BMW最大のシンボル、キドニーグリルはこんなに変化した!

BMWといえばクルマに詳しくない方でも真っ先に思い出すのがフロントグリルの通称キドニーグリルでしょう。変わらないように見えて、実は時代によって大きくなったり小さくなったりと様々に変化しています。また中にはキドニーグリルのないBMW車もある?BMW車の伝統であり最大のシンボル、キドニーグリルの変遷について解説します。

キドニーグリルの登場は1933年

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BMWが初の四輪車を発売したのは設立から12年経った1928年のことでした。とはいえこの記念すべき第一号車であるディクシー3/15PSはイギリス車、オースティン7のライセンス車でありBMWオリジナルのクルマとは言い難いものでした。ボディからサスペンション、そしてエンジンまで完全に独自で設計したBMW 303が登場したのは1933年です。そしてこの303が初のキドニーグリル採用モデルとなります。

この当時のクルマのヘッドライトは丸型のみ、タイヤのフェンダー(泥除け)部分も独立したスタイルでいずれのクルマも共通していたのでフロントグリルは他車との差別化という点で非常に重要なパーツでした。

また実用面でも当時のエンジンは空冷式で今よりも冷却効率が悪かったことから、空気の取り入れ口であるフロントグリルは大きくする必要があったのです。

もちろん、大型のフロントグリルがあるということはそれだけ大排気量の高性能なエンジンを搭載していることの証でもあったので、各社ともフロントグリルに独自のデザインを採用していました。有名なロールス・ロイスの「パルテノン」グリルもその1つですね。その中でも縦に2分割されたキドニーグリルは特徴的なデザインで目立つ存在だったのでしょう。

とはいえ、この時点ではBMW社自身もフロントグリルの形そのものがブランドのアイデンティティになるとは夢にも思っていなかったのかもしれません。というのもキドニーグリルがないBMW車もこの後に登場しているからです。

キドニーグリルがないBMW車もあった!

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303以降、すべてのBMW車にはキドニーグリルがついていると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は戦後になって発売されたモデルにはキドニーグリルがついていないクルマもありました。

まずは1955年に発売されたイセッタです。もともとはイタリア・イソ社の設計でBMWオリジナルではなかったこともありますが、リアエンジンでフロントにグリルをつける必要がなく、さらに言えばつけるようなスペースもなかったので当然といえば当然なのですが…イセッタの発展形となる600にも当然ながらキドニーグリルは存在しませんでした。

ちょっと微妙なのが同じく1955年にフランクフルトモーターショーで発表されたオープン2シーターのドリームカー、507のフロントもキドニーグリルです。確かにエンブレムを挟み2分割されてはいるのですが、他車と同じぐらい幅広なグリルデザインとなっています。507のクーペバージョンである503はより一般的なグリルに近いデザインが採用されていました。2000年に発売されたZ8はこの507をモチーフにしていましたが、フロントグリルはよりキドニーグリルに近い形状に寄せてきました。しかし、少なくとも当時、戦前からのBMWを見てきた人にはとてもキドニーグリルには見えなかったに違いありません。

続くノッチバックセダンの700にもキドニーグリルは採用されていません。イセッタ同様にリアにエンジンを搭載したのでフロントグリルを設ける必要がなかったこともありますが、独立したフェンダーを持たない新しいデザインにどうやってキドニーグリルをフィッティングさせれば良いのか、まだ暗中模索だったのではないでしょうか。当時としては全体的に流麗で洗練されたデザインですが、エンブレムがなければBMWのクルマとは思えないでしょう。キドニーグリル=BMWのアイデンティティとなるには次世代車のデビューを待つ必要がありました。

1500「ノイエクラッセ」がBMWのキドニーグリルを完成させた!

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1961年に登場したBMW1500は今日につながるBMWの基礎を築いた、長い歴史の中でもエポックメイキングとなる名車です。直線基調のすっきりしたデザインに新開発のエンジン、サスペンションを備えたスポーティな走り、それでいて大人4人が快適に移動できる居住空間など、現代のBMWのキャラクターもこの時点で完成させていました。

逆スラントしたフロントノーズには丸型2灯のヘッドライトと小型化されたキドニーグリルが配置されていました。今日のBMWデザインの歴史はこのノイエクラッセ(新しいクラス)と呼ばれた1500に始まると言っても決して言い過ぎではないはずです。

この1500の逆スラントノーズにキドニーグリルを配したデザインは発展形である2002、そして5シリーズや3シリーズ、そして7シリーズといった現代につながるBMW車の初代モデルにも受け継がれていったのです。

空力を追求し小型化、薄型化が進んだ1990年代

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1990年代に入ると自動車メーカー各社では空力性能への追求が始まり、デザインにもそれが反映されていきます。それまでの逆スラントノーズは空力の面では不利なのでより空気抵抗の少ないスラントノーズにデザインのトレンドが移行していきます。キドニーグリルを新しいスラントノーズのデザインにどうマッチングさせるかーおそらく社内でも相当議論を重ねたはずですが、その回答が1990年に登場した3代目となる3シリーズでした。

それまでキドニーグリルの両側にあった空気取り入れ口をバンパー部に移してノーズをスラント化し、キドニーグリルはやや幅広にしてスラントしたフロントノーズにフィッティングさせました。その後に続きモデルチェンジされた5シリーズ、7シリーズにも受け継がれ、現在のBMW車でもキドニーグリルの脇にヘッドライトユニットを配した同様のレイアウトを採用しています。

BMW史上最小?のキドニーグリルを採用したM1

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キドニーグリルはもともとエンジンの冷却用に風を取り込むためのものだったことは先に解説したとおりです。それではフロントから空気を取り込む必要のないクルマの場合は機能的に不要なキドニーグリルをどう配置するのか、なかなか悩ましい問題です。

この問題を解決したのがイタリア人デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが手掛けたスーパースポーツ、M1です。1978年に登場したM1の目的はレースへの出場だったのでミッドシップレイアウトを採用した結果、鋭いウェッジシェイプデザインとなっていました。このためフロントノーズは極限まで薄く、常識的なフロントグリルを置くスペースがなかったのでキドニーグリルをどうレイアウトするかがデザイン上のハイライトでした。

そこでM1ではフロントバンパー部分をグリルに見立ててBMW史上最も小さく薄いと称されるキドニーグリルを配置する手法をとりました。ジウジアーロが手掛けただけあってM1のシルエットは完全にイタリアン・スーパーカーのそれですが、この小さなキドニーグリルがあるだけでちゃんとBMW車に見えるのですからさすがです。この手法は後のZ1(1987年発表)、8シリーズ(1989年発表)にも受け継がれています。

進化するキドニーグリル

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エンブレムと並ぶBMWのアイデンティティとなったキドニーグリルですが、現在は以前よりも大型化されています。これはクルマの対歩行者事故対策でフロントノーズが厚みのある形状になったことやフロントグリルを大型化することがカーデザインのトレンドとなったことに対応したものです。

また車種によってキドニーグリルのデザインを細かくチューニングしているのをご存知でしょうか。例えばZ4や8シリーズのようなクーペ系ではキドニーグリルを末広がりな形状にすることでロー&ワイドなフォルムを強調するといったテクニックが使われています。

そして機能面での進化も見逃せません。グリルが大型化したことで冷却効率は上がるのですが、その一方で高速域では空気の流れが乱れ抵抗を増やす原因ともなります。そこで速度に応じて自動的にシャッターが閉まる機能が3シリーズなどには採用されています。

キドニーグリルはこれからも続くのか

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2000年代に入りアウディがフロントグリルを二段重ねにしたダブルフレームグリル、さらにそれをつなげた大型のグリルを採用して口火を切り、フロントグリルの大型化がトレンドとなりました。レクサスのような新興のプレミアムブランドも押し出しが強い大型のフロントグリルをこぞって採用して、ブランドのアイデンティティをアピールし始めたのです。それを考えれば約90年前からフロントグリルをブランドのアイデンティティとして守り続けてきたBMWには先見の明があったと言えるでしょう。本来ならフロントグリルの不要なEVのi3にもフロントにキドニーグリル型のブルーの縁取りを施すことでBMW車であることをアピールする手法も取られています。

BMWのデザイナーである永島譲治氏は「キドニーグリルがなくてもBMWに見えるようなアイデアがあるならば歓迎する」とインタビューでは答えていました。

しかし、そうは言ってもこれだけ誰もが認めるBMWの象徴をそうそう簡単に諦めることはないはずです。新型の4シリーズで縦長・大型化したフロントグリルを採用して世間を驚かせたようにこれからもBMWはキドニーグリルを守り、そして進化させていくのでしょう。

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