軽自動車の革命児!ワゴンRのヒストリーを解説

1993年に「クルマより楽しいクルマ」というキャッチコピーで登場したスズキワゴンR。大ヒットとなった初代から2017年に登場した現行型で6代目となり、今やスズキの看板車種となっていますが、実は当のスズキもここまでの大ヒットになるとは想像していませんでした。そして、そのワゴンRの大ヒットが軽自動車市場を大きく変えることになったのです。今回は、軽自動車市場に革命を起こしたスズキワゴンRのヒストリーについて解説します。

「ワゴンR」は「ワゴンもあ~る」だった?

画像引用:https://www.suzuki.co.jp

今やスズキの基幹車種、ワゴンRが登場したのは1993年のことでした。初代ワゴンRは実に総生産台数90万台を記録する大ヒット車となりましたが、実はスズキ自身もこれほどの大ヒットになるとは想像していませんでした。

そのため、初代ワゴンRは開発にあたり徹底したコストの削減が行われていました。当時のアルトやセルボモードといったスズキの主要車種と部品の共有化を図っていたので、極端に言えば目に見える以外のほとんどの部品に他車との共用化が図られていたといっても決して大げさではありません。

バリエーションもシンプルでエンジンは直列3気筒660㏄のみ、変速機は5MTと3ATの2種類、ボディは3ドア+リアハッチの1種類、グレードは装備違いのRA、RG、RXの3種類に4WD仕様のRG-4がラインナップされていただけです。

少し前にモデルチェンジを行っていたアルトが3ドアと5ドアの2種類、エンジンは直列3気筒SOHC&DOHCに加えてそれぞれのターボ仕様の計4種類、グレードでは標準車に加えて走りのワークスやコマーシャルバンのアルトハッスルまで用意していたことを考えればいかにワゴンRにそれほど力を入れられていない、ニッチを狙った商品だったかがよく理解できるのではないでしょうか。

しかしその一方、車体のパッケージングにはこれまでのクルマにない特徴がありました。二重フロア構造を採用して着座位置を上げ、乗員をアップライトに座らせることで足元の空間を広く取った上、高い車高で広々感を演出していました。

デビュー時のキャッチコピーは「クルマより楽しいクルマ」でしたが、CMは他のスズキ車のように有名なタレントやアイドルなどは使わず、ワゴンRのみの映像が使用されています。

ところでワゴンRの「R」はなんの略?と思っている方はいらっしゃいませんか。スズキの公式コメントでは、『「R」はREVOLUTIONレボリューションとRELAXATIONリラクゼーション(くつろぎ)の頭文字であり、「軽自動車の新しい流れを作る新カテゴリーのクルマ」で「生活にゆとりを与えるクルマ」という2つの意味を込めました』とされています。

しかしそれは後づけで、実際には、「ワゴンもあ~る」というだじゃれだったそうです。なんとも脱力してしまうような理由ですが、基幹車種ではなかったからこそのネーミングと言えるかもしれません。

ワゴンRは何が新しかったのか

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当初、専門家の中にもワゴンRのもつ革新性には気がつかず、ちょっと変わった商用ワゴンとしてとらえられていた方もいたようです。当時の自動車専門誌で、登場時の試乗記事がカラーページではなくモノクロページに掲載されていた例があることから、メディアの関心がいかに低かったかがよく分かるのではないでしょうか。

しかし、ユーザーはワゴンRの新しさを直感的に理解して熱狂的なレスポンスをして、ワゴンRを一躍大ヒット車に押し上げました。

高い着座位置による見晴らしの良さは、一回り以上大きなクルマを運転しているような感覚があり、まだまだ車高の低いセダンが多かった当時、心理的な優越感をもたらす効果がありました。

軽自動車の常識を超えた広い室内は、それまで普通車に乗っていた方も、「これだけ広いなら十分じゃないか」、とワゴンRに乗り換えるパターンも少なくありませんでした。

そしてシンプルで機能的なデザインは、それまでの軽自動車とは一線を画すもので積極的に「ワゴンRに乗りたい」というユーザーを増やし、軽自動車の中心ユーザーだった女性のみならず男性のユーザー層も拡大することになりました。

また、ワゴンRがデビューした1993年当時、アメリカのミニバン、シボレー・アストロが大流行していたこともワゴンRがヒットした原因として無視できないでしょう。国産車では商用ワンボックスの派生車種しかなかった中、ワゴンRのデザインはアメリカの本格的なミニバンのテイストでカスタムの素材としてうってつけだったのです。

あのスーパーカーデザイナーも認めた?「GO!ワゴンR」の2代目

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2代目ワゴンRは軽自動車規格の変更に合わせて1998年10月に登場しました。初代後期に引き続き、当時映画「タイタニック」が大ヒットしていたレオナルドディカプリオをCMキャラクターに起用するなど、初代の大ヒットを受け、力の入ったデビューとなりました。

初代の全長×全幅×全高:3,295㎜×1,395㎜×1,640㎜から3,395㎜×1,475㎜×1,650㎜と全高以外はサイズアップしています。とくに全幅の拡大は大きく、室内空間が広がるのはもちろん、ハンドルの切れ角を大きくとることが可能になり最小回転半径は4.6mから4.2mと小さくなっています。

また当初はシンプルなグレードからスタートして逐次バリエーションを拡大した初代と異なり、2代目はデビュー時からターボや5ドアモデルを用意していました。

意外なところでは、ランボルギーニ・カウンタックやランチア・ストラトスといったスーパーカーのデザインで知られるマルチェロ・ガンディーニ氏がワゴンR(正確には普通車仕様のワゴンRワイド)のデザインを気に入って自宅用に購入していたそうです。スーパーカー・マエストロとワゴンRの組み合わせは意外ですが、ガンディーニ氏はルノー5(2代目)やシトロエンBXといった実用車でも優れたデザインを生み出していることから、ワゴンRのミニマムなデザインが琴線に触れるものがあったのでしょう。

原点回帰、そして「スティングレー」登場の3代目

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3代目ワゴンRは2003年に登場、すでにワゴンRの成功を受けて各メーカーからハイトワゴンが販売されていましたが、「サラブレッドの子はサラブレッド」というCMコピーのとおり、ぶれることのない王道のモデルチェンジとなりました。デザインはシャープな直線基調になり、大型の縦型ヘッドライトとともに初代へのオマージュを感じさせるものとなりました。

3代目のトピックは後期仕様で追加された、いわゆるカスタム系のモデル「スティングレー」です。スティングレーとは「STING(刺激)」と「RAY(光線)」を組み合わせた造語です。シボレー・コルベットにつけられていた「スティングレイ」を思い起こさせますが、こちらは「アカエイ」の意味なので無関係とスズキではコメントしています。

とはいえ、当時スズキとGM(シボレー)は提携関係にあったので、全くの無関係ではなかったのではないでしょうか。

定番としての地位を確立した4代目、5代目

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リーマンショックによる世界的な不況により、経済性や燃費性能にいっそう注目が集まった2008年に4代目ワゴンRは誕生しました。日常での使いやすさを重視した低速トルク型のエンジンに加え、柔らかな曲線を取り入れて品質感を高めた内外装で人気を集めました。今では当たり前となっているアイドリングストップ仕様が追加されたのもこの4代目からです。

2012年に誕生した5代目ワゴンRも基本的には同じ路線を引き継ぎますが、より低燃費性能を求めた「エネチャージ」が採用されました。これはもともとエンジンをスタートさせるためのモーターにリチウムイオンバッテリーを利用し、効率を上げてエンジンのアシスト機能を持たせたものです。ブレーキング時の回生により充電を行うことで、通常なら発電に回すガソリンを節約することが可能です。この5代目ワゴンRでついに国内販売台数400万台を達成しました。1993年の初代デビューから20年での達成はスズキ車としての最短記録となっています。

もっと個性的に!3種類のラインナップが完成した6代目

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これまで室内空間の広い軽自動車のパイオニアとしてトップに立ってきたワゴンRですが、ホンダN-BOXや同じスズキのスペーシアといったスーパーハイト系ワゴンの登場により、広さ以外の個性が求められる時代を迎えました。その1つの回答がデザインで、2017年に登場した現行型となる6代目ワゴンRには3種類の個性的なデザインが用意されました。その3種類とは初代のイメージをもつ標準車、これまでのスティングレーを継承するクールスタイルのHYBRID FZ、そしてアメリカンミニバンを思わせる存在感のあるフロントマスクのスティングレーです。機能面ではエネチャージがさらに進化、バッテリー容量が増加され最長10秒のモーター走行が可能になり、時速100km/hまでモーターアシストを行うマイルドハイブリッドを搭載しました。

軽量化によりターボ仕様を選ばなくても軽快な走りが可能、ヘッドアップディスプレイを始めとした普通車に負けないような最新装備も用意、スズキの中心車種として力の入ったモデルとなっています。

ワゴンRはこんなに進化した!

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ワゴンRの歴史の中でもっとも進化を遂げたのは車体のパッケージングでしょう。まずは、歴代のボディサイズ、室内空間の変化を表にしたものを見てください。

ボディサイズ

全長(㎜) 全幅(㎜) 全高(㎜)
初代(1993-1998) 3,295 1,395 1,640
2代目(1998-2003) 3,395 1,475 1,645
3代目(2003-2008) 1,645
4代目(2008-2012) 1,660
5代目(2012-2017) 1,640
6代目(2017- )

1,650

室内空間

室内長(㎜) 室内幅(㎜) 室内高(㎜)
初代(1993-1998) 1,685 1,180 1,340
2代目(1998-2003) 1,685 1,220 1,305
3代目(2003-2008) 1,800 1,295 1,305
4代目(2008-2012) 1,975 1,295 1,275
5代目(2012-2017) 2,165 1,295 1,265
6代目(2017- ) 2,450 1,355 1,265

1998年の軽自動車規格の見直しがありましたがボディサイズは初代から全長で100㎜、全幅では80㎜しかボディは大きくなっていないのにも関わらず、室内長は765㎜、室内幅は175㎜も拡大しています。

「いったい、どこにそれだけ拡大する余地があったの?」とモデルチェンジのたびに驚かされるほどミリ単位でパッケージングの追求を行ってきた結果と言えるでしょう。

ちなみに6代目ワゴンRの2,450㎜という室内長ですが、レクサスのフラッグシップモデル、LSの室内長が2,145㎜ということを考えればいかに広いかがよく分かるのではないでしょうか。

普通車から軽自動車へのダウンサイジングするユーザーが増え、現在は新車販売台数の40%を軽自動車が占めるまでになりました。かつての「軽自動車でいい」から、今は「軽自動車がいい」と積極的に選ばれる時代です。

そのきっかけが初代ワゴンRであり、そしてその後のたゆまない進化こそワゴンRがこれまで支持されてきた結果ではないでしょうか。

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