今がラストチャンス?至高のBMW V12エンジンを解説!

V型12気筒エンジンはそのスムーズなフィーリングで高級車に用いられてきました。高度な技術が必要でコストもかかることから製造できるメーカーは限られ、BMWはその数少ないメーカーの1つです。環境問題やEV化の波など内燃機関をとりまく現状は厳しくなる一方で、BMWのV12エンジンを味わえる期間は残りわずか、という話もあります。BMW V12エンジンの特徴やこれまでの搭載車、現在のラインナップまで解説していきます。

至高のエンジン、V型12気筒

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V型12気筒エンジンはその名の通り、12個のピストンを6個ずつV字型になるように並べた型式で古くから高性能なエンジンの代名詞となってきました。型式的には直列6気筒エンジンを2つつなげた形とも言え、古典的な呼び方では「ダブルシックス」と称されることもあります。もともと理論上ではガソリンエンジンに発生する一次振動及び二次振動がゼロになることから完全バランスと言われている直列6気筒を基本としているので、いやな振動が発生せず高回転までスムーズに回るフィーリングが世界中のクルマファンを魅了してきました。

V型12気筒よりも気筒数を増やすと乗用車に搭載するには長すぎてしまい、一方でアメリカ車によく用いられているV型8気筒(こちらは直列4気筒を2つつなげたものと言えます)は独特の振動が発生してスムーズさでは及ばないことから、ガソリンエンジンの型式としてはV型12気筒が限界であり、そして究極とも言える存在です。

V型12気筒はサウンドも魅力的です。直列4気筒やV型8気筒がロックなどのビートミュージックとすれば、V型12気筒のサウンドは、さまざまな楽器が滑らかにまじりあうオーケストラのよう、とよく例えられます。

クルマを開発するエンジニアや、また自動車メーカー自身にとってもV型12気筒エンジンは憧れの存在であり、ラインナップに加えることは一種のステイタスでした。ロールス・ロイス、ベントレー、フェラーリ、ランボルギーニ、ジャガーといった世界中の名だたるブランドがV型12気筒を搭載していたことをみれば理解いただけるのではないでしょうか。

V型12気筒は消滅する運命?

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そんな数々の美点をもつ究極のエンジン、V型12気筒ですが、もちろんデメリットも存在します。部品点数が多く、それらがスムーズに動くためには高い精度が求められることからどうしても開発及び生産コストが高くなります。全長が長くなるため、現在主流となっているエンジン横置きの前輪駆動車には搭載できません。また重量も重くなることから、ある程度排気量の大きな高級車にしか搭載できず、量産効果によるコストダウンは困難です。燃費の面でも芳しくなく、かつてのV型12気筒エンジン搭載車では街中でリッターあたり2~3㎞しか走らないクルマもざらでした。

ターボチャージャーの技術が進化したことで12気筒化して高回転まで回さなくてもパワーを得ることが容易になり、またモーターを使用するEVではもともと内燃機関のような振動がなくスムーズなフィーリングが実現できるとあっては、あえてV型12気筒を採用するメリットがなくなってきていると言えます。

フェラーリやロールス・ロイスといった富裕層向けの超高級車を除いた乗用車メーカーでV型12気筒エンジン搭載車をラインナップしているのは、今やBMWとメルセデスベンツのみとなってしまいました。国産車ではかつてトヨタが最高級車センチュリー用に専用のV型12気筒エンジンを用意していましたが、先頃のフルモデルチェンジによりV型8気筒+ハイブリッドに切り替えています。また、メルセデスベンツも2019年をもってSクラスに搭載しているV型12気筒エンジンを廃止することをアナウンスしていることから、V型12気筒エンジンを生産する乗用車メーカーはBMWのみとなってしまいそうです。そんなV型12気筒エンジンの最後の砦となったBMWのV型12気筒車の歴史を振り返っていきます。

悲願のV型12気筒―BMWのV型12気筒を振り返る

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もともとBMWはエンジンの製造を車名の由来にしているほどで、高性能なエンジンには定評があり、その中でも直列6気筒エンジンはそのなめらかなフィーリングから「シルキーシックス」とまで称されています。その技術を活かしてV型12気筒エンジンを開発することはBMWの悲願でしたが、市販化までの道のりは決してたやすいものではありませんでした。

V型12気筒エンジンの開発が持ち上がったのは1978年に登場したBMW初のスーパースポーツ、M1の開発においてでした。しかし、折しもオイルショックの真っ只中という社会状況に翻弄され開発は中止となり、M1には高性能にチューンされた直列6気筒エンジンが搭載されました。

最初にV型12気筒エンジンが搭載され、市販化されたのは2代目7シリーズ(1986年-1994年)で1988年に追加車種として登場した750i及びそのロングホイールベースバージョンの750i/Lでした。このエンジンはドイツでは戦後初のV12エンジンとなりました。ライバルとなるメルセデスベンツがV型12気筒エンジンをSクラスに搭載してデビューさせたのはそれに遅れること4年の1992年で、ここはエンジンを誇るBMWが意地を見せたというところでしようか。

このSOHC V型12気筒4,987㏄のエンジンは当時のBMWのもつ最新の技術を惜しみなくつぎ込んだ力の入ったものでした。万が一のエンジントラブルに備えてV型エンジンの両バンクに独立した燃料系統と電気系統が備えられていました。いわば2つのエンジンが備えられているようなもので、もし何らかのトラブルが片側で発生しても残りの6気筒で走行が可能でした。全くの新規開発でドイツでの戦後初、それも最高級車に搭載されるV型12気筒とあって失敗は絶対できない―それだけBMWも慎重になっていた、ということなのでしょう。大排気量ながら当時としても比較的抑えたパワーはジェントルなフィーリングで、アメリカンV8車のような荒々しさはみじんもなく、しかし大柄な車体をスムーズにそしてスポーティに走らせることができました。

7シリーズに遅れること2年、従来の6シリーズに代わって登場したラグジュアリークーペ、8シリーズもV型12気筒専用車(のちにV型8気筒車も追加)としてデビューしました。現時点では7シリーズ以外では唯一V型12気筒エンジンを搭載したシリーズとなっています。このエンジンは素質の良さからF1コンストラクター、マクラーレン初のロードカー、マクラーレンF1のエンジンとしても採用されています。

3代目7シリーズ(1994年-2001年)でもV型12気筒エンジンはラインナップされましたがロングホイールベースのLのみとなり、さらに後席を伸ばしたストレッチリムジンのL7が追加されています。これ以降のモデルでもノーマルホイールベースバージョンはラインナップされていませんが、V型12気筒エンジンのキャラクターや購入ユーザー層を考えれば当然と言えるでしょう。

4代目(2001年-2009年)ではエンジンがDOHC化、変速機も6ATに進化し、五代目(2009年-2015年)ではついにツインターボが装着され、出力は544ps/rpmまで向上しており、変速機も最新の8ATが組み合わされました。

ツインターボと四輪駆動で武装した現行モデルはハイパフォーマンスの「M」

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2015年にデビューし、2019年にLCI(ライフ・サイクル・インパルス、いわゆるビッグマイナーチェンジ)を受けたのが5代目となる現行型7シリーズです。BMWの高性能バージョンである「M」を冠したM760Li X Driveに搭載されているN74Bと名づけられたV型12気筒エンジンの最高出力は609ps/rpmと、最初のV型12気筒の2倍以上にまで高められており、そのパワーを路面に確実に伝えるために四輪駆動が組み合わされています。

トップ・オブBMWとなる高級サルーンが、BMWのモータースポーツ部門であるM社がチューニングした「Mパフォーマンス」仕様となるあたり、後席重視のリムジンではなく、あくまでドライバーズカーであることを主張しているところにBMWらしさを感じさせます。

見た目はジェントルなサルーンでありながらそのパフォーマンスは強烈です。何しろ0-100km/hまで3.7秒しかかからず、最高速度305km/hに達するというスーパースポーツカー並みの走りを魅せます。それでいて高速道路では12個のシリンダーが奏でる静かなシンフォニーをBGMに、極上の乗り心地でロングドライブも余裕でこなします。

最近の若い経営者の中には昼間はばりばりと仕事をこなし、夜はジムでトレーニング、そして週末はトライアスロンの大会に出場、といったアスリート気質の方も多いようですが、そういった方にこのM760Li X Driveは似合いそうです。

また、LCIによってBMWのシンボルであるキドニーグリルが従来型より40%も大きくなったアグレッシブなデザインもこのパフォーマンスにはよりふさわしく感じられます。

2023年、BMW V型12気筒が消滅?

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BMWでは2023年まではV型12気筒エンジンをラインナップすることをアナウンスしていますが、それ以降については不明です。2023年としているのは新たな環境規制が導入されることを見越してのことですが、大排気量車には非常に厳しい規制となることが想定されています。そうなれば、現行型のM760Li X DriveがBMWのV型12気筒エンジン搭載車としてはラストランナーとなるのではないでしょうか。

時代の流れと言ってしまえばそれまでですが、BMWのV型12気筒エンジンが消滅してしまうことは、ファンとして一抹の寂しさを感じずにはいられません。

究極のガソリンエンジン、BMWのV型12気筒車を堪能したいのであれば今がラストチャンスとなりそうですね。

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