まさに近未来 BMWの電動バイク「Vision DC Roadster(ビジョンDCロードスター)」が登場

バイクが開発されて以来、ガソリンを使って走ることが常識となっており、その代替となるエンジンを各社が模索している状態が長く続いていました。クルマの分野では電気自動車という言葉が浸透しているように、ガソリンから電気へとエネルギーの過渡期に突入しつつあります。

そんな中、BMWの本拠地でもあるドイツ・ミュンヘンで「#NEXT GEN」というイベントが開催されました。これは、BMWグループが未来を見据えたコンセプトモデルや取り組みを発表するものなのですが、そこで人々の関心を集めた一台が発表されたのです。

それこそが、「Vision DC Roadster(ビジョンDCロードスター)」という名前のコンセプトバイクです。名前だけでは分かりにくいのですが、この「ビジョンDCロードスター」はガソリンを使わない“電動バイク”として開発されています。とくに、BMWはエンジンに強いこだわりがあるブランドとしても知られているだけに、本格的な電動バイクの開発が遅れていると見ていたファンもいるほど意外性のある発表となりました。

では、このBMWが発表した「ビジョンDCロードスター」とはどういったバイクなのでしょうか。そのポテンシャルと未来へのビジョンを詳しく見ていこうと思います。

C=evolution以来の電動バイク

BMWが電動バイクを発表したと聞くと、思わず驚いてしまう人が多いのではないでしょうか。それもそのはず、BMWが電動バイクとして市販化したものは2017年の「C=evolution」以来だからです。この「C=evolution」は大きなくくりではバイクと分類されますが、いわゆる”電動スクーター”と分類されるものであります。

「C=evolution」の開発は、欧州で高まる電動スクーターの人気と「BMW i3」の販売に感化された部分が大きく、将来的に電動バイクの普及を目指すための試金石とは異なる立ち位置にあると考えていた人が大半を占めていました。そのため、ネイキッドやツアラーと分類されるような本格派のバイクを電動化するという動きはしばらくないと考えていたのです。それだけに、今回のイベントで発表された「ビジョンDCロードスター」は、ファンにとって寝耳に水と言えるものとなりました。

では、今回の「ビジョンDCロードスター」は「C=evolution」と全く関係がないのでしょうか?答えは、半分はYESで半分がNOといったものになりそうです。

「C=evolution」は電動スクーターということもあり、レースモデルやツアラーモデルのように飛び抜けた性能が求められたものではありませんでした。しかしながら、最高出力が48PSの空冷式リチウムイオンバッテリーを搭載しており、電動バイクならではの加速力を加味すると、0-50km/hでは「S1000RR」よりも早いと開発者が言うほどの性能が備わっていました。

同時に、電動スクーターのような街乗りがメインとなる開発が主だったため、「ビジョンDCロードスター」のようなスポーツバイクに流用できる部分が少ないという点もあります。つまり、「C=evolution」を開発したノウハウは活かしつつも、新たな開発手法や技術を採用することで生み出された全く新しいバイクが「ビジョンDCロードスター」なのです。

継承されていくボクサーエンジン

画像引用:https://www.press.bmwgroup.com

「C=evolution」では空冷式のリチウムイオンバッテリーが採用されましたが、「ビジョンDCロードスター」ではどのような駆動機構になるのでしょうか。おそらく発表を聞いた多くのファンが、伝統的なボクサーエンジンがなくなってしまうのではないのかということを心配しているのではないでしょうか。結論から言うと、電動化されるためにボクサーエンジンそのものは搭載されていません。しかしながら、ボクサーエンジンのノウハウとスタイルは継承されたデザインとなっています。

これは、今回の開発コンセプトが「象徴的なボクサーエンジンを、電気モーターとバッテリーに置き換えたら?」であり、ボクサーエンジンの象徴性を電動バイクでも表現しようという試みがあるためです。発表された「ビジョンDCロードスター」を見てみると、ボクサーエンジンを冷却するために冷却リブと換気装置が左右に搭載されていることが分かります。これは、エンジン部分に大型のバッテリーが装着されており、その冷却装置をツインボクサーエンジンのような形で配置したデザインとなっています。つまり、これこそが今回の命題に対する大きな答えであり、ボクサーエンジンが電動化されたとしてもBMWのアイデンティティは継承できるという意思表示なのです。

先進的なデザインと機能

画像引用:https://www.press.bmwgroup.com

「ビジョンDCロードスター」がデザインと技術的な工夫で、伝統的なボクサーエンジンを表現することに成功しました。しかし、それだけに留まらないのが「ビジョンDCロードスター」であり、BMWの開発レベルの高さでもあります。目にした瞬間に先進的であることを訴えかけるようなフレームデザインは、燃料タンクが必要ないからこそ実現できるものとなっています。燃料タンクが配置されるであろう部分には、フレームの左右を繋ぐようにパイプが設けられており、シート部分にまで延びているようなデザインです。

「ビジョンDCロードスター」は、バッテリーの周囲に重要機構がまとめて配置されており、カーボンやアルミのフレーム部分は赤や黒で配色されています。

また、伝統的なBMWらしさを醸し出すフロントサスペンションのデュオレバーやシャフト部分はデザイン的というよりも、機能的な美しさを追求したスタイルになっています。
一方でデザイン的な主張はヘッドライトとテールランプで行われており、フラットデザインのようなヘッドライトのU字型LEDライト(テールランプはC字型)は小さくもロービームとハイビーム両方の機能を備えています。さらに、タイヤはメッツラー社が蛍光パーツを埋め込んだ特注品となっているなど、全てのデザイン1つ1つにBMWのこだわりを伺えます。

バイクと人が1つに

画像引用:https://www.press.bmwgroup.com

今回の発表では、「ビジョンDCロードスター」にあわせて新たなライダー用装備も公開されました。

もっとも進化しているのは2ピーススーツで、プロテクターを装着していないかのように見せるデザインが印象的な一着です。さらに、このスーツには磁石によって専用のリュックサックを装着することができるなど、ツーリングやデイリーユースにも大きな変化の波を与えるような試みが模索されていることが分かります。とくに、デジタル機器が進化して以来、バイクのメーターなど急速なデジタル化が受け入れられてきた部分もあれば、今回のような電動バイクが普及するに至ってないなどの課題も顕在化しています。

そのような中で、BMWは電動バイクを出すだけでなく、人が身につけるアクセサリーからも進化を促そうとしています。つまり、BMWは単純なバイクの電動化への挑戦だけではなく、人がバイクに乗るという生活そのものに新たな変化を与えようとしているのです。

ビジョンDCロードスターの未来

では、今回発表された「ビジョンDCロードスター」は市販化されるのでしょうか。BMWがコンセプトモデルを公開するときは、市販化も視野に入れられていることも多いために期待はできるという見方が強いです。

一方で、あくまでも採算を度外視したものがコンセプトモデルだけに、すべてのスペックが維持されたままの市販化ではなく、ボクサーエンジンスタイルを踏襲した電動バイクとして市販化されることが期待されます。BMWだけではなく、バイクの未来にも大きな影響を与えることになるであろう「ビジョンDCロードスター」。まずは、その姿を日本でも見ることのできる日を楽しみに待ちましょう。

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