これまでMINIを愛車としてきた方の中にも家族が増えた、あるいは趣味が増えたという理由で乗り換えを検討せざるを得ない方もいらっしゃるでしょう。でもMINI以外のブランドは選びたくない、という方に用意された選択肢が「ちょっと大きくて広いMINI」、クラブマンとクロスオーバーです。この2台、クルマの基本とも言えるプラットフォームこそ共通ですが、比較するとそれぞれに個性がありどちらを選べばよいか迷ってしまう方も少なくないようです。そこで居住空間、荷室の広さに加え、走りや街中での使い勝手、維持費なども含めてそれぞれどんな方に向いているかを解説していきます。
クラブマンとクロスオーバー、ボディサイズはどう違う?
クラブマン
クロスオーバー
クラブマンとクロスオーバー、ボディサイズはどれぐらい違うのか比較してみました。
全長 | 全幅 | 全高 | ホイールベース | |
クラブマン | 4,270㎜ | 1,800㎜ | 1,470㎜ | 2,670㎜ |
クロスオーバー | 4,315㎜ | 1,820㎜ | 1,595㎜ | 2,670㎜ |
MINI (5ドア) | 4,000㎜ | 1,725㎜ | 1,445㎜ | 2,565㎜ |
初代クラブマンはMINI(3ドア)をベースにしていましたが、新型になってBMW X1と同じ、UKL2と呼ばれるプラットフォームがクロスオーバーともども採用されたため、ホイールベースも同じです。MINIも現在では5ドアがラインナップされていますが、ホイールベースをあまり長くしてしまうとMINIに見えなくなってしまうこともあって5ドアは3ドア+70㎜の2,565㎜に抑えられています。この差がとくに影響しているのが後席の広さで、決して狭くはないものの膝回りや頭上回りにドアはやや余裕がない印象です。また、リアシートの背もたれの角度がやや立っており、リラックスしたい方には気になるかもしれません。
それに比べてクラブマンとクロスオーバーは膝回りや頭上回りにも余裕があり、背もたれもリラックスできる角度になっているので長距離ドライブでも疲れにくいでしょう。MINI5ドアと全幅を比較して80㎜近く広いこともあり、フル乗車でもよほど恰幅の良い方がそろわない限り、狭苦しさは感じないでしょう。
また、ホイールベースが長いためにリアドアの開口部も広く取れるために、MINI5ドアより乗り降りが楽になっている点もメリットです。
クラブマンとクロスオーバーを比較するとクロスオーバーは着座位置が高い分、ドアを開けるとかがみこまずにより自然な姿勢で乗り込めるのがポイントです。とくに赤ちゃんを抱えたままでもドアを開けて、チャイルドシートに座らせるという一連の動作がやりやすく、子育て世代に向いているのはクロスオーバーと言えそうです。
街乗りで使いやすいのはどちら?
最小回転半径はクラブマンが5.5m、クロスオーバーが5.4mと意外?なことにボディの大きなクロスオーバーのほうが小さくなっていますが、実用上はほぼ同じと考えて良いでしょう。
ところで、街乗りでの運転のしやすさですが、実はボディサイズ以上に視界が与える影響が大きいことをご存知でしょうか。筆者自身の経験になりますが、かつて軽自動車のスポーツカーとミドルクラスのドイツ製セダンに乗っていたことがあります。ボディサイズだけ見ればはるかに小さい軽自動車のほうが街中では有利のはずですが、実際に運転してみると着座位置が高くボディの四隅もしっかり把握できるセダンのほうが街中での取り回しや駐車がしやすかったのです。
クラブマンとクロスオーバーでも、より着座位置が高くボディの四隅が把握しやすいクロスオーバーのほうが街乗りでの取り回しはやりやすいと感じる方が多いはずです。クロスオーバーはアウトドア向けのクルマ、というイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は街乗りでもおすすめの一台なのです。
一方、クロスオーバーでネックとなるのが高い車高で、都心に多い機械式駐車場では1,550㎜までという制限を設けているところもあります。自分の生活圏、クルマで行動する範囲などを洗い出し、車高制限がないのであればクロスオーバー、制限があるならクラブマン、といった基準で考えてみてはいかがでしょうか。
荷室の使い勝手はどちらが上?
従来のMINIからの乗り換えを考えている方なら荷室の使い勝手はかなり気になっているでしょう。
奥行き | 横幅 | 高さ | トランク容量 | |
クラブマン | 720㎜ | 990㎜ | 560㎜ | 360L |
クロスオーバー | 740㎜ | 980㎜ | 830㎜ | 450L |
MINI (5ドア) | 580㎜ | 940㎜ | 500㎜ | 278L |
さすがにボディが一番大きなクロスオーバーは450 Lもの大容量を誇りますが、単に容量が大きいだけではなく、細かい使い勝手の良さもかなり研究されています。荷室の高さが十分なことに加え、フロアボードが装備されており、ボード下には普段使用しないようなものを収納することができるだけでなく、跳ね上げることでより背の高い荷物も積むことができます。
またオプションですが、このフロアボードには収納式のMINIピクニックベンチがついていて、引き出すことでリアゲートがベンチに早変わりします。しょっちゅう使う機能ではありませんが、アウトドア気分を盛り上げる、ちょっとわくわくする装備ですね。
一方のクラブマンも使い勝手の良さでは負けていません。クラブマンのデザイン的な特徴となっているのがリアのスプリットドアで、往年のオースチン・ミニ・カントリーマン/モーリス・ミニ・トラベラーからの伝統を受け継いだものですが、単なるデザイン上の遊びではありません。片方ずつ開閉が可能なので狭い場所での開閉もやりやすくなっています。クロスオーバーのような一般的なハッチドアだと駐車した際、後ろのスペースに余裕がないと開閉に気を使う場合がありますが、クラブマンであればそういった気づかいは不要です。
リアハッチドアには両車ともにオプションですが、コンフォートアクセスも設定されています。これはリモコンを携帯した状態でリアバンパーの下に足を出し入れすると手を使わずにハッチドアが開く仕組みです。
クロスオーバーでは開くだけでなく、同じ動作をすることで閉めることができます。一方、クラブマンは閉めることはできませんが、右側のスプリットドアを開き、再び足で操作すると左側が開く仕組みになっています。両手が荷物でふさがっているときにありがたい装備ですが、実際に使ってみると、思った以上に便利な機能なので、おすすめのオプションです。
結論としては、とにかく荷物が多い方、ロードバイクなど高さのあるものを積むといった方にはクロスオーバー、広さに制限がある場所で荷物を積み下ろす機会が多い方にはクラブマンがおすすめでしょう。
より運転が楽しいのはどちら?
プラットフォームやサスペンションなどは共通の2台ですが、MINI伝統の軽快さは残しつつも、それぞれのキャラクターに合わせたチューニングが施されています。
MINIの走りはよく、「ゴーカートフィーリング」と称されるように、短いサスペンションストロークにより、ステアリングを切りこむとスパッと車体の向きを変える俊敏さが特徴でした。
クラブマンはホイールベースが延長されていることから、3ドアのような軽い身のこなしとまでは行きませんが、MINIらしいダイレクトなフィーリングはしっかり残されています。
それでいて乗り心地や高速道路での直進安定性では、3ドア及び5ドアから大幅に向上しているのがクラブマンの特徴です。凸凹を通過したときの、「ガツン」とくる最初の衝撃をきれいに吸収する一方で、コーナーを回る時にはしっかりとロールを抑えた、大人な乗り味を実現しました。とくに後席では3ドアよりも落ち着いた乗り心地となっているので、後席に人を乗せる機会が多い方にはありがたいですね。
一方、クロスオーバーは車高が約12cm高くなっていることもあり、他の小型SUVと比較すれば十分俊敏ではあるものの、クラブマンに比べるとロールはやや大きめでゆったりとした乗り味が特徴です。
クロスオーバーは、当初ディーゼルエンジン仕様を中心にラインナップしていたことからも明らかなように、低回転から発生する強力なトルクを活かし、高速道路をまっすぐどこまでもクルージングしていく、といった使い方が似合っているでしょう。
維持費で有利なのはどちら?
ボディが大きく重くなりがちなSUVは燃費が悪い、というイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。しかしクラブマンとクロスオーバーでは同じエンジンを搭載するグレード「COOPER D」(2ℓディーゼルターボ)同士で比較してみると、JC08モード燃費ではクラブマンの22.0km/Lに対してクロスオーバーは21.2km/ Lと僅差にとどまっています。これは車重で比較すると、クラブマンが1,490 kgでクロスオーバーが1,540㎏と50㎏増にとどまっていることに加えて、クラブマンは225/45R17と、クロスオーバーとタイヤ径は同じながら、燃費面では不利な扁平率の高いタイヤを履いていることによるものと考えられます。
一方、1.5Lのガソリンターボを搭載するベーシックグレード「ONE」で比較すると、クラブマンは17.2km/ℓ、クロスオーバーは14.2km/Lと大きく差が開いてしまいます。「ONE」でのタイヤサイズはクラブマンが205/55R16、クロスオーバーが205/65R16で、車重についてはクラブマンの1,430㎏に対しクロスオーバーは1,490 kgと条件的には「COOPER D」の場合とほぼ同じなのに、燃費差が生じる理由はどこにあるのでしょうか。
1つには、2.0ℓのディーゼルターボは低回転域から力強いトルクを発生させるので、あまりアクセルを踏みこまなくても十分な加速が得られることが挙げられるでしょう。一方、「ONE」の1.5Lのガソリンターボは実用上、不足はないものの余裕があるとまでは言えないことからどうしてもアクセルを開け気味に走ることになります。同じ1.5Lターボでもチューニングによってパワーを34PSアップさせた 「COOPER」ではクラブマンが17.1km/L、クロスオーバーは16.6km/Lと差が大幅に縮まることからも明らかでしょう。
クラブマンにせよクロスオーバーにせよ1.5Lのガソリンターボと2.0 Lのディーゼルターボのどちらを選ぶか悩ましいところですが、参考までにクロスオーバーで燃費にどの程度差がつくかをシミュレーションしてみましょう。
クロスオーバーの「ONE」(燃費:14.2km/L)、「COOPER」(燃費:16.6km/L)及び「COOPER D」(燃費:21.2km/L)について、ハイオクが153.1円/L、軽油を124.0円/Lで計算すると10,000km走行時の燃料費は以下の通りです。
- ONE:107,817円(ハイオク)
- COOPER:92,228円(ハイオク)
- COOPER D:58,491円(軽油)
なんと「ONE」と「COOPER D」では、ほぼ5万円近く差がついてしまいました。もともと「ONE」と「COOPER D」の価格差は55万円ですが、距離を走ればその差はどんどん小さくなっていきます。予算の都合上「ONE」でいいか、と考えている方もいらっしゃるかと思いますが、年間走行距離が多い方であればむしろ「COOPER D」のほうが良い選択となるかもしれません。軽快な「COOPER」のガソリンターボも魅力たっぷりですが、こと維持費という面で言えば「COOPER D」のディーゼルターボの方がベターなチョイスとなるでしょう。
購入にあたってのモデルケースとして、ファミリーカーとしてもアウトドアでがんがん使える広さ、そして何より燃費も重視したいという方であればクロスオーバーの「COOPER D」をおすすめします。
もし、広さも欲しいけれどMINIらしい軽快なハンドリングとそれに相応しいパワフルなエンジンが好みという方にはクラブマンの、それもベーシックグレードの「ONE」ではなく136PS仕様の「COOPER」もしくは192PS仕様の「COOPER S」をまずは検討してみてはいかがでしょうか。