バイクに求めるものは人によって違えど、見た目のカッコ良さと速く走ることのできるマシンスペック、絶対的な信頼性と安全性能を極めることがバイク製造においては必要です。そして、それらを担保するのは緻密で間違いのない車体設計と製造ラインです。
どのバイクメーカーにおいても車体設計と製造ラインでは機械だけで作業を完結することはできず、必ず人の手が介入しています。そのため、工芸品のように製造に関わる人の技術力というものがダイレクトにマシンに反映されるため、各メーカーとも品質を保つためにも独自の厳格な基準とマニュアルによって管理・製造されています。
そして、BMW Motorradにおいても厳格な基準と管理のもとで多くのバイクが製造されており、その数は1日最大800台にも及びます。一見すると手作業が入りながらも800台を製造しなければならないとなると、どうしても小さなミスや不具合が入り込む余地があるのでは?と思われるかもしれません。
では、手作業が入る緻密な工程があるにも関わらず、どのようにして世界トップクラスの品質を維持し続けているのでしょうか。実はドイツに本拠地を構えるBMW Motorradらしく、”Made in ベルリン”という言葉にこそ秘密があるのです。
マイスターとBMW Motorrad
ベルリン工場での製造の様子
ドイツでは工芸品のように人の技術力そのものが必要とされるモノづくりにおいて、”マイスター”という制度が存在しています。マイスターとはドイツ語で親方や名人といった意味を持つ言葉で、マイスター制度と呼ばれる職能訓練制度で最上位の職人を指している名誉ある呼び名なのです。例えば、大工や時計職人はもちろんのことパン職人やバームクーヘン職人においてもマイスター制度が採用されており、昔から多くの職人がその技術を研鑽してきました。それはモノづくりに関わる人が製品そのものにプライドをかけている証拠でもあり、ドイツが技術立国としての地位を確立することができた大きな要因でもあります。
そのためドイツでは良い製品づくりにはマイスターのような良い職人が必要とされており、モノづくりに携わる人すべてが職人としてのプライドをもってマイスターの称号を得るためにも研鑽を重ねる文化が存在しているのです。もちろん、その文化と精神は現在でも継承されておりBMW Motorradのバイク製造でも重要な役割を果たしており、その代名詞こそが”Made in ベルリン”を掲げるベルリン工場なのです。
BMW Motorradのベルリン工場は1969年からその火を絶やすことなく動き続け、現在では約2000人の従業員がバイクづくりに従事しています。工場稼働当初と比べても製造する種類や台数は増え続けると同時に、最新のテクノロジーを有した製造ラインで効率化も図られています。とはいえ、クルマと比較しても本体サイズが小さく構成パーツも精緻なため機械だけでオートメーション化を進めることは難しく、必ず人の手作業が入り込むことになります。そのため、そこで働く従業員の意識と技術力が完成するバイクの出来栄えを左右しますが、BMW Motorradのベルリン工場にはマイスターの精神を受け継ぐ従業員が多くいることを忘れてはいけません。
つまり、BMW Motorradが高い品質を持ったバイクをつくり続けることができるのは、マイスターとしての自覚を持った多くの従業員がいるからであり、それこそが”Made in ベルリン”の真価なのです。
Made in ベルリンの真価
BMW Motorradのベルリン工場には約2000人の従業員が働いていると前述しましたが、そのうちマイスターの精神を受け継ぐ職人はどれくらいいるのでしょうか。例えば、バイクに必要な細かなパーツを組み合わせている人たちこそが職人でしょうか。それとも、完成したバイクを最終チェックする人たちが職人なのでしょうか。
その答えは、ベルリン工場で働く従業員全員がマイスターの精神を持った職人であると言えるでしょう。なぜなら、従業員全員がBMW Motorradとしての環境・社会的責任を背負っているからです。
BMW MotorradをはじめとしたBMWグループは環境に配慮したモノづくりを掲げており、工場の自家発電はもちろんのことバイクを出荷する際にも再利用可能なスチール製輸送ラックを使用しています。また、ユニークな取り組みとして全従業員がミツバチの減少問題について理解するためにBMWオリジナルの巣箱を設置するなど、バイクづくを取り巻く環境についても担い手として理解を深めています。
また、ベルリン工場は地理的特性から都市が抱える問題とも密接しており、従業員が主体的にそれらの問題を解決しようと活動しています。例えば、ベルリン市民へ交通安全を啓蒙する活動を行ったり、難民問題に対しては食品やお金を集めて寄付するなどBMW Motorradの社会的責任を全従業員が自ら果たしているのです。
つまり、ベルリン工場で作られるのは単にバイクだけではなく、BMW Motorradとして社会的貢献を行なっている従業員が携わっているというブランド価値を持ったバイクであり、それこそが”Made in ベルリン”の真価でもあります。そのため、環境問題や社会問題の関心が高まる中でも多くの人に支持され、愛されるブランドとなっているのです。
歴史に裏づけられた職人技
BMW Motorradのベルリン工場が特別である意味は、社会的貢献だけでなく長い歴史における技術力の研鑽と蓄積にもあります。BMW Motorradが発売した初のバイク「BMW R32」は1923年に発売されましたがベルリンにあった工場では航空機用のエンジンを製造しており、この流れはドイツ敗戦後に連合国に接収・解体されるまで続きました。
復興期には鎌などを製造していましたが、大きな転機が訪れたのは1966年に販売された「R60/2」の製造を開始したことでした。1969年にはエンジンを含むバイクの生産すべての拠点がベルリン工場へと移設され、現在のBMW Motorradベルリン工場へと続いていくのです。つまり、戦前・戦中は航空機のエンジンを。戦後はバイクへと転換したベルリン工場は、長い歴史の間で独自の技術を研鑽・確立していく一大拠点としての役割を果たしていました。特に当時のバイク製造ラインではすべて手作業で構築されていたため約400人の従業員で1日30台程の少量生産でしたが、それらの品質は高く評価され世界中にBMW Motorradのファンを増やすきっかけともなりました。
この後、1983年に現在のようなオートメーション設備が発明されるまでは手作業の工程が多かったことから職人技が必要とされる場面も多く、現在までマイスターの気質が強く残ったのです。歴史に翻弄されるように生産していたものは変遷していましたが、そこで働く従業員の技術力だけは蓄積・継承され続けたことで現在の”Made in ベルリン”という揺るがない基礎ができあがりました。そして、これからはベルリンだけではない世界中の拠点と切磋琢磨しながら、より高いレベルでのバイクづくりが行われながら新たなベルリンの精神が受け継がれていくことでしょう。
まとめ
今回はBMW Motorradが持つベルリンの精神、”Made in ベルリン”について話してきました。現在のBMW Motorradはグローバル企業として世界中で親しまれていますが、それを支えたのが現在のベルリン工場でした。戦前から戦後まで激動の歴史に翻弄されながらも多くの従業員が技術力を研鑽し、現在まで継承し続けています。そして、現在では技術力だけではなくBMW Motorradの社会的責任を従業員自らが果たしていたり、ベルリンという都市の問題解決に市民と共に挑んだりとBMW Motorradの掲げる精神を体現するような存在でもあります。
今後も“Made in ベルリン”はBMW Motorradの基礎として受け継がれていき、いずれはBMWグループの全体を支える存在に成長していくかもしれません。もし、あなたがこれを読んでベルリン工場に興味を持ったなら、ぜひ公式ホームページから工場見学を申し込んでみてください。ドイツに足を運ぶのは…というみなさんも、まずは公式ホームページからベルリン工場について調べてみてはいかがでしょうか。きっと、ベルリン工場のことを知ったなら、BMW Motorradのことをもっと好きになることでしょう。