高級車と呼ばれるクルマを製造しているメーカーはいくつもありますが、その中でもとりわけ人気が高いのがBMWとメルセデスベンツです。
堅牢かつラグジュアリーな設計とデザインで世界中の人々を魅惑する名車を世に送り出してきており、とくに日本における認知度と人気では他海外メーカーを圧倒する勢いがあります。ここ数年の輸入車台数を見てみるとBMWとメルセデスベンツが首位争いを繰り広げており、日本でのシェアもますます拡大を続けています。もちろん、高級車としてのイメージが強いBMWやメルセデスベンツに乗ること自体が一種のステータスシンボルとなっているため、どうしても気軽に購入できない高価格帯のモデルしかないと思っている人も多いのではないでしょうか。
しかし、両社ともに売り上げを伸ばしているのがいわゆる”スモールクラス”と呼ばれる小型セグメントのモデル「BMW 1シリーズ」と「メルセデスベンツ A-Class(セダンタイプを含む)」なのです。
日本における自動車市場の半数を占めるのが、軽自動車やコンパクトカーと呼ばれる小型のクルマです。「メルセデスベンツ A-Class」にはセダンタイプもラインナップされていますが、全長が約120mm異なるだけでホイールベースやプラットフォームは共通のため一般的なセダンタイプより小さく、“スモールクラス”にカテゴライズされています。この“スモールクラス”を選択する理由として税金や維持費の面でも有利という点もありますが、何よりも狭い道路が多い日本では利便性が良く運転しやすいという側面からも老若男女、世代を問わずに強い支持を受けています。
つまり、日本でシェア拡大を加速したいBMWやメルセデスベンツにとって、スモールクラスである「BMW 1シリーズ」や「メルセデスベンツ A-Class」は非常に力を入れた重要なモデルとして位置づけられているのです。両社ともに質実剛健なクルマづくりをしていますが、果たしてスモールクラスにおいてはどちらに軍配が上がるのでしょうか。
モデルチェンジ後は見た目も大きく変化
「BMW 1シリーズ」と「メルセデスベンツ A-Class」はともにフルモデルチェンジを経ており、2019年に「BMW 1シリーズ」、2018年に「メルセデスベンツ A-Class」が現行モデルとなる車種を世に送り出しています。
両社の現行モデルを見比べてみると、まず目につくのはメーカーの個性が表れている外観です。「メルセデスベンツ A-Class」は、ベースデザインこそ先代モデルを踏襲していますが角形のヘッドライトやピラー、ボディラインは同社EセグメントのCLSを彷彿とさせるデザインへと変更されています。そのため、正面から見たときのデザインの重厚感や高級感というものは増しており、現行上位モデルのフロントデザインが好きな人にとっては嬉しい変更点と言えるでしょう。
一方で、「BMW 1 シリーズ」はメーカーを象徴する”キドニーグリル”の変更が目につくのではないでしょうか。
中央部分が連結し大型化したデザインはスモールクラスと思わせない存在感があり、LEDへと変更されたヘッドライト部のデザインを際立たせています。側面は両社ともにキャラクターラインが抑えられており、この辺りは他のメーカーと同様に自動車業界全体の流行を取り入れたデザインになっています。
リア部分については、「メルセデスベンツ A-Class」はフロント部分と対照的なほどにシンプルで落ち着いたデザインとなりました。4ドアセダンタイプと5ドアハッチバックタイプが用意されている「メルセデスベンツ A-Class」ですが、より丸みを帯びた5ドアハッチバックタイプのデザインでは三角形のテールランプが強調されるようデザインされているため、同社他モデルと比較すると”A-Class”らしい個性が表れているのが分かります。
対照的に大きくデザインを変えてきたのが「BMW 1シリーズ」。先代モデルとテールランプ部を比較すると明らかです。現行モデルはL字型のデザインへと変更しており、デザインラインを大きくいれるなど走りを重視したスポーティーな雰囲気が伝わるようなものに仕上がっています。
BMWは大きな決断、ベンツは堅実に
外装のデザインでは両者の特徴が表れていましたが、スペックはどうでしょうか。
「メルセデスベンツ A-Class」は外観からも分かるのが室内空間の拡張で、全長を120mm、ホイールベースで30mm延長しているため後部座席もより広く感じることができます。ラゲッジルームも同様に29L大きくなり370Lと、日常生活での利便性も向上されています。また、搭載されるエンジンは3種類あり、スタンダードな”A180”エンジンが1.4L直列4気筒直噴ターボエンジン、最上位モデルはAMG仕様の2.0L直列4気筒直噴ツインスクロールターボエンジンとなっています。
このエンジン、先代モデルよりも排気量が小さくなっているものの低回転域での出力を向上させているため、よりスムーズな加速が可能になりロングドライブや高速などでは快適にドライブを楽しむことができるでしょう。
一方で大胆な変革を遂げたのが「BMW 1シリーズ」。従来のFR駆動からFF駆動へと変更する決断を下しました。FR駆動方式を伝統的に採用してきたBMWにとって、新たに主軸とした1シリーズでFF駆動方式へと大きく舵を切ったことは非常に大きな転換点と言えます。
FF駆動方式へ変わった利点としてまず挙げられるのは、室内空間とラゲッジルームが広くなったことです。コンパクトカーや軽自動車でFR駆動を採用しない理由には、コストの他にスペースを圧迫しないというメリットがあります。一般的にFR駆動方式のクルマは構造上、エンジンを縦に積む必要があり車体スペースを圧迫してしまいます。しかし、FF駆動方式ではエンジンを横に積むことができるため車体スペースを圧迫することがなく、室内空間やラゲッジスペースを広くとることが可能になるのです。
そのため今回の「BMW 1シリーズ」では、FR駆動方式だった先代モデルと比較して室内空間が10cmほど広くなり、後部座席のスペースで不利だった面を解消することができています。
また、エンジンはスタンダードモデルには1.5L 3気筒ターボエンジンを、上位モデルには2L 4気筒ターボエンジン+xDriveが採用されています。
「メルセデスベンツ A-Class」と比較してもエンジンパワーに大きな差はないものの、気になるのはFF駆動となりドライブフィーリングにどれだけ変化があるのかということではないでしょうか。もちろん、その辺りの設計はBMWも加味しており、新しく導入されたのが” ARB(アクチュエーター・コンティギュアス・ホイールスリップ・リミテーション)”という機能です。
BMWが日本に初導入したARBというのは、タイヤのスリップを感知しFF車特有のアンダーステア(クルマが旋回する際に外側へと向いてしまうこと)を抑制するというものです。これまでのモデルはDSC(ダイナミック・スタビリティー・コントロール)というユニットを経由してエンジンへと信号が伝達されていました。しかし、ARB機能が搭載されている「BMW 1シリーズ」ではDSCを介せずに信号をエンジンへ伝達することができるため、従来の約3倍の早さでアンダーステアを抑制することが可能となっています。そのため、FF駆動なのにFR駆動のような旋回性能の良さを兼ね備えており、ドライブフィーリングに違和感を感じることなく快適に走ることができるのです。
BMWとメルセデスベンツ、どちらに軍配が上がる?
永遠のライバルとも言えるBMWとメルセデスベンツ。両社が注力するスモールクラスではBMWがFF駆動へと転換したために「BMW 1シリーズ」と「メルセデスベンツ A-Class」が真っ向から対峙する形となりました。フルモデルチェンジということもありデザイン・性能の両方で向上している両車ですが、販売時期が約1年早い「BMW 1シリーズ」にはメルセデスベンツにはない先進機能が搭載されています。
リバースアシスト機能を動画内で使用
それが、直近50mのハンドリングを記憶し軌跡どおりにバックできる”リバースアシスト’’機能をはじめとした運転支援機能です。
メルセデスベンツにもAIが搭載されるなど先進技術が活かされているものの、ドライバーを直接的に補助してくれるという面ではBMWのほうが一歩リードしている印象を与えます。また、FF駆動方式へと転換した「BMW 1シリーズ」は、”ARB”という最新機能を搭載することで「メルセデスベンツ A-Class」にはない走りの良さを実現しています。
とくに、“走る楽しさ”をFR駆動方式のエンジンとともに追求してきたBMWの技術力が存分に活かされており、従来のFF駆動方式のイメージを変えるようなドライブフィーリングを実現した点においてはメルセデスベンツファンを含む多くのカーマニアも納得の完成度の高さとなっています。
もちろん、「メルセデスベンツ A-Class」も良いクルマではありますが同じスモールクラスの購入を考えるならば、先進技術が多く搭載されている“安心面”と”走る楽しさ”を実現した性能面の両方から「BMW 1シリーズ」に軍配が上がると言えるでしょう。
BMWが力を入れている新たな「1シリーズ」。ぜひとも、これを読んでいるあなたもパフォーマンスの高さを体感してみてはいかがでしょうか。