異色のオフロードバイク登場 ハーレーダビッドソンの「PAN AMERICA」

「もし、爽快かつ豪快にオフロードを走るハーレーダビッドソンがあるとしたら…」

そんな想像を膨らませるファンも多いと思いますが、本当に実現する日がくると誰が予想できたでしょうか。日本時間で2019年11月5日からイタリアのミラノで世界最大のモーターサイクルショー「ミラノ国際モーターショー(EICMA)」が開催され、ハーレーダビッドソンから世界中のファンにサプライズ発表がありました。それこそ、ハーレーダビッドソン初となるアドベンチャーツーリングモデルの「PAN AMERICA」です。

ハーレーダビッドソンの現行モデルといえば、ソフテイルやスポーツスター、ツーリングなどいわゆる大排気量OHVのV型ツインエンジンが映えるようなモデルが多くラインナップされていますが、オフロード走行を目的としたものは販売されたことはありません。しかし、今回のミラノ国際モーターショーで大々的に「PAN AMERICA」を披露したハーレーダビッドソンは、なぜこのタイミングでアドベンチャーツーリングモデルの販売へと舵を切ったのでしょうか。

ハーレーダビッドソンの描く世界戦略

「PAN AMERICA」の販売へと踏み切った裏には、2018年に発表された「More Roads to Harley-Davidson」の存在があります。これは、長期目標達成に向けた2022年までのロードマップとしての経営戦略のことで、ブランドの拡大に向けた新たな取り組みを次々と発表しています。

その中で、全5種類の新モデルを製品化することを目標としており、ハーレーダビッドソン初となるアドベンチャーツーリングモデル「PAN AMERICA」は2020年までに販売することを目指していたモデルです。では、ハーレーダビッドソンといえば大排気量のクルーザーやツーリングといったモデルで多くのファンを獲得している中、なぜアドベンチャーツーリングなど他セグメントへと進出するのでしょうか。

その理由の1つは、これまでの歴史の中でツーリングやクルーザーといったモデルでは市場をけん引するリーダーとして十分な存在感を示していること。そして、何よりもオートバイ全体のリーダーとなるために、多くの新たな挑戦が必要とされていることが主な理由と言えます。

オフロード走行に適したスペックに

新型水冷エンジンとV字型のシリンダー部分
画像引用:https://www.harley-davidson.com/

ハーレーダビッドソンが新たな挑戦として発表した「PAN AMERICA」ですが、やはり一番の特徴はオフロード走行が可能なところが挙げられます。長距離を走ることが目的のツーリングモデルとは異なったスペックの高さが求められるのがオフロードの世界であり、今回発表された情報ではハーレーダビッドソンもその点を重要視していることが分かります。

まず、オートバイの心臓部とも言えるエンジンは、新たに設計された「Revolution Max」という水冷エンジンが採用されるとアナウンスされています。新開発の水冷エンジンということもあり、排気量1,250ccに最大出力145PSというパワーのある設計になっています。とくにシリンダー部分は60度のV字型に配置されているため、スロットルボディのスペースが確保される以外にも空気抵抗が減るなどの恩恵が受けられるようになっています。

また、様々な状況に対応するべくパワーバンドが幅広く設けられており、エンジン性能の高さを十分に活かせるようにとの工夫もなされています。このエンジン性能の高さを最大限に活かすためには、ブレーキ機構もしっかりとした造りであることが重要です。

ラジアルマウントキャリパーとホイールパーツ
画像引用:https://www.harley-davidson.com/

「PAN AMERICA」では、”ラジアルマウントキャリパー”と呼ばれている仕組みが採用されています。オートバイが好きな方には馴染みのある単語かもしれませんが、一般的なブレーキキャリパーとの違いが分からないという人も多いのではないでしょうか。

まず、一見して分かるように形が異なります。ラジアルには放射状という意味があるように、星形に近い形をしているためカッコ良さという点で選ぶ人も多いです。この放射状のブレーキキャリパーをディスクローターの回転方向へマウント、つまり装着する方式が”ラジアルマウントキャリパー”と呼ばれているのです。

このラジアルマウントキャリパーを採用する大きなメリットとして、ねじれが少なく固定している各ボルトに均一に力がかかるため、剛性が高くなり制動力がアップするとされています。そのため、スピードを出してもしっかりと止まることができる。まさに、路面コンディションが悪いオフロードにも最適な造りになっているのです。

伝統のベルト駆動からチェーン駆動へ

前述したように新たなパーツを開発する中で、「PAN AMERICA」では伝統とも言えるベルト駆動方式ではなくチェーン駆動方式を採用しています。エンジンの回転をタイヤへと伝達させるために、ハーレーダビッドソンではドライブベルトと呼ばれる駆動方式を採用してきました。チェーン駆動方式と比較しても、調整や給油といったメンテナンスが必要なく、変速時の衝撃を吸収するなどの静粛性にも優れています。

一方で、熱に弱いだけでなく一度切れてしまうと新たなものに取り換えなければ走ることができないというデメリットも存在します。とくにオフロード走行では熱にも強く、過酷な環境下でも切れにくいチェーンベルト駆動方式が好まれて使われています。そのためアドベンチャーツーリングモデルである「PAN AMERICA」は、伝統的に採用してきたベルト駆動方式よりも耐久性に優れたチェーン駆動方式を採用しているのです。

アドベンチャーツーリングは万能モデル?

オフロード走行に最適な大容量ラゲッジスペース
画像引用:https://www.harley-davidson.com

前述してきたようにアドベンチャーツーリングモデルを冠している「PAN AMERICA」は、従来のハーレーダビッドソンにはないオフロード走行モデルとして期待が高まっています。一方で、アドベンチャーツーリングモデルという名前には“ツーリング”という単語も入っているため、オフロード専用のモデルではないの?と感じた人も多いのではないでしょうか。
いわゆる、アドベンチャーモデルというのは大排気量エンジンにハーフカウルが搭載されたデュアルパーパス(公道でも走れるよう、安全装備を搭載しているオフロードバイクのこと)を指すことが多いです。

また、ツーリングモデルというのは多くの意味で使われていますが、オンロードで大排気量のものを指すことが一般的です。つまり、「PAN AMERICA」はオフロード走行を目的としながらも、タウンユースでも使うことのできる万能なオートバイといえるでしょう。

これまでラインナップしてきたモデルの多くがロングドライブを目的としたものでしたが、近年ではタウンユースを目的としたモデルも増えてきています。
そして、今回の「PAN AMERICA」によってオフロードもタウンユースにも使えるモデルがラインナップされるということで、世界戦略の実現という点においても確実に歩みを続けていると言えます。

販売が待ち遠しい一台

この「PAN AMERICA」は2020年に展開予定とされており、具体的な販売日時は執筆時点(2020年1月)ではオフィシャルサイトでも発表されていません。しかしながら、オフィシャルサイトにも掲げられている「ツーリングが冒険に変わる」というスローガンに多くのファンが惹きつけられていることは言及するまでもないでしょう。

クルマの世界ではアウトドアを楽しむためのSUVモデルが流行しており、日本においても多くの支持を集めています。そのため、アウトドアフィールドで十分に性能を発揮することができる「PAN AMERICA」のようなモデルは、新たなブームをもたらす可能性も秘めていると言えます。ハーレーダビッドソンの歴史を変えるかもしれない革新的な「PAN AMEERICA」。ブームの波に乗り遅れないためにも、今後の情報を見逃さないようにチェックしておくことをオススメします。

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