実はグローバル企業!スズキのしたたかな海外戦略とは?

国内では軽自動車のイメージが強く、また鈴木修会長の「町工場の社長」的キャラクターも相まって、スズキは国内市場に特化した自動車メーカーという印象を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、実は古くから積極的に海外のマーケットにチャレンジし、独自の存在感を発揮しているグローバル企業だということをご存知でしょうか。2018年度の国内での販売台数725,110台に対し海外での販売台数は2,602,064台と、実に3倍以上を海外で販売しています。とくに自動車産業の発展著しいインドでは圧倒的な成功を収めており、そのシェアは約50%と圧倒的です。その一方で、自動車産業の中心地である北米や中国からは既に撤退済であるなど、他車とは一線を画した独自の戦略で注目を集めています。今回はスズキのしたたかな海外戦略について解説していきます。

2台に1台がスズキ車?インドでスズキが強い理由は?

インドで生産し日本に輸出しているバレーノ 画像引用:https://www.suzuki.co.jp

2018年度の自動車販売台数において、ついにインドはドイツを追い抜いて世界第4位になりました。現在の人口は中国に並ぶ約13億人ですが、あと数年後にはインドが最大の人口国になると予想されており、自動車販売台数の伸びはまだまだ続くと言われています。

このインドで圧倒的な強さを見せつけているのがスズキで、現地の子会社であるマルチスズキ(Maruti Suzuki)は2018年度に約186万台を販売しています。日本国内のすべてのメーカーを合わせた2018年度新車販売台数が526万台ということを考えれば、そのすごさが実感できるのではないでしょうか。

さらにシェアを見るとインドの新車販売台数の内、スズキの車はほぼ50%を占めており、2位以下に大きく差をつけています。2019年1月には新工場も完成し、スズキのインドでの年間生産台数は200万台となりましたが、2020年度をめどに新たな工場を稼働させる予定で、さらに生産台数は拡大していくでしょう。

スズキとインドのかかわりは古く、1982年には早くもインド政府と合弁生産について基本合意を取りつけています。かつてインドでは高い関税のかかる輸入車か、あるいは旧態依然とした古い国内生産車しか選択肢はありませんでした。そこにスズキは2代目アルトをベースにしたインドでの戦略車、「マルチ800」を新時代の国民車として投入します。これまで自家用車を購入できなかった層が高品質で低価格のマルチ800をこぞって購入したことから、累計300万台にも達するベストセラーカーになりました。

インドで大成功を収めたマルチ800 画像引用:https://www.globalsuzuki.com

「マルチ800」の成功が、その後インドでのスズキの発展の足掛かりとなったことは間違いないでしょう。

インドでこれほどスズキのクルマが受け入れられている理由ですが、一つには徹底的に現地のニーズをくみ取った開発が行われていることが挙げられます。例えばインドでは全長4m以下のクルマには税制上、大きな優遇措置があることから、マルチスズキの主要車種のほとんどは全長4m以下に抑えられています。

また、インドにおいて自家用車はまだまだ庶民にとっては憧れの対象であることから、いくら安くてもチープさが目立つクルマは支持を得られません。かつてインドのタタ・モーターズが日本円で21万円程度の「タタ・ナノ」を発表して話題になりましたが、助手席側ドアミラーもないようなチープな仕上がりで、インドでのユーザーからの反応は芳しいものではなく、販売でも苦戦を強いられました。

一方、スズキは本革内装の「バレーノ」など、サイズはコンパクトでもニューリッチ層の所有欲をくすぐる仕様も用意しています。さらに「NEXA」(ネクサ)というマルチスズキよりも高級なブランドのディーラーも展開し、ユーザーの大衆車からステップアップしたいというニーズにもしっかり対応しています。

インドでの主な生産車種は「バレーノ」、「スイフト」及び「ディザイア」となっています。ちなみに「ディザイア」は日本では販売されていない、スイフトの4ドアセダンバージョンです。インドで10年以上にわたりこのクラスのセダンNo.1の売り上げを誇り、累計販売台数も190万台とマルチインドのドル箱的存在になっています。

インド市場でのベストセラーセダン、ディザイア(DZIRE)
画像引用:https://www.globalsuzuki.com

 

ハンガリーを拠点に欧州市場をカバー

ハンガリーで生産し日本に輸入しているエスクード(海外名:VITARA)
画像引用:https://www.suzuki.co.jp

欧州でのスズキの拠点となるのがハンガリーのマジャールスズキです。「マジャール」とはハンガリー語でハンガリーの意味になります。スズキがハンガリーに工場を設立したのは冷戦終結からまだ間もない1992年でした。
当初は、東欧に向けた安価な小型車の製造を目的にしていましたが、ハンガリー経済の発展に加えEUが設立されたことで欧州域内での自由な輸出が可能となり、結果的に欧州全域をカバーする役目を果しました。

工場の稼働から約30年間で累計生産台数は300万台を突破し、現在も年間30万台がハンガリーから欧州各地に出荷されています。

マジャールスズキではスイフトの他に、エスクードやSX4 S-CROSSなどを生産しており、エスクードとSX4 S-CROSSについては日本への輸出も行っています。スズキの進出と成功により自動車産業はハンガリーの主要産業となるまでに成長し、デンソーやボッシュといった数多くの自動車関係部品メーカーも進出しています。

現在、ハンガリーは国を挙げて自動運転技術への取り組みを行っており、世界最大級の自動運転用テストコースも完成させました。また自動運転に欠かせない技術となる次世代通信規格、5Gの普及に向けたテストでも欧州では最先端を走っており、今後、ハンガリーで開発されたスズキの自動運転車がデビューするかもしれませんね。

GMとの提携で参入、そして「卒業」した北米市場

北米でヒットしたジムニー(海外名:SAMURAI)
画像引用:https://www.globalsuzuki.com

スズキはかつてGMと提携関係を結んでいました。小型車のノウハウを持たないGMにとってスズキはこれ以上ないほどのパートナーであり、良好な関係を築いていました。

80年代には北米市場においてカルタスなどのコンパクトカーをGMブランドで販売し、その反対に大型車をラインナップに持たない日本国内のスズキディーラーでポンティアックやシボレーといったアメリカ車を販売していたこともあります。

スズキ自身も1985年にASMC(アメリカン・スズキ・モーター社)を設立し、ジムニーを「SUZUKI SAMURAI」として販売し、若者を中心に人気を集めます。また、2000年代に入り初代スイフト(HT51S型)をベースにした「シボレー・クルーズ」を開発し、スズキとGM両方のディーラーで販売するといったことまで行われていました。シボレー・クルーズの「スズキとGM、共同開発」というキャッチコピーを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、ご存知のとおり、その後GMの財務状況が急速に悪化したため、GMは保有していたスズキの株式を手放し、2008年に両社の提携は終焉を迎えました。

北米進出を図った多くの国産メーカーは現地に自社工場を設立しており、スズキもカナダにGMとの合弁生産拠点である「CAMI」を持っていましたが、GMとの提携解消に伴い2009年に手を引いたことから北米での足掛かりを失ってしまいます。

そのため北米市場では日本からの完成車の輸入がメインになりましたが、円高により調達コストが増大したこともあり急速に競争力を失い、2012年11月6日には北米での四輪販売事業から撤退することを発表したのです。

スズキの鈴木修会長はGMとの関係について聞かれると、28年間の提携に感謝を示すとともに、「小学校を卒業して中学校に入る際に先生が変わったという気持ち」と敬意を込めて表現しており、最後まで両社が良好な関係を保っていたことをうかがわせます。

自動車業界に激震!中国市場からスズキが撤退した理由は?

中国でも生産していたスイフト(ZC11S)
画像引用:https://www.globalsuzuki.com

2018年に中国での新車販売台数は約2,800万台でした。前年比では2.8%減と若干成長に鈍化はみられるものの、北米の約1,730万台と日本の約525万台を合わせたよりも多く、いかに大きな市場かが理解いただけるのではないでしょうか。

各自動車メーカーが中国市場への対策に躍起になっている中で、スズキが2018年9月4日にパートナーである長安汽車との合弁解消を発表したことは自動車業界に衝撃を与えました。長安汽車では引き続きスズキ車のライセンス生産を行うようですが、2018年6月にはすでにもう1つの合弁相手である昌河鈴木とも合弁を解消しており、事実上、スズキは中国市場から完全撤退したことになります。

スズキが中国市場に本格的に参入したのは1993年で、この年に長安汽車公司と乗用車合弁生産契約に調印していますが、長安汽車公司とはそれ以前の1984年から提携を行っていることから、慎重に参入の機会をうかがっていたのではないでしょうか。

中国で生産していたのはアルトなど、スズキが得意とする小型車でした。2000年代初頭に中国を訪れると、現地生産のアルト(2代目)を見かける機会も少なくありませんでした。

しかしここ数年は中国経済の大幅な進展に伴い、ユーザーのニーズが急速により大きく立派なクルマのほうに移っていきました。かつては自家用車を所有しているだけでステイタスだったのが、普及が進むにつれ状況は変わっていきます。ドイツブランドの高級車も、今や本国や北米よりも中国での販売台数が多くなっていることをみてもそれは明らかでしょう。

中型車以上のラインナップが不足しているスズキには非常に不利な状況となってきたことから2010年以降、販売台数は下降の一途をたどります。

さらに2019年以降、中国政府による新エネルギー車(NEV)規制が導入されることの影響もあります。中国のNEV規制とはEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)及びFCV(燃料電池車)を一定の割合で販売しなければならないという内容で、ハイブリッドしか持ち駒のないスズキには厳しい条件となっています。

NEVの導入にあたってはガソリン車の技術について先行する欧米や日本のメーカーに追いつけない自国の自動車産業を何とか対抗できるレベルにもっていきたいという中国政府の思惑も見え隠れします。

政府からの信頼も厚いインドと異なり、「政府の意向に振り回される可能性の高い中国市場は非常にリスキー」、という判断もあって撤退を決断したのではないでしょうか。

中国からの撤退もそうですが、ドイツのVW社との提携を解消する一方でトヨタと広範囲に及ぶ技術提携を結ぶなど、スズキの海外戦略のしたたかさ、フットワークの軽さは日本の企業として際立っていると言えるのではないでしょうか。

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