アルト40周年!軽自動車の革命児のヒストリーを追う

スズキアルトは1979年に誕生、「アルト47万円」のキャッチコピーで大ヒットを記録し、軽自動車市場に革命を起こしました。その後も伝説のスポーツモデル「アルトワークス」など、新たなアイデアで市場をけん引してきました。同じスズキのワゴンRに代表されるハイト系ワゴンに軽自動車の主流が移行し、存在感が薄れた時期もありましたが、現行型では原点に立ち返り、初代のシンプルさが復活、さらに走りの「ワークス」も再登場し話題を集めました。

令和元年となる2019年秋、フルモデルチェンジとの情報も出ているスズキアルトのヒストリーについて解説します。

「アルト47万円」の衝撃!

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スズキアルトのデビューは1979年5月でした。アルトの登場は衝撃的で、現在の軽自動車市場の始まりはアルトから、と言っても決して大げさではありません。

初代アルトの成り立ち自体は、当時スズキの主力軽乗用車だった「フロンテ」の単なる商用車でしかありませんでした。

しかし、この商用車バージョンというのが実はポイントだったのです。1989年に消費税が導入されるまで、乗用車を購入する際には物品税という税金が課せられていました。物品税は、いわゆる「贅沢税」であり小型乗用車には18.5%、軽乗用車にも15.5%という高い税率が適用されていました。ちなみに、3ナンバー車は23%と、現在の消費税が一律8%であることを考えると、いかに高い税率だったかを実感いただけるかと思います。

それに対して、トラックやバンなどの商用車は生産財であるとして非課税とされていたのです。
スズキはその点を突きました。4ナンバーの商用車とするためには後席を荷室よりも狭く、簡素な造りにする必要がありますが、事前の市場調査により、多くの軽自動車ユーザーが1、2名で乗車しているという実態をスズキは把握していたのです。

そして当時、新車はムリ、とあきらめていたユーザーは50万円以下の中古車を購入しているというデータもあったのです。そこから、全国統一で47万円という価格を打ち出し、そのために強烈なコストダウンを図ります。
駆動方式は部品点数の少ないFFを採用、ボディはプレスしやすい直線基調でエンジンは当時としても旧式の2サイクル3気筒エンジン、グレードは2ドア4MT仕様の1グレードに絞り、装備もヒーターのみ、さらに助手席側ドアのカギ穴まで省略するという徹底ぶりでした。

「チープシック」な時代にフィットしたアルト

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このように涙ぐましいまでのコストダウンを重ねた初代アルトですが、逆にそのシンプルさが時代にフィットしたとも言えます。直線的なスタイリングは機能的で、広いグラスエリアや当時としては高い車高で小さいながらも運転席は解放感のある仕上がりとなっていました。当時の軽乗用車が乗用車の小型版を目指し、ごてごてとしたデザインや装備の充実化によってユーザーを引きつけようとしたのとは全く正反対のアプローチを取ったのです。初代アルトのテレビCMではパリの街をアルトが走るバージョンも作られましたが、パリの風景にとても馴染んでおり、まるで欧州の小型車のような雰囲気も感じられました。

初代アルトに若干遅れてイタリアではフィアットからジョルジェット・ジウジアーロがデザインした初代フィアットパンダがデビューしています。奇遇ですが、デザインはいずれも生産効率を重視した直線基調のもので、同じテイストさえ感じられます。当時、ファッションの世界では「チープシック」という、お金をかけないでシックに服をきこなす方法が登場し話題になっていました。それまでは贅沢品の象徴だったクルマに対しても、ファッション同様に「シンプルだけど実用的で、それがおしゃれ」と、考える人々が増えたのではないでしょうか。

バリエーションが多様化した二代目、そしてアルトワークスの誕生

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軽ボンバン(軽ボンネットバンの略称)という新たなジャンルを築いたアルトですが、その大ヒットを受けライバル車も次々と同じジャンルに新車を投入してきます。

アルトも1984年にフルモデルチェンジを行い、二代目に進化します。この時期は世界一厳しいと言われた排ガス規制から国産車が立ち直り、ターボやツインカムといった高性能車が復活してきた時期と重なります。

二代目アルトも当然その流れに乗り、ターボ車もラインナップしていましたが、1986年のマイナーチェンジでは12バルブDOHCエンジンを搭載したツインカム12RSを追加、オートバイメーカーでもあるスズキらしい高回転域まで軽くふけ上がるスポーティなエンジンが特徴でした。

しかし、ライバルのダイハツミラには専用エアロパーツを装備したターボモデルTR-XXが登場、残念ながらスズキはその後塵を拝することになってしまいます。

そこでスズキが用意した最終ウェポンが1987年に登場したアルト・ワークスです。1気筒あたり4バルブのツインカム3気筒にインタークーラーつきターボを追加、排気量543ccながら最高出力は64PS を発揮、そのパワーを吸収するために最上級グレードのRS-Xではビスカス式フルタイム4WDが組み合わされるという前代未聞の軽自動車だったのです。

エアロパーツやボンネットのエアスクープ、大型フォグランプといった専用の外装に加え、内装ではバケットタイプのシート(しかも色は黒とピンクの2トーン!)など、見た目のインパクトも圧倒的でした。

スズキでは当時、400ccながら59PSを発揮するエンジンをオートバイでは市販化していたので、実際にはさらにパワーのあるエンジンも搭載可能だったのですが、運輸省(当時)からの指導により、あえて64PSに抑えたと言われています。実は、これが現在も続く軽自動車の最高出力自主規制のきっかけとなりました。初代ワークスの販売期間は約1年半と非常に短かったにもかかわらず、ユーザーや自動車業界に与えたインパクトがいかに大きかったかを象徴するような出来事ではないでしょうか。

過激なワークスをリリースする一方、初代アルトを支持した女性ユーザーに向けた仕様も二代目のアルトには用意されていました。それが当時CMキャラクターに起用した人気女優をイメージした限定車、「アルト麻美スペシャル」でした。スカートの女性が美しく乗車するための回転ドライバーズシートを装備、ホワイト×パステルのさわやかなボディカラーで若い女性を中心に人気を集めました。

平成へ!スズキの最量販車種としての地位を築くが・・・

三代目アルトが登場した1988年にはめまぐるしく変わる制度への対応も迫られた時期でもありました。まず1989年(平成元年)にアルト誕生の要因ともなった物品税が廃止され、代わりに消費税が導入されます。これにより商用車であるメリットが消失したことからアルトも5ナンバーの乗用車となりました。

さらに1990年には軽自動車の規格改訂にあわせて排気量を550ccから現在と同じ660ccに拡大、乗用車化により広くなった後席や内外装の高品質化によりスズキの最量販車種としての地位を確立しました。しかし1993年にはアルトの地位を脅かす新型車が同じスズキから登場します。
それが皆さまご存知のワゴンRです。

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ワゴンRは販売を始めるやいなやスズキ自身の想定を超える大ベストセラーカーとなり、アルトに代わってスズキの基幹車種となるまでにそれほどの時間は要しませんでした。一方、アルトはワゴンRの隆盛に反比例するように、それまでの存在感を失っていきます。1994年にフルモデルチェンジした四代目ではコストダウンが目立ちバリエーションも減少、さらに1998年デビューの五代目ではラインナップされていたアルトワークスが2年で姿を消すことになります。

続く2004年の六代目では3ドア仕様が消滅、2009年の七代目ではグレードが4グレードにまで絞られたこともあり、自家用車ではなく営業車として見かける機会のほうが多くなったほどです。七代目アルトのモデル末期にあたる2014年の年間販売台数は76,117台、同じ年に226,725台を販売していたワゴンRの約三分の一にまで縮小していました。

原点回帰の八代目、待望のアルトワークスも復活

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それまでの状況を打破するべく、初代アルトの精神に戻ってシンプルな軽自動車を作ることをテーマに開発されたのが2014年12月に登場した八代目となる現行型アルトです。六代目、七代目と続いた曲線を多用したややファンシーなデザインから一転、初代アルトを思わせるシャープな直線基調のデザインに大型のヘッドライトでインパクトは十分でした。性能面でも徹底した軽量化を図ることにより運動性能を向上させるとともに37.0km/L(JC08モード)とハイブリッドカー並みの低燃費を実現しました。

さらに約15年ぶりにターボを搭載したスポーツグレード、「ターボRS」も追加されました。しかしターボRSは乗り味もしなやかで上品な半面、やや刺激に欠ける上、MT仕様が用意されなかったことから、ファンからは「かつてのワークス復活」を望む声が高まっていたのです。スズキでは当初、ワークスを復活させる構想はなかったとのことですが、ファンの声に押されるように2015年の東京モーターショーにワークスのコンセプトモデルを発表しました。これが大反響を呼んだことから2015年12月には正式に新型ワークスがラインナップに加わりました。

満を持して登場した新型ワークスは、ターボRSの単なるMTバージョンではありませんでした。エンジンには専用チューンが施されて最大トルクを増強、足回りではショックアブソーバーをより剛性の高いものに変更し、それに合わせて専用ホイールを採用、さらにサポート性に優れたレカロシートを運転席及び助手席に標準装備するなど、まさに伝統の「ワークス」の名に恥じないものとなっていました。

ワークスも加わった現行型アルトはユーザーから高い評価を得ており、スズキが発売時に掲げた月販目標7,000台も楽々クリア、ハイトワゴンが主流となった軽自動車市場でも再び確かな存在感を示しています。

新型アルトは「令和元年」デビュー?

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令和元年となる2019年、いよいよ九代目となる新型アルトがデビューするとの情報があります。車体の基本となるプラットフォームは一新されて居住空間を拡大、エンジンにはワゴンRにも搭載されているマイルドハイブリッド、「Sエネチャージ」が採用される可能性が大とのことです。

燃費はJC08モードで40km/L以上、モーターによる強力なエンジンアシストも期待できると言われています。もちろんワークスもラインナップされ、エンジンにはなんと直列3気筒ツインターボが採用される、という情報もあります。気になる登場時期ですが、標準車は2019年秋頃、ワークスは少し遅れて2020年のデビューとなるようです。

アルトからトップセラーの座を奪ったハイトワゴンのワゴンR、そしてその発展形とも言えるホンダN-BOXに代表されるスーパーハイトワゴンが販売の主流となった軽自動車市場ですが、令和元年デビューの新型アルトはその状況に一石を投じるかもしれません。

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