東京オリンピックの開催地として世界から注目を集めている日本。1964年に開催された東京オリンピックは、戦後の日本の復興と高度経済成長期への契機とも言える出来事でした。このとき自家用車普及のために山間部から海の中まで、あらゆる場所に道路が整備されたために先進国の中でも自家用車の普及率は高い水準にありました。
一方で、同じ島国であるイギリスは広大な草原と湿潤な気候を持つ国ですが、クルマに関して日本との共通点も多くあります。例えば、日本と同じ左側通行のため多くのクルマに右ハンドルを採用しています。また、その気候からも堅牢な車体づくりがなされており、四季が明確な日本でも故障しにくいクルマが多いと言われています。そして、何よりもアメリカのように大型の車体よりも、小型〜中型サイズの車体が好まれているという共通点があるのです。
親しまれてきたコンパクトな”MINI”
1959年に初代”MINI”が販売された当初は”大衆車”ということを意識した設計になっており、車体はコンパクトかつ装備もシンプルにというものでした。そして、MINIの生みの親とも言えるジョン・クーパーがハンドリング性能とサスペンション機構を重視した設計に変更し、”ミニ・クーパー”が誕生した後もコンパクトさは継承されていきました。いわゆる”ローバーミニ”と呼ばれているものは1997年~2000年まで販売されており、現在市場に多く出回っているのがこの時期に販売されていたものです。
この時期のモデルを参考に車体サイズを見てみると、3,075×1,440×1,330mm(全長×全幅×全高)となっています。もちろん、MINIは特別仕様車やクーパーモデルなど様々なモデルが存在していますが、どのモデルでも基本的にはこの大きさと変わらないように設計されています。また、重量も700~750kgほどと軽量でありますが、排気量は1,300ccと見た目よりもパワーのあるクルマと分かります。
ところで、ナンバープレートをみて3ナンバーか5ナンバーなのかでおおよそのサイズが分かる人は多くても、日本におけるクルマの区分について詳しく知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。実は、”ローバーミニ“と現行モデルを比べるときに、これらの基準を知っておくとサイズの違いが分かりやすくなります。
MINIは昔より大きくなった?
日本におけるクルマの分類は“道路運送車両法”と“道路交通法”によるもの、大きく2つに分けられています。2つの規格が存在しているの?と思ってしまいそうですが、実は分類の方法が異なるだけで皆さんも自然と日常的に使い分けているのです。
まず、道路運送車両法による分類は、車検証に記載されている区分としても知られています。これが前述したような、軽自動車・5ナンバー車(小型自動車)・3ナンバー車(普通自動車)で分類されているものになります。
一方で、道路交通法による分類は運転免許証に記載されているものにあたり、大型自動車・中型自動車・普通自動車・大型特殊自動車などと分類されています。一般的には、クルマのスペックを詳しく見たいときに便利なのは、前者の道路運送車両法に基づいて分類される方法です。後者の道路交通法に基づく分類は、運転免許証を取得する際に覚えた人も多いと思いますが、仕事などで色々な車に乗らなければならない人など限られた場面では便利になってくるものです。
では、”ローバーミニ“の大きさを知るためにも、道路運送車両法の基準を見ていきましょう。まず覚えておきたいのが排気量による違い。660cc以下(軽自動車)・2,000cc以下(小型自動車)・2,000cc超(普通自動車)と定められており、軽自動車と普通自動車の排気量だけ覚えておけば日常生活でも困ることはありません。前述したように“ローバーミニ”は1,300ccのため、5ナンバー車(小型自動車)に分類されることになります。しかし、5ナンバー車の寸法をみてみると“4,700×1,700×2,000mm”以下となっています。“ローバーミニ”は3,075×1,440×1,330mmのため基準を大幅に下回っているだけでなく、なんと軽自動車の規格である「3400×1480×2000mm」以下もクリアしてしまうほどコンパクトな車体となっているのです。
つまり、車体の寸法だけで言えば軽自動車クラスなのに、排気量は小型車並みのパワーを持っている。まさに“MINI”という名前が相応しい車体設計になっていることが分かります。
大きくなった現行モデル
では、現行モデルはどれくらいの大きさなのでしょうか?現行のMINIは2013年から販売されており、3代目にあたるモデルになります。特徴的なデザインは街中でも目を惹くため、昔のMINIと比較して見てしまうという人も多いと思います。現行モデルは、3,835×1,725×1,430mm(全長×全幅×全高)という寸法になっており“ローバーミニ”よりも大きいことが分かります。
排気量はモデルによっても異なりますが、もっともスタンダードな3ドアタイプ“ONE”モデルで1,498ccとなっています。ちなみに、クーパーモデルで1,498cc、クーパーSモデルになると1,998ccという大排気量を実現しています。
つまり、排気量だけで見ると5ナンバー車(小型自動車)となるのですが、全幅1,725mmと基準から25mmオーバーしたために3ナンバー(普通自動車)として登録されることになります。単純に車体だけで比較すると、軽自動車以下の“ローバーミニ”と普通自動車の現行モデルでは、昔と比べても大きくなっていると結論づけることができます。しかし、BMWにも人気のあるMINIを“あえて大きくした理由”が存在するのです。
安心と価値のある大きさに
昔からMINIが好きな人からしてみると、現在の大型化したMINIには興味がないという人もいるかもしれません。たしかに車体の大きさは圧倒的に現行モデルが大きく、排気量もクーパーモデルでない限りは小さくなっています。
では、なぜBMWはあえてMINIを大きしたのでしょうか?その大きな理由として「安全性の向上」が挙げられます。BMWが本社を置くドイツはもちろん、欧州各国ではクルマに対する安全性能に厳しい目が向けられており、法律による安全基準もますます厳しくなっています。その中で、従来の小さな車体では安全性能を確保することが難しく、安全性能を十分に確保するためには車体を大きくする必要があったのです。
とくに、BMWはセダンタイプの設計・製造を得意としていたために、開発してきた技術の多くが普通自動車以上の大きさであれば実装できるものでした。そのため、ドライバーと同乗者の安全を確保するために大型化しながらも、MINI特有の“ゴーカートフィーリング”や高いデザイン性を失わないよう設計されたのが現行モデルのMINIなのです。
時代とともに進化していくMINI
車体の大型化など“ローバーミニ”とは異なる点も多い一方で、誰が見ても”MINI”と分かるようなデザイン性は継承し続けています。また、車体が大きくなることによってタイヤやエンジンも大型化することができ、”ゴーカートフィーリング”はもちろん、剛性が高まったおかげで高速走行時にも安定した走りをみせてくれます。つまり、大型化したからとスペックが落ちているわけでは決してなく、むしろ高スペック化して良くなっているのです。
そのため、今までは大きさがネックで購入を悩んでいた人も、安全性能や走行性能が向上しているからこその大きさと考えてみると良いかもしれません。そして最後に、“ローバーミニ”から継承し進化してきた伝統のスタイルは、これから先の未来においても守られながら進化していくことを楽しみに待つこととしましょう。