トリコロールの由来を知っていますか?BMW「M」のヒストリーを振り返る

BMW「M」社はいわずと知れたBMWのレースや高性能バージョンを手掛ける会社です。レースシーンでの活躍もさることながら、「M3」や「M5」といった市販車の高性能バージョンを手掛けていることや、スタイリッシュなパーツ類のリリースでもBMWファンにはおなじみでしょう。

ところでM社といえば赤、青、紫(ネイビー)の3色ストライプがイメージカラーとなっていますが、その由来をご存じでしょうか。そんなことにも触れながらついにバイクも手掛けることになったBMW M社の歩みについて解説していきます。

BMW「M」社の起源

画像引用:https://www.bmw.co.jp

BMWは戦前からモータースポーツに参加してきました。戦後になり乗用車生産が復活して軌道に乗った1960年代後半にはレーシングカーの製作に加えて、レースに参加するドライバー向けのレーシングエンジンやさまざまなパーツの製作という仕事も生まれていました。そういったニーズへの高まりを受けてレース関係を扱う部門が1972年に独立します。ミュンヘンに8,000㎡を超える広大な敷地が用意され、レースに精通したチームが結集しました。敷地内にはエンジンの組立部門や専用工具製作部門、エンジンのテストベンチなどレースに関するあらゆる設備が設置 されました。

これがBMWモータースポーツ社(BMW Motorsport GmbH)、つまり現在のM社の始まりとなります。1973年に初めて手掛けたレーシングマシン、初代「3.0CSL」が誕生しニュルブルクリンク24時間耐久レースでの優勝 をはじめヨーロッパのレースシーンを席捲しました。

これ以降、M社ではレース用エンジンやその関係部品の開発、製造を業務として行い、併せて高性能なコンプリートカーの製造、販売も開始しました。1984年に誕生したBMW 5シリーズベースの「M5」や、1986年誕生のスーパー3シリーズ「M3」は市場からも高い評価を受け、現在のMモデルへとつながる礎を築きました。

ツーリングカーからF1まで、Mの名声を高めた名機M12型エンジン

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戦後BMWの本格的な発展の礎となった「1500」には当時としては進歩的な発想で設計された直列4気筒1.5L SOHCのM10型エンジンが搭載されていました。M社でのこのエンジンをベースに2L DOHC 16バルブのM12型エンジン を開発します。このエンジンは市販車ベースのツーリングカーにも搭載され活躍しますが、それ以上に当時のF2カテゴリーのレーシングマシンに搭載されてレース界を席捲します。M12型で得られたノウハウは直列6気筒エンジンのDOHC化にも活かされ伝説のスーパーマシン「M1」に搭載されたM88型エンジンに結実します。

さらにこのM12型エンジンは排気量を1.5Lに縮小し、ターボチャージャーを組み合わせたF1用エンジンに発展します。このM12/13型と呼ばれるターボエンジンは当時のF1で「ブラバム」に搭載され、ネルソン・ピケのドライブにより1983年にはタイトルを獲得しました 。F1ではこの後ターボエンジンが主流となり一時代を築きますが、その先駆けとなったのがM社の手掛けた市販車ベースのエンジンだったことは興味深い事実です。

M社そしてBMWには量産車メーカーとしての自負があり、レース活動についても量産車から大きくかけ離れたカテゴリーには参戦しないというポリシーがあったようです。BMWではそれまでに量産車ベースのツーリングカーレースにはすべて参戦していました。しかしDTM(ドイツツーリングカー選手権)については非常に人気のあったレースでBMWもM3で輝かしい戦績を残していたにもかかわらず、1994年には撤退しています。1993年にDTMのレギュレーションが変更されて大幅な改造が許された ことにより、市販車からかけ離れたモンスターマシンが主流となったことがその理由とされています。あくまで市販車の延長にレースはあるべき、という哲学を貫いたということなのでしょう。

DTMについては先鋭化しすぎたために、その後は他メーカーの撤退が相次いだことから1996年にカテゴリーそのものが休止されてしまいます。しかしその後は、あらためてレギュレーションの見直しを図って2000年から再開、BMWも2012年に復帰を果たし初年度にも関わらず優勝 するという快挙を成し遂げています。

Mのシンボル、トリコロールは何を表している?

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「M」のシンボルといえば赤、青、紫(ネイビー)の3色ストライプでしょう。青はもちろんBMWのシンボルカラーです。それでは赤は何かといえば、レースをイメージしていると言われています。1970年代、BMWはレース活動を行うのにあたりアメリカの燃料ブランド、テキサコと交渉を行っていました。最終的に契約には至りませんでしたが、テキサコへのプレゼンテーションとして同社のブランドカラーであった赤を採用した、という説が有力です(ただし当時の関係者からは異論もあり)。実際に当時描かれたレーシングカーのデザイン画にはテキサコのロゴと共に既に赤を加えたストライプも使われていました。そして紫は青と赤を混ぜた色であり、市販車(BMW)とレースの融合という意味があるとされています。

このストライプの歴史は古く、M社の設立の翌年にあたる1973年に登場したレーシングカー、「3.0 CSL」ですでに採用されていました 。シンプルでありながら印象的な色の組み合わせで現在もBMWのハイパフォーマンスカーにさまざまなパターンでこのトリコロールストライプが使用されているのはご存じのとおりです。

1978年に登場したM社が手掛けた一台、「M1」ではトリコロールストライプに「M」の文字が組み合わされたロゴデザインが初めて採用されました。このシンプルでありながらスピード感のあるロゴデザインはM1のエクステリアデザインを担当したデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインの作品 と言われています。

トリコロールストライプとロゴデザインは変わらないように見えますが紫をネイビーに変えるなど少しずつ色調やバランスなどをその時代に合わせて調整しています。直近となる2020年3月にはBMWのロゴと同様にフラットデザインが採用された新しいロゴが発表 されています。

「M」がバイクを?「M1000RR」衝撃のデビュー

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2020年9月、突如BMWモトラッドがリリースした「M1000RR」に二輪界は騒然となりました。M1000RRはスーパースポーツバイクS1000RRをベースにスーパーバイク世界選手権(WSBK)制覇を目的としてさまざまなチューンナップを施したスーパーマシンです。最高出力はなんと212PS/14,500rpm!外観で特徴的なのはフロントカウルに取りつけられたウィングレットです。このカーボン製の小さな羽は風洞実験により得られたデータを活かし見た目以上の効果をもたらします。とくに高速域のダウンフォースに効果があり、BMWによれば時速300km/hのときにフロントには13.4kgのダウンフォースをもたらします。前輪の浮き上がりを防ぐことでライダーはより早くアクセルを開けることが可能となります。そういった効果ももちろんですがルックス的にもレーシングウェポンとしての迫力に満ちています。

その一方でナンバーをつけて公道走行も可能な市販車として、USB充電ソケットや坂道発進をアシストするヒルスタートコントロール機能にクルーズコントロール、さらにはなんとグリップヒーターも用意されているようです。

BMWらしく電子制御装置も満載でトラクションコントロール機能はもちろん、スロットルレスポンスは2段階に、エンジンブレーキも3段階に調整可能と走る場所や乗り手の好みに応じてきめ細かくセッティングが可能となっています。一方、フロントフォークに採用されたマルゾッキ製の倒立フォークは電子制御式ではなく機械式が採用されていることから車体のセッティングに対するBMWの自信をうかがわせます。もちろんボディには白をベースに青/ネイビー/赤のあのカラーリングが施されています。

BMWジャパンによれば日本市場への投入時期は2021年初夏、価格は500万円の予定とされています。もちろん絶対的に高価なことに変わりはありませんがカーボン製のウィングレットなどに加えエンジン内部にもチタン製のコンロッドやバルブが採用され、強化されたブレーキ(その名もMブレーキ!)など専用装備満載でほとんどそのままレースにも出場できるポテンシャルを考えればむしろリーズナブルでしょう。

実は四輪メーカーが二輪のチューニングをしたり、その逆に二輪メーカーが四輪のチューニングを行ったりするのは非常に珍しいケースです。かつてスズキのバイクでレース活動やチューニングを行っているヨシムラジャパンがホンダS600などのチューニングパーツを販売したり、ユーノス・ロードスターのコンプリートカーを手掛けて話題になったことがあった程度でしょうか。そういう意味でも今回「M」の名前を冠した二輪車が登場したというのは注目すべきニュースでしょう。

レーシングテクノロジーをトップブランドへと昇華した「M」

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伝説のスーパースポーツ、「M1」誕生から40年以上が経過しました。これまでMモデルとしてリリースされてきたBMW車は「M3」を始めとしてレースで磨きをかけたテクノロジーがふんだんにフィードバックされたハイパフォーマンスモデルとして高い評価を得ています。

しかし「M」の名を冠するモデルは単に速いだけの荒々しいクルマではありません。サーキットでもいかんなく性能を発揮できる一方、BMW各シリーズのトップモデルとしての役割もしっかりと果たしているのです。このMモデルのやり方は他社にも多大な影響を与えています。

例えばメルセデスでは独立系のチューナーだったAMGを吸収し、Mモデル同様に積極的にレースにも参加することでハイパフォーマンスブランドであることをアピールしています。アウディではレーシング部門をBMW同様に子会社化、「RS」というハイパフォーマンスモデルを販売しています。日本でもレクサスが「F」(富士スピードウェイからの命名)といったハイパフォーマンスモデルラインを展開しているのも「M」の成功を抜きにしてはありえなかったはずです。

高級車にレースで磨かれたハイパフォーマンスという要素を加えた先駆者たるBMW「M」、その進化はレースシーンでも市販車の部門でもまだまだ続きそうですね。

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