こんなユニークなクルマがあったのか!スズキのマイノリティカーを徹底解説

ワゴンRやアルトといった今も続くビッグネームのクルマがある一方、コンセプトが新しすぎて市場に受け入れられず、1代で消えていったスズキ車も少なくありません。大ヒットにはならなかったものの、今から振り返ればそれぞれ個性的で、独自の魅力のあるユニークなクルマも実は多いのです。今回はそんなスズキのマイノリティカー(希少車)について解説します。

「街で見かけてどっきり?」キザシ (2009-2015)

画像引用:https://www.suzuki.co.jp/

キザシ(Kizashi)はスズキ初となる本格的な3ナンバーサイズのセダンです。
そのボディは全長×全幅×全高=4,650㎜×1,820㎜×1,480㎜と、2009年当時のメルセデスベンツCクラスやBMW3シリーズ、アウディA4といったいわゆるDセグメントに該当する堂々としたものでした。曲線を多用したボリューム感あふれるエクステリアデザインやシックにまとめられたインテリア、2.4Lの余裕のある動力性能とハード面ではまずまずの評価を受けていました。

その一方、東京モーターショーで同名のコンセプトカーが出品されていたとはいえ、それまで1.5Lクラスまでしかセダンをラインナップしていなかったスズキが、「突如」リリースしたフラッグシップセダンのキザシには専門誌やジャーナリストもとまどいを隠せない様子がうかがえました。こうした微妙な反応と、国内では完全受注生産でカラーラインナップも白、黒及び銀の3色と少なかったことや、国内市場においてセダン自体の人気が低下していたこともあり、キザシの全販売台数は6年間でわずか3,379台に過ぎませんでした。

キザシがなぜ開発されたのか、もちろん推測の域を出ませんが、ほぼ市販車状態のコンセプトモデルが2008年のニューヨーク国際オートショーで先行公開されたこと、国内よりも先に北米でデビューしていたことから、当時提携していたGMの販売網に乗せて北米市場に参入することを想定していたのではないでしょうか。

しかしGMとスズキの資本提携は2008年にGM所有の自社株をすべてスズキが購入したことで解消、キザシはすでに開発が進んでいたことからそのままリリースされたと考えられます。

このようにマイナーな存在となったキザシですが、警察の捜査用車両として908台もの大量導入があったことから、別の意味でメジャーな存在になってしまいました。

導入された捜査用車両の多くが、いわゆる「覆面パトカー」だったことから、「キザシを見たら覆面と思え」とまで言われ、一般の週刊誌などでもネタにされるほどでした。

ちなみに覆面パトカーとして採用されたキザシはフロントフォグランプがなく、ルーフアンテナが追加されている点などが一般の市販車両と見分けるポイントと言われています。

なお、警察庁に導入されたキザシは事件捜査用の覆面パトカーであり、スピード違反など交通違反の取り締まりを行う覆面パトカーではないことは最後に申し添えておきます。

「スズキのマー坊とでも呼んでくれ」マイティボーイ(1983-1988)

画像引用:https://www.suzuki.co.jp

マイティボーイは1983年にデビューしました。2ドアクーペであるセルボ(2代目)をベースにリアシートを廃して荷台にしたピックアップトラックです。かつて360㏄時代にはよくみられたスタイルですが、現在ではあまり見かけられないスタイルとなりました。荷室自体は軽トラに比べると小さいものの、よくまとまったスタイルで、とくに後期型にはルーフレールと一体化したロールバーが装備されアクティブな印象を強調していました。「スズキのマー坊」という愛称で呼ばれていましたが、これはCMのキャッチコピーが「スズキのマー坊とでも呼んでくれ」というインパクトのあるものだったためです。

本体価格は45万円(Aタイプ)からと当時としても破格で、CMソングで「♪金はないけどマイティボーイ」と歌われていたとおり、懐具合のさびしい若者に向けたクルマだったと言えるでしょう。とはいえ、やはり2シーターであることやバブル景気前で上昇志向が高まっていたことから販売台数は伸び悩み、モデルチェンジすることなく1代限りで消滅してしまいました。

しかしカスタムカーの素材としてはデビュー当時から人気がありました。同時期のアルトやセルボのパーツが流用できるため、エンジンをツインカムやターボにするチューニングも一般的でした。キャビン後半部分をばっさり切り落としたスタイルがミッドシップカーのようだったことから、イタリアのレーシングカー、ランチャ・ラリー風のボディキット(その名も「ヤンチャ・ラリー」!)まで発売されました。スズキ自身も大径タイヤを履かせたジムニーのシャーシーにマイティボーイのボディを乗せた、ややワルノリ気味のカスタムカーを製造するなど、話題には事欠きませんでした。

高級感はないけれど安価で維持費も安くカスタムベースに最適、アウトドアでも汚れを気にせず使える実用性といったマイティボーイのコンセプトは、むしろ今の時代のほうが受け入れられやすいかもしれませんね。

「早すぎた元祖クーペSUV?」X-90

画像引用:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/68/X-90.JPG

スズキのマイノリティカーといえば真っ先に名前が挙がるのがこのX-90(エックス ナインティと読みます)です。1993年の東京モーターショーにコンセプトカーとして出品され評判を呼び、その後に各国で開催されたモーターショーでも高い評価を受けたことから、1995年に市販化されました。

2ドアの2シーターに取り外しが可能なTバールーフで気軽にオープンエアドライブが楽しめるスポーツクーペの要素と本格的なラダーフレームを装備したエスクード(初代)由来の4WD(パートタイム方式)との組み合わせは非常に斬新でした。

全長3,790㎜、全幅1,695㎜とコンパクトなサイズに加え車高もSUVとしては低い1,550㎜と都心に多い機械式駐車場にも対応しています。

前評判から市販化されれば大ヒット間違いなし…のはずでしたが、1995年といえば、三菱パジェロのような本格的なクロカンタイプが大人気でクーペのようなボディの4WDに市場の反応はいま1つでした。やはり一般の消費者の嗜好は意外に保守的なもので、さらに2シーターという割り切った車体構成もX-90をマイノリティにしてしまった要因です。

実際に後席に人を乗せる機会はほとんどなくても、2シーターのクルマを購入するのは、例えスポーツカーであっても勇気がいるものです。1994年に登場し大ヒットとなったトヨタの初代RAV4と明暗が分かれた理由はここにあったのかもしれません。ノッチバックと3ドアハッチバックという違いはありますが、全長、全幅はほぼ同じで全体のフォルムにも近いものがあります。X-90にもせめて子どもが座れる程度の狭い空間でも良いので後席が付いていれば状況は変わっていたのではないでしょうか。

近年、欧州車を中心にクーペスタイルのSUVの人気が高まっていることを考えればやはりX-90は時代を先取りしすぎていたと思わざるを得ません。SUVなのにオープンなんて…という意見もありましたが、初代ランドローバーイヴォークにカブリオレが用意され話題を呼んだことを思えば先見の明があったと言えるのではないでしょうか。SUVもブームを通り越して一般化しているので、今後X-90のようなコンセプトのクルマがデビューする可能性は決して低くないでしょう。

「軽より小さな軽」ツイン

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「今の軽自動車は豪華で大きすぎる。軽自動車の原点に立ち返って、より小さく簡素な軽自動車を造るべきだ」、という意見は軽自動車の規格が見直されるたびに聞かれます。「では造ってみましょう!」と、スズキが応えたわけではないでしょうが、軽自動車よりもさらに小さなシティコミューターとして2003年にデビューさせたのがツインです。全幅こそ軽自動車規格いっぱいの1,475㎜ですが2シーターとすることで全長を2,735㎜と切り詰め、さらにパワーステアリングにエアコンをオプションとすることで49万円(税抜)という低価格を実現していました。

ホイルベースも1,800㎜と軽トラック並みで、最小回転半径はなんと3.6m、短い車体と相まって街中での取り回しは抜群でした。

通常のガソリンエンジンに加えてシンプルなシステムを使ったハイブリッド仕様も用意され、当時としては驚異的な34km/L(10・15モード)を誇りました。

エクステリアデザインは丸を基調とした愛らしいもので、人気のあったクルマのおもちゃ、「チョロQ」を連想する方も少なくないでしょう。

ツインの開発にあたっては1997年にデビューしたメルセデスベンツが手掛けた超小型車、スマートの影響も感じられます。ただしスマートは完全専用設計で品質は高いものの、シティコミューターとしては高価だったのに対し、ツインは既存の技術や設計を流用することで低価格を実現していました。軽自動車を造り続けてきたスズキなりのメルセデスへの回答といったところでしょうか。

コンパクトで低価格と、まさに専門家が提言したとおりの理想の軽自動車だったはずですが、やはり極端に簡素な造りや2シーターがネックとなりわずか2年で生産を終えることになりました。

希少車はスズキのチャレンジ精神の表れ

画像引用:https://www.suzuki.co.jp

どんなクルマがヒットするのかを予想することは困難です。一般のユーザーは、どんなクルマがいいのか、漠然としかイメージしていないことが少なくありません。マーケティングでユーザーのニーズを調査して開発しても、本当にユーザーが欲しかったクルマとなるかどうかは分かりません。

特に既存のジャンルにないクルマを開発するのはさらに困難でチャレンジングなことでしょう。初代アルトやワゴンRのように、その読みが当たり想定以上の大ヒットになることもあれば、今回紹介したクルマのように結果的には1代限りで消滅してしまうこともあります。言い換えれば、今回紹介した希少車たちは、スズキのチャレンジ精神の表れと言えるのではないでしょうか。

それぞれ個性的で、今なら流通量は少ないものの中古車としてまだ購入できるモデルもあるので気になった方は早めのチェックがおすすめです。

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