリアデザインはハスラーを思わせるフロントグリルやSUVイメージの独立したフェンダーなど、スズキらしさも満載で単なるハコに見せない工夫もされています。

コンセプトカーというと未来的なイメージを強調するために曲面主体のなめらかでつるっとしたデザインのものが多い中、HANAREのデザインは非常に現実的な仕上がりとなっているのが特徴です。

コンセプトカーをメーカーが作る理由は?

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そもそも、自動車メーカーはモーターショーのために一台だけのコンセプトカーを作るのでしょうか。

メーカーがコンセプトカーを作る理由として考えられるのは以下の点です。

  • 先進技術力や将来のビジョンをプレゼンテーション
  • 新たなデザインの提案
  • 新型モデルの顔見せ

今回スズキが発表したHANAREは先進技術のプレゼンテーション、WAKUSPOは新たなデザインの提案といったところでしょうか。

また新型モデルの顔見せについては、スズキではコンセプトカーではなく参考出品と呼んでいます。こちらは新型モデルほぼそのままと言って良いもので近いうちに市販化されることを前提としたものです。今回の東京モーターショーで発表されたクルマの中では、ハスラー・コンセプトが該当します。ハスラー・コンセプトは近いうちに登場することが噂されている新型ハスラーそのものと言われています。実際に前回、2017年の東京モーターショーで発表されたスペーシア・コンセプトはインテリアカラーなど一部が変更されたものの、ほぼそのままの形で市販化された例があるので、ハスラー・コンセプトが新型ハスラーとして登場することは確実でしょう。

コンセプトカーは基本的に市販化を前提とはしていないのですが、これから発売されるモデルの予告編的な役割を果たすこともあります。その一例としてスズキが2017年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー、e-SURVIVOR(イー・サバイバー)を紹介しておきましょう。

e-SURVIVORはEVのSUVで2シーターのオープントップ、まるでレーシングバギーのようなデザインとなっています。室内に目を移すと、そこには立体表示の球体モニターや液晶表示を組み込んだハンドルなど、およそ市販化されるクルマとはほど遠いデザインになっています。

しかし、エクステリアデザインをよく見るとスリットの入ったフロントグリル、丸形のヘッドライト、そして逆台形のバンパーなど、そのイメージや形状は2018年に登場した新型ジムニーにしっかりと反映されています。2017年にはすでにジムニーが近々モデルチェンジするという噂も出始めていた頃なので、スズキはコンセプトカーのイメージに新型ジムニーのデザインコンセプトを反映させたのではないでしょうか。

反響次第ではコンセプトカーが市販車になることもある

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コンセプトカーは、市販化を目的としないまったくのアドバルーンなのか、と言うとそうではなく、実際に市販化されたスズキのコンセプトカーもあります。

有名なところでスズキ・カプチーノの例を紹介しましょう。カプチーノの原型は1989年の東京モーターショーにスズキが出品したULW-P89になります。ULW-PとはUltra-Light Weight Projectの略で、カーボンコンポジットのバックボーンフレームにアルミの外装を組み合わせて重量をなんと480㎏に収めるなど、その名のとおり軽量化を追求したプロジェクトだったのです。オープン2シーターのボディはまさに市販化されたカプチーノそのもので非常に完成度が高く、開発段階から自動車専門誌への露出を積極的に行ったことから、ファンの間では市販化への要望が高まっていました。東京モーターショーでも当然、非常に大きな反響を呼んだのですが、スズキ自身はあくまでコンセプトカーで市販化までは検討していなかったとのことでした。

しかし、スズキの鈴木修社長(当時)が東京モーターショーのテレビ番組において、有名な自動車評論家の故・徳大寺有恒氏からインタビューされて、唐突に「このクルマは市販化しますよ」と答えてしまったことから事態は急変します。この発言に開発陣が腰を抜かしたのは言うまでもありません。市販化の要望が高まっていた上に、社長がメディアで発言したことを、さすがに「あれは嘘でした」というわけにもいかず急ピッチで開発が進められた結果、無事にカプチーノとして1991年に発売されたというわけです。まさに「ひょうたんから駒」な話ですが、スズキらしいと言えばスズキらしいエピソードですね。

カプチーノ以外にも1999年の東京モーターショーで発表されたMRワゴンの例があります。MRとはミッドシップレイアウトの略でエンジンを後輪前の床下にレイアウトしていたことに由来しており、箱型のワゴンとは一線を画す柔らかいデザインが高い評価を得ました。

東京モーターショーでの反響を受けて2001年にMRワゴンはコンセプトカーとほぼ同じデザインで市販化を果たしますが、駆動方式は一般的なFFに変更されていました。床下ミッドシップレイアウトはフラットなフロアで広い室内を実現することが可能になりますが、整備性は悪くなりますし、パワートレーンを専用設計することでコスト高にもつながるというデメリットもあったことが変更の理由と考えられます。

ちなみにMRワゴンの名称はそのまま残りましたが、スズキではMRはミッドシップレイアウトの略ではなく、「マジカル・リラックス」の略である、とちょっと苦しい?説明をしているのも面白いですね。

カプチーノにしてもMRワゴンにしても高い評価を得たコンセプトカーのデザインはそのままに、高価すぎるボディ構造やエンジンレイアウトなどといった中身の部分を現実的なものに置き換えて市販化するという方法が採用されています。

今回のWAKUSPOやHANAREも変身や自動運転といったコンセプトそのものは斬新で技術的な難易度は高いのですが、デザインは基本的に市販車の延長線上にあるものです。モーターショーでの反響によっては市販化される可能性も全くないとは言い切れないのではないでしょうか。

とくにWAKUSPOのデザインはファッションやアートなどに造詣の深い方からも評価が高く、ファッションデザイナーの菊池武夫さんも「実際に発売されたらぜひ乗ってみたい。シンプルなデザインですごく可愛らしい」と、絶賛していたほどなので、なんとか実現してほしいですね。

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