自動車業界に大きなインパクトを与えたクラシックMINIですが、そんなクラシックMINIと同じ革新的なサスペンションを採用した自転車があるのをご存じでしょうか。クラシックMINIの時代からMINIと自転車とは深いつながりがあります。MINIになってからは自転車競技のサポートカーになるなど、自転車とMINIの楽しい関係について解説していきます。MINI+自転車の新しい楽しみ方も提案していきます!
クラシックMINIを手掛けたもう一人の天才、モールトン博士
クラシックMINIを設計したのはアレック・イシゴニス氏ですが、もう一人重要な働きをしたエンジニアがいます。それが今回紹介するアレックス・モールトン博士です。偶然ですが二人共同じ名前ですね(アレックス、アレックは共に”Alexander”の略称)。現代の軽自動車よりもはるかに小さなボディに既存の1L直列4気筒エンジンを押し込んだ上で居住空間を最大限確保するためにクラシックMINIではエンジンと変速機を2階建てにして前輪を駆動する(FF)という革新的なレイアウトを採用しました。
しかしFFはタイヤを駆動するための装置をフロントに配置しなければならないのでさらに空間を確保する必要がありました。このため、10インチという当時としても考えられないほどの小径タイヤを特別にダンロップに手配するなど、ありとあらゆる対策が取られましたが、もっとも有名なのがモールトン博士が考案したラバーコーン・サスペンション です。
通常のクルマのサスペンションは金属製のコイルばねを使って車体にかかる衝撃を吸収します。モールトン博士はクラシックMINIの狭いフロントセクションにサスペンションを押し込むためにコイルばねではなく円錐形のラバーコーンと呼ばれるゴムの塊を用いたのです。これによりクラシックMINIは小さな車体の四隅にタイヤをレイアウトして居住空間を最大限確保することができました。
イシゴニス氏はMINIの前に手掛けていたイギリスの高級車、アルヴィスのプロジェクトでコンサルタントとして参加していたモールトン博士と出会っていました。 アルヴィスは残念ながら資金面のトラブルで頓挫してしまい幻のプロジェクトとなってしまいましたが、少なくともクラシックMINIの開発においてはイシゴニス氏とモールトン博士が出会うきっかけをつくったという点では意味のある失敗だったと言えるでしょう。
ラバーコーンサスペンションが「ゴーカートフィーリング」をつくった!
クラシックMINIが採用したラバーコーンサスペンションは一般のコイルばねに比べてサスペンションストローク(タイヤの上下する長さ)が短くなったことで車の上下動がほとんどない、クラシックMINIの代名詞ともなったゴーカートフィーリング を生み出しました。さらにクラシックMINIではスペース効率を重視し、足回りに当時としては珍しかった独立懸架方式を採用して重心が低くなっていたのもプラスに作用しました。ジョン・クーパー氏がチューニングしたクラシックMINIはレースでもパワーにまさる大排気量車を圧倒する走りを見せつけましたが、それもこの高いコーナリング性能あってのことでしょう。
これまでにラバーコーンサスペンションを採用したクルマはクラシックMINIだけです。ラバーコーンはゴムの塊なので金属バネよりも劣化が早く、MINIのような軽量車であればともかく重量のあるクルマには向いていなかったからでしょう。
BMWが新たにMINIを手掛けるにあたってもラバーコーンサスペンションの採用は見送られ、一般的なコイルばねが用いられましたが、あえてサスペンションストロークを短くすることでゴーカートフィーリングを再現しました。
もちろん、単純にサスペンションストロークを短くするだけでは乗り心地に悪影響が出てしまいますが、MINIの場合はこのクラスとしては異例ともいえる高剛性のボディにより、路面からも突き上げをがっちり受け止めることで不快な揺れを止め、軽快なコーナリング性能と快適性の両立を図っています。
さらに現行型でイメージリーダーとなるJCWではブレーキ・トルクベクタリングを採用 しています。これはコーナーで内側のタイヤにほんの少し自動的にブレーキをかけることでアンダーステアを解消して曲がりやすくするというものです。最新の技術を駆使してさらにアップデートしたゴーカートフィーリングを実現するという信念に基づいてのことなのかもしれません。
クラシックMINIと同じサスペンションの自転車がある?
クラシックMINIの後でラバーコーンサスペンションを採用したクルマはなかったものの、モールトン博士自身が手掛け、自らの名前を冠した自転車、「アレックス・モールトン」にラバーコーンサスペンションが採用されました。クラシックMINIが革命的な小型車だったのと同じく、アレックス・モールトンも自転車の常識を打ち破った画期的なプロダクトでした。
通常の自転車よりも小さく、空気圧の高いタイヤを採用して空気抵抗を減らし、高剛性のフレームとラバーコーンを使用したサスペンションを装備して高い操縦安定性と乗り心地の良さを両立していたのです。アレックス・モールトンは見た目の印象を裏切る速い自転車で、数々のレースにも出場して優秀な成績をおさめていました。なんだかこんなところにもクラシックMINIとの共通性を感じませんか?
アレックス・モールトンは大ヒットを記録、当初はモールトン博士の自邸内で家庭内手工業的に生産をしていましたが、すぐにそれでは追いつかなくなり、なんと当時MINIを製造していたBMCに生産を委託していたほどです。その後、紆余曲折はありましたがモールトンブランドの自転車は現在でも人気で、本国のイギリスや日本をはじめ世界中に愛好家がいます。
モールトン博士は1920年生まれ、もし生きていれば今年(2020年)100歳を迎えていたはずでした。残念ながら2012年に92歳で生涯を終えていますが、モールトン博士のスピリットは今も生きています。
MINIにも自転車が載せられる!
アレックス・モールトンには折りたたみ機構はついていないのですが、簡単にフレームが分解できる上、コンパクトな小径タイヤを装着しているので小さなクラシックMINIにも搭載可能でした。クラシックMINIの愛好家の方にもアレックス・モールトンは人気でガレージに一緒に並んでいる写真などをよく見かけます。それ以外のロードバイクに乗られている方はやはりルーフにサイクルキャリアを取りつけて搭載するのが一般的です。ルーフに自転車を積んだクラシックMINIは非常に可愛らしくお洒落で、室内空間も有効に使えますが、愛車をルーフに載せるのは万一のときに心配、という方もいらっしゃるでしょう。
とはいえ、さすがにクラシックMINIへ通常のロードバイクを積むのは無理では…と思っていたのですが、なんとロードバイクを室内に載せている方がいました! 前後輪とサドルを外してからフレームを前後シートの間に入れ、残りのスペースにタイヤを立てることでぴったりと収まっていました。とはいえ、ロードバイクの後輪を外すのは慣れていないとやや手間ですし、ママチャリのように簡単にタイヤが外せないものやフレームのサイズが大きいMTBではちょっと難しそうです。
現行のMINI(3ドア)はクラシックMINIに比べればずいぶん大きくなったとはいえ、全長は約3.8mと依然としてコンパクトなクルマであることに変わりはありません。しかし、意外にもMINIの室内にロードバイクを搭載することは可能 なのです。
実際にチャレンジされた方がいましたが、手順は次のとおりです。
- リアシートを倒して、助手席をめいっぱい前に出してから背もたれを倒す
- リアシート背面及び荷室には汚れないように毛布などで養生しておく
- ロードバイクの前輪のみを外す
- リアのハッチドアを開け、横倒しにしたロードバイクをギアがあるほう(右側)を上にして後輪から入れていく
この方法は助手席が完全なデッドスペースになってしまい実質上一人乗りになってしまいますが、それでも自転車が搭載できるかどうか悩んでいた方には朗報ではないでしょうか。ボディ後半を延長した5ドアであれば助手席も通常どおり使用することができるでしょうし、もちろん一回り大きな車体のクラブマンやクロスオーバーであれば前輪を外さずに積み込むことも可能です。
MINIクラブマンを自転車レースのサポートカーに使うチームがある
ツールドフランスなどの自転車レースの中継でルーフに競技用のロードレーサーを複数台搭載したステーションワゴンを見かけたことはありませんか?その正体はスペアの自転車に加えタイヤなど、ありとあらゆる交換部品や選手の補給食、水などを積み込んだ「サポートカー」です。自転車競技のサポートカーはルーフにスペアの自転車を2台、交換用のホイールを10本ほど、さらに荷室にもホイールを10本程度搭載できる容量が必要とされます。さらに競技中は峠道の下りで時速80km/h以上のスピードで走るロードレーサーを追いかけて走るだけの運動性能も求められるなど、クルマとしての基本性能の高さが試されます。
そんなサポートカーにMINIクラブマンを使用しているチームがあるのをご存じでしょうか。それがドイツに本拠地を置くチーム・サンウェブ(Team Sunweb)で、自転車競技の最高峰と呼ばれるUCIワールド・ツアーに参戦しています。
サポートカーとしては比較的コンパクトな部類に入るMINIクラブマンですが、自転車を9台搭載できるルーフラックを装備するなど積載性は十分、室内からレースの状況をライブ映像で確認できるモニターも装備し、自転車や選手の状態を常にチェックできる機能も備わっています。ボディカラーもブラックをベースにルーフを赤くペイントしたスタイリッシュなもの。各所に貼られたスポンサーステッカーがいかにもレース専用といった雰囲気で、自転車レース好きの方にはカスタムの良いお手本になりそうですね。