Mパフォーマンスとは、BMW「M社」が手掛けたハイパフォーマンスモデルです。1シリーズ、2シリーズグランクーペ、そして3シリーズに新たに設定されましたが、M社はどのようなマジックを使ってノーマルを遥かに上回る性能を引き出したのでしょうか?いずれも4WD仕様となっている点にも着目して解説していきます。
Mパフォーマンスとは、M社が手掛けた至高のロードモデル
MパフォーマンスとはBMWのレース部門をルーツに持つ高性能車部門であるBMW M GmbH、通称「M社」が手掛けたモデルです。M社というとM3など車名にMがつく高性能車で有名ですが、Mパフォーマンスはどこが異なっているのでしょうか。
実はM パフォーマンスもレーシングカーの設計思想に基づきつくられている点は同じなのですが、違うのはその目的です。M3をはじめとしたモデルはクルマをサーキットに持ち込んで限界走行を楽しむような方のためにつくられた、いわば純レーシングマシンといった位置づけになります。一方M パフォーマンスは快適性も重視したチューンとなっており、通常のモデルとハードなMとの中間に位置するモデルといえるでしょう。つまり、MモデルはM社が開発したレーシングマシンのベース車、MパフォーマンスはM社がチューニングした高性能バージョンといえるでしょう。
卓越したパフォーマンスが欲しいがプレミアムカーとしての快適性は犠牲にしたくない、というちょっと欲張り?な内容となっています。
4WDを採用した理由は?
最近でこそ1シリーズや2シリーズグランクーペのようにFF(前輪駆動)のモデルも増えましたが、3シリーズのようにBMWといえばFR(後輪駆動)、というイメージが強いのではないでしょうか。しかし今回取り上げるMパフォーマンスモデルはいずれも4WD仕様となっています。Mパフォーマンスモデル4WDを採用したのは圧倒的なハイパワーに対応するためです。
例えばM135i及びM235iはスタンダードの1.5Lでは最高出力140PS、最大トルク220Nmなのに対し最高出力は306PS、最大トルクは450Nmと実に2倍以上の数値を叩き出しています。ちなみにこの450Nmという数値は自然吸気のガソリンエンジンであれば4L級といえばそのすごさが分かっていただけると思います。同様にM340iではスタンダードの320iが最高出力184PS、最大トルク300Nmなのに対し最高出力387PS、最大トルクは500Nmとこちらも大幅なパフォーマンスアップを実現しました。
これだけパワーアップするとFFの場合、強烈なトルクステア(コーナリング中にアクセルと踏み込むとハンドルをとられる現象)に悩まされることになりますし、FRの場合にはテールスライドを起こしやすくなるのでかなり手強いクルマになります。
もちろん現在は電子制御技術の発達によりクルマ側で適切な制御をしてくれますが、それでも相当スパイシーな操縦性となることは想像に難くないでしょう。例えばZ4のような本格的なスポーツカーではむしろ望むところ、といったところでしょうが快適に乗員を移動させるサルーンでは方向性がやや異なるでしょう。
その点、4WDであればそのときの状況に応じて適切に駆動力を4輪に振り分けることができるので、パワーのあるエンジンとの組み合わせは非常に合理的な選択といえるでしょう。もちろん雪道でもスタッドレスタイヤと組み合わせれば安心して走ることができる全天候型GTとしても心強いパートナーとなるでしょう。
走りを極めた辛口のM135i
1シリーズがFFになって走りが楽しめなくなったのでは?という印象を持っている方はもしかすると1シリーズのホットモデル、M135iをテストしていないだけかもしれません。エンジンは2L+ターボで最高出力は306PSを叩き出し、それを受け止めるべく18インチのホイールが組み合わされ、ルックスからもただものではない雰囲気を醸し出しています。
しかしM135iの魅力は圧倒的なパワーだけではなく、懐の深いコーナーリング性能でしょう。たっぷりとフロントサスペンションのストロークをとったおかげでブレーキングから旋回への流れがスムーズで、先入観を良い意味で裏切られるはずです。
優秀な4WDシステムのおかげで、FRのままだったら冷や汗をかくような悪天候でも余裕でドライブできるのも進化したポイントです。
もちろん、それでいて居住空間や荷室はスタンダードの1シリーズと全く同じです。スポーツカーが欲しいけれど、実用性も必要、でもボディはあまり大きくないほうがいいという方にM135iはぴったりフィットするでしょう。
確かに価格は1シリーズのスタンダードグレードから約300万円アップと高価には違いないものの、この走りの魅力を知ってしまえばその価値は十分実感できるはずです。
M235i新しいスポーツクーペのかたち
M235iのベースとなる2シリーズグランクーペは1シリーズをベースに流麗な4ドアクーペスタイルに仕立て上げたものです。一見、1シリーズのボディ後半をノッチバックスタイルにしただけのように思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はボディ前半の外板は全くの新規設計となっています。車高もM135iの1,465mmに対しM235iは1,430mmと低く、ロー&ワイドなクーペらしいフォルムに仕上がっています。
その分、後席のヘッドルームの余裕という点ではルーフラインが後ろまで水平に伸びているM135iのほうに分がありますが、かといって全く実用性を犠牲にしているわけではありません。4ドアであることに加えてトランクも430Lと大容量を確保しています。
動力性能やシャーシーについては基本的にM135iと同じですが、M235iは運動性能を犠牲にしない範囲でより乗り心地に配慮した、というエンジニアのコメントがありました。とくにピッチング(ボディ前後の揺れ)については入念なセッティングによりしっかり抑えられた上でスポーティクーペにふさわしいコーナリング性能は確保しています。サッシュレスドアを採用したクーペボディですがリアハッチがない分、高い剛性を確保しやすいのも乗り心地に良い影響を与えていると考えられます。
ちなみに価格はM135iの633万円に対しM235iは665万円と約30万円高と設定されています。動力性能は互角なのでリアに便利なハッチドアを備えたスポーティなM135iか、ドレッシーな4ドアクーペのM235iかこの価格差だと悩みどころでしょう。
結論としては街中での使い勝手の良さを重視するならカジュアルなM135i、もう少し落ち着いた雰囲気のクルマが欲しいのであればM235iというところに落ち着きそうですね。
M340i は3シリーズ「大吟醸」
BMWといえば、そのなめらかで精密なフィーリングでシルキーシックスと謳われた直列6気筒だ、という方も多いでしょう。近年はエンジンのダウンサイジング化が進み、3シリーズも直列4気筒がラインナップの中心となっていましたが、ついに待望の直列6気筒モデルが追加されました。それがMパフォーマンスモデルのM340iです。
今回の3シリーズではボディサイズを拡大しながら先代比55kgのダイエットに成功した上で、ボディ剛性もアップするという難題に取り組み解決しています。乗り心地の面では不利と言われるランフラットタイヤであることに加えて前輪225/40R19、後輪255/35R19という大径のタイヤを採用していることから乗り心地が悪いのでは?と心配される方もいらっしゃるかもしれません。確かに固めではありますが、大きな段差を乗り越えても一瞬でビシッと収めるボディ剛性の高さはむしろ気持ちが良いほどです。
もしそれでも同乗者から、もう少し柔らかい乗り心地にしてというリクエストがあれば、M340iにはアダプティブ・サスペンション(可変ダンパー)が標準装備されているのでコンフォートモードを選べば大丈夫でしょう。
M340iは4WDシステムと387PS/5,800rpm、最大トルク500Nm/1,800-5,000rpmを誇る高性能な直列6気筒エンジンを採用し3シリーズのポテンシャルを最大限に発揮したモデル、いわば3シリーズ「大吟醸」といったところでしょうか。
さらにM340iにはステーションワゴンのツーリングも設定されています。かつては日本でもレガシィ・ツーリングワゴンをはじめとしたステーションワゴンにハイパワーなエンジンとスポーティな足回りを組み合わせたモデルが数多く設定されていましたが、残念ながら現在ではすべて消滅してしまいました。しかしリゾートエクスプレスとしてのスポーティでパワフルなステーションワゴンを待ち望む方は少なくないでしょう。ハイパワーなエンジンにスポーティなルックスと4WDシステムを備えたM340iツーリングは、現在の日本市場ではとても希少な存在といえるでしょう。余裕のある動力性能と安定した走りは荷室に大量にアウトドアグッズを積み込んでも安心です。
セダンとツーリング、迷う方も多いでしょうが、趣味がたくさんあり、まずは荷室の使い勝手を優先するならツーリングを、よりフォーマルなクルマが欲しいならセダンを、と考えてみてはいかがでしょうか。
クラスを超えた高性能がMパフォーマンスの魅力
M135i、M235iはセグメントでいえばCセグメント、M340iはいわゆるDセグメントに属していますがM社のマジックによりクラスを超えた高性能車に仕立て上げたところが最大の魅力でしょう。もちろんそれはベースとなったモデル、1シリーズや2シリーズグランクーペ、そして3シリーズの基本性能の高さがあればこそです。
Mパフォーマンスはいずれも卓越した動力性能を誇りますが決して気難しいマシンではなく、普段使いできるフレキシビリティや快適性も備えています。スポーツドライビングを楽しむだけでなくフォーマルな場に乗りつけてもしっくりくる二面性、ある意味オールマイティなクルマと言えるのではないでしょうか。