時代を駆け抜けてきたBMWの製品戦略

製品は何もない状態からニーズまたはシーズによりアイデアが提案されることで無から有への進行過程をたどり始めます。このアイデアを具体化したものが製品コンセプトとなり、その製品が購入者にどのような利益をもたらすかを表現しています。BMWはどのような製品コンセプトを持ってモノづくりに挑んでいるのでしょうか。今回はBMWの製品戦略を見ていこうと思います。

VISIONARY MOBILITYを宣言

製品コンセプトはその製品の全体を貫く基本的な観点・考え方となります。BMWのコンセプトカーはただのビジョンではなく未来を実現するための設計図です。一般的メーカーでは3年~5年の中期ビジョンのもと製品開発を行い短期的ニーズに応えているので、変化する経済状況やニーズに流されてしまいがちになります。

しかし、BMWのクルマづくりは長期的なビジョンをもって行われているため、100年後を見据えた製品開発を行い、それに必要な技術開発にも挑戦することができます。BMWではVISIONARY MOBILITY宣言を行いビジョンを夢で終わらせずに形にするためACESの4つを掲げています。

ACESとは

画像引用:https://bmw-japan.jp

まず、A=Autonomous(運転支援テクノロジー)です。BMWのクルマづくりは常にドライバーを中心として行われ、安全に関しても同様でドライバーがすぐに気づきアクションが起こせるように支援するための機能が多く搭載されています。例えば、ステアリング&レーン・コントロールアシスト機能です。これは、快適なドライブを支援するためにアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動的に操作し、クルマが常に車線の中央を走行するようにサポートしてくれます。

他にもアクティブ・サイド・コリジョン・プロテクションという機能があります。これは前後左右に装備されたセンサーにより、衝突の危険が迫った場合衝突回避をサポートするためにステアリング操作に介入を行います。

次に、C=Connected(コネクテッド)です。BMWは1970年代にコネクテッド・モビリティを視野に入れた開発を進めていました。コネクテッド・モビリティとは、ネットワークにつながる端末機能を持つクルマであり、クルマがインターネットを介して様々な情報をドライバーに提供することを可能にします。

また、メーカーの提供する車内サービスを通じてメーカーとユーザーが直接つながることでメーカーはダイレクトなフィードバックを得ることができます。これによって、より求められるクルマづくりができるようになります。

そして、E=Electric(電動化)です。電気モーター、高性能リチウムイオン・バッテリー、エネルギー・マネジメント・システムが連携する「BMW eDriveテクノロジー」を搭載することでゼロ・エミッション走行を可能にします。BMWでは2025年までに25車種の電動化モデルを投入する予定です。

最後にS=Services/Shared(サービス/共有)です。カーシェアリングの拡大に伴い、サービス拡充のためBMWはオンデマンド・モビリティ分野で競合のダイムラーAGと折半出資により新たな合弁会社を設立しました。オンデマンド・モビリティとは、利用者が利用したいときにクルマを提供するサービスで、その他の分野でもサービスの提供を行っています。このような世の中の多様なニーズへ対応したクルマのあり方を提供することもBMWのテーマの1つです。

BMWの製品の開発プロセス

BMWの製品の開発プロセスはモデルベース開発という手法を1990年代後半から取り入れています。電子制御技術の進化に伴いエンジンを始めとする様々な装置の電子制御化が進み、車載されるコンピューターの数は多いクルマで100個超と言われています。エンジン制御のための仕様書だけでも膨大な量になります。開発の工程はV字プロセスに従って行われますが、従来の開発では様々な課題が生じてきます。V字プロセスでは左側に開発工程を順番に並べそれに対応する検証の工程を右側にVの字のように並べます。こうすることで、何を検証しているのかを明確に示すことができます。V字プロセスを使った従来型の開発はハードウェアとの依存関係が高いためハードウェアを生産して、繰り返し検証しなければなりません。

また、開発工程ごとに仕様書が存在し、それに対応する検証結果が求められます。各工程の検証において人間の操作が加わってしまうので、ミスが生じやすく、担当者の習熟度によって精度や作業期間に違いが生じてしまいます。それに加え、ハードウェア自体の完成時期も検証工程に影響をおよぼします。そして、ハードウェアを合わせた検証は完成までに何度も繰り返され時間とコストを費やしていってしまいます。

一方で、モデルベース開発はシミュレーション技術を使ったシステム開発手法で、動く仕様書としての「モデル」を活用し実行や制御に問題がないかをPC上でシミュレーションすることができます。従来の開発で必要だったハードウェアによる検証もシミュレーター(HILS:Hardware In the loop Simulation)を活用することで短期間で繰り返し検証を行うことができます。HILSとは実機を模したシミュレーションを行うことが可能な開発用シミュレーターで、仮想環境を利用したシステム開発を行うことができます。

BMW Vision iNEXT

画像引用:https://www.bmw.co.jp

2018年11月28日ロサンゼルスで開催されたLAモーターショーで「BMW Vision iNEXT」を発表しました。

BMW Vision iNEXTは2021年から生産予定の新型EV「iNEXT」を示唆させるコンセプトカーです。BMW Vision iNEXTは次世代EVという位置づけで、従来のクルマの概念を超えた空間設計が行われています。ディスプレイやボタンなどはドライバーや同乗者が希望する時にのみ姿を現します。

BMW Vision iNEXTはBMWのビジョンであるACESにデザイン(Design)のDを追加した「D-ACES」と定義されています。2019年1月8日にはラスベガスで開催されたCES 2019で、BMW Vision iNEXTの乗車体験が最新のバーチャルリアリティー技術を利用して行われました。来場者はゴーグルを装着し、特別に設置された空間で仮想ドライブを楽しむことができます。

また、搭載されたBMWインテリジェント・パーソナル・アシスタントに「ハイ、BMW」と呼びかけることで音声アシスタントが起動し、さまざまな機能や情報に安全にアクセスすることができます。

ビジョンと戦略

BMW Vision iNEXTはまったく新しいクルマを想像するという夢から生まれ、デザインは社内コンペから選出されたもので、アイデア段階から最終的なコンセプトカーになるまでに約18ヵ月が費やされました。1つのアイデアから開発された製品が形となるまでに多くの人、時間、技術が投入されています。その方向性を決めるのがビジョンです。

ビジョンは形を持ちませんが、人がモノを作る指針となります。指針がなければ行くべき方向もわからずに彷徨ってしまいます。BMWでは長期的なビジョンを持つだけでなく、時代にあった戦略を立て堅実なモノづくりを実行する姿勢を持っています。今後の100年もBMWは彷徨うことなく明確なビジョンを持ち、それを実現するための戦略を立て、私たちの生活を快適なものへと導いてくれるリーディングカンパニーとして活躍してくれることを期待しています。

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