アメリカ市場でも販売への動きが!? BMWが実用化した史上初の「ワイヤレス充電」

2018年5月、BMWが世界で初めて車載バッテリーのワイヤレス充電を実用化し、話題となりました。5シリーズセダンの一部グレードに搭載したこのシステムは、自動車メーカーとしては世界初の快挙です。

当時の公式アナウンスでは、「ドイツに続いて、英国、米国、日本、中国の各市場に導入する」と報告していましたが、2019年になり、ついにアメリカでも実用化に向けた動きが始まりました。そこで今回は、日本でも導入が見込まれるワイヤレス充電システムについてお話していきたいと思います。

ケーブルを必要としない充電システム「BMW Wireless Charging」

画像引用:https://www.bmwgroup.com/

ワイヤレス充電と言うと、最近では車載ホルダーを介してスマートフォンを充電する「Qi」(チー)という技術が記憶に新しいです。その仕組みは、充電モジュールに組み込まれたコイルとスマートフォン内部のコイルとの間に磁界を発生させ、「電磁誘導」によって電力を蓄えるというもの。BMWが実用化した「BMW Wireless Charging」も、基本的にはQiと同様のプロセスのもと、ワイヤレス充電が行われます。

上のイメージ画像を見ると、左下の黒い板のようなものに気がつくでしょう。これがBMWの開発した充電モジュール「Ground Pad」です。Ground Padには充電を促す「一次コイル」が内蔵されており、車両にはこれに対応する「二次コイル」が搭載されています。これらを近づけることで自動的に充電プロセスが始まるので、事実上、ドライバーはGround Padの真上に停車させるだけで電力を蓄えることが可能となります。

ドイツでは5シリーズセダンにオプションとして設定

冒頭で触れたとおりBMW Wireless Chargingは、2018年5月からドイツの市販モデルに搭載され始めました。記念すべき第一号車は、5シリーズセダンのプラグインハイブリッドモデル「530e iPerformance」です。BMWが公式アカウントでPVを公開しているので、こちらをご覧いただくとイメージが湧くと思います。

動画のように、設置されたGround Padを車載センサーが検知すると、センターディスプレイが停車ガイドのアナウンスを始めます。ディスプレイが車体を俯瞰的に映すモードに切り替わり、Ground Padへ向けて青と緑のラインを表示するので、ドライバーはこれに従って車体を操作します。

適切な位置で車体を停めればワイヤレス充電が自動的に始まるので、ドライバーはそのまま鍵を閉めて降りるだけ。スマートフォンのアプリと連動させれば常に充電状況をチェックできるので、次に運転するときまでクルマに触れることはありません。すなわち、充電に関してまったく手間がかからないのです。

BMW Wireless Chargingは最大3.2kWの充電力を発揮します。これは充電効率やバッテリー容量を考慮すると、約3時間半で充電が完了する計算。「充電に3時間以上」とだけ考えると長く感じるかもしれませんが、普段通りに駐車するだけで充電が完了するので、実際にはほとんど気にならないでしょう。

「BMW eDrive」テクノロジーにより高い性能を維持

充電にケーブルを使わないことから、「走行性能が低いのでは?」との意見も聞こえそうですが、けっしてそんなことはありません。部品点数が増えることから「530i」や「530d」よりも100~200kgほど車体が重くなりますが、530e iPerformanceもプラグインハイブリッドらしからぬ走行性能を実現しています。これを支えているのが、電動駆動システムである「BMW eDrive」テクノロジーです。

「BMW eDrive」テクノロジーは、電気モーターとリチウムイオン・バッテリーを高い次元で組み合わせ、高出力と高効率を両立させた技術です。とりわけ環境性能が高く、「530e iPerformance」のCO2排出量はわずか36~52g/kmという数値。ガソリンモデルである「530i」は132g/km以上なので、比較するとCO2の排出量はわずが36%に留められているのです。

ちなみに、ハイブリッドカーとして世界的にシェアの高いトヨタ「プリウス」は、CO2排出量が60~68g/kmと公表されています。プリウスは自然吸気(NA)の1.8Lエンジンを搭載していますが、対する「530e iperformance」はツインターボの2Lエンジンです。このように比較すると、どれほど圧倒的な環境性能かが分かります。

ついにアメリカでも販売に向けた動きが?

先でお話したとおり、2019年5月にアメリカでも実用化に向けた動きが始まりました。BMW USAはこの実証実験を「パイロットプログラム」(BMW Wireless Charging Pilot Program)と名づけ、カリフォルニア州の複数の参加者を対象に「530e iPerformance」のリース契約を結び、試験運用を行う方針です。

具体的な目的は、アメリカのクルマ社会において「ワイヤレス充電がきちんと機能するか」を見極めることです。どういった点に問題があるのかを知るため、ヒアリングを通じて細かい部分までリサーチを図ります。参加者の条件は「密閉されたガレージを持つカリフォルニア在住者」に限られますが、Ground Padの初期設置、メンテナンス、取り外しにかかる費用はすべてBMWが負担するとのこと。

プログラムの進行には、カリフォルニアに本拠地を置く提携企業「Qmerit」の展開するオンラインプラットフォームを使用します。ソフトウェア事業を行うQmeritは、アメリカにおけるBMWの電動車両オーナーにオンラインサービスを提供しているため、今回のプログラムを主導することとなりました。

「モビリティの電動化」を目指すBMW

画像引用:https://www.bmwgroup.com

「フル・エレクトリック」(完全電動化)はBMWグループの掲げる大きな目標の1つです。現在BMWでは、世界中の10ヵ所の工場で電気駆動モデルを製造しており、2025年にはEV(エレクトリックビークル)とPHV(プラグインハイブリッドビークル)の販売台数が全体の15~25%になると予測しています。この普及率をさらに高めるには、法的規制やインフラストラクチャーを整えることが重要な課題です。

ワイヤレス充電は、これらの問題を解決し「効果的に電動化を進めるため」にBMWが出した答えなのです。アメリカでの実証実験を経て、やがてイギリスや日本へも導入することが明らかになっており、おそらく他のモデルや充電ステーションの開発にも着手していると考えられます。

10年前なら、「クルマを無線で充電する」なんて誰も信じなかったでしょう。しかし、BMWはそんなSF映画のような技術を可能にしました。電動化へ向けて最先端を走るメーカーとして、今後もBMWの動向から目を離せません。

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