現在、自動車業界で最も熱い話題といえば自動運転技術でしょう。昨今、高齢者の方による痛ましい交通事故が立て続けに起こったのをニュースなどで目にして、「自動運転が当たり前になっていればこんなことは…」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。BMWでは他社に先駆けて、いよいよ日本でもこの夏に「ハンズ・オフ」、いわゆる手放し運転を、一定の条件のもとで可能にした車種を日本国内で販売開始するとのニュースが入ってきました。
BMWの自動運転技術はどれだけのことができるのか、そして今後どのように発展していくのかをじっくり解説していきます。
自動運転のレベルは6段階
いよいよ自動運転の時代が来る、と言われるようになりましたが、一口に自動運転と言っても、いわゆる運転支援と呼ばれる一部の機能をアシストするだけのものから、完全にドライバーが何もしなくてもクルマ側ですべて運転を行うものまでレベルは様々です。
現在、自動運転のレベルについて一般的に用いられているのは2016年に米国の自動車技術会(SAE)が制定し、米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が採用したレベル0~5までの6段階でカテゴライズしたものです。
レベル0は自動運転技術を全く使用せず、すべてドライバーが運転している状態、つまり現在のほとんどのクルマが該当します。
レベル1はハンドル操作もしくはアクセル/ブレーキ操作の「いずれか」を自動車が受け持つもので、正確には自動運転ではなく運転者支援と言われています。
レベル2はハンドル操作及びアクセルブレーキ操作の両方をクルマ側で制御するものですが、主体はあくまでドライバーであり部分的自動運転と言われます。
レベル3はレベル2に加えて運転環境をチェックして安全に運転するための対応も自動化されることで、運転の主体がドライバーからクルマに移行します。もちろん、システム側で対応できないと判断した場合にはドライバーに運転を戻すようになっており、条件つき自動運転と呼ばれています。
レベル4はレベル3とシステムが受け持つ運転操作自体は同じです。その上で、もしシステム側で対応できないと判断した場合でもドライバーに操作を戻さず、リスクを最小にするように可能な限り制御を行うことから、高度自動運転と呼ばれています。
自動運転の最終段階となるのがレベル5です。レベル1~4までは場所や周囲の環境によっても自動運転が解除されることが前提でしたが、レベル5ではそういった制限はなくなり、完全な自動運転となります。
一般の方が思い描くSF映画に出てくるような完全自動運転車を実現し、それが公道を走るようになるまでにはまだまだ多くハードルが存在します。BMWではレベル2に該当するドライビング・アシスト・プラスなどについては、意図的に「運転支援システム」と呼んでいます。
ユーザーへのインパクトを狙って、安易に自動運転化技術などと称するのではなく、まだまだドライバー側に運転に関する責任が存在することを冷静に強調する姿勢は企業として非常に好ましいのではないでしょうか。
国内初、BMWがこの夏ハンズ・オフを実現する!
BMWが2019年の夏以降、ハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能を装備したモデルを日本国内で発売すると発表して、話題を呼んでいます。
ここで言う「ハンズ・オフ」、手放し運転とは、ドライバーが常に前方を確認できる状態で周囲の交通状況によっては、ドライバーがクルマに代わってすぐに、そして確実にハンドルを操作できる場合に限りハンドルから手を放しての走行が可能、というものです。
ハンズ・オフを作動させるための条件として、①高速道路(首都高速も含む)を走行、②速度は60km/hを上限、③前走車に追従しての走行、の3点が挙げられています。つまり、高速道路での渋滞時に運転をサポートし、ドライバーの疲労を軽減するための機能と言えるでしょう。
自動運転のレベル2に該当する機能ですが、すでに他車でも実現しているのでは?と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。確かにアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC:前走車と車間距離を自動的に維持する装置)とレーンキープアシスト(LKA:車載カメラなどで車線を認識してステアリング操作をアシストする機能)は実用化されており、両方の機能を組み合わせた先進運転支援システム(ADAS)も標準で装備しているクルマも増えています。BMWにおいても2014年には、他車に先駆けて先代の3シリーズにACCを全車標準装備化していました。
ただし、これまで市販されているレベル2のクルマは、15秒間ハンドルから手を放していると、再度ハンドルを握るようにアラームが出ます。これは国交省が設定した保安基準が存在するためです。この警告を無視してハンドルを離したままだと、運転支援システムは自動的に解除されることになっています。
今回、BMWでは国土交通省とも粘り強く交渉することでハンズ・オフを実現したのですが、それ以上に機能面での著しい進歩があったことを忘れてはならないでしょう。
「ハンズ・オフ」を支えるBMWの先進技術
自動運転で重要になるのが、「眼」とも言えるカメラとその画像を高速で処理するプロセッサーの技術です。今回フルモデルチェンジした3シリーズでは、長距離、中距離、近距離3つの単眼カメラを内蔵し、毎秒2兆5000億回(!)という驚異的な演算能力をもつ、イスラエルのモービルアイ社製画像処理プロセッサー「Eye Q4」を搭載しています。
このモービルアイ社と米半導体大手のインテル、そしてBMWは2016年7月に自動運転を含め多岐にわたる協力関係を結ぶことを発表しています。ハンズ・オフは、モービルアイ社の画像処理技術と、インテルの高度な半導体技術、そしてBMWの自動運転に関するこれまでのノウハウのいずれかが欠けても実現しなかったでしょう。今回のハンズ・オフは3社の協力関係が生み出した成果の1つと言えるのではないでしょうか。
BMWでは単に高い技術のシステムを使用するだけでなく、日本国内においても徹底的にテストを行って認識率を高めています。東名高速や中央道、名神高速など国内の主要高速道路で数万㎞にも及ぶ走行テストを繰り返したとされています。
新型3シリーズですが、驚くべきことに首都高速でもハンズ・オフが可能なレベルにまで仕上がっていると言われています。
首都高速、特に都心環状線(C1)は、1964年の東京オリンピックに間に合わせるため、都心の河川の上をふさぐように建設されました。そのためにカーブが多いだけでなく、曲率もまちまち、合流・分岐が左右を問わずある上に道幅も狭いという世界でも例をみない複雑な構造の首都高速道路です。さらには車載カメラの認識力を低下させるトンネルまで存在することが自動運転のためのハードルを高くしています。
最終的には万全を期すため、一部区間ではあえてハンズ・オフ機能を解除する設定になったそうですが、首都高速を一度でも走ったことがある方であればそれがいかにすごいことであるか、すぐに理解いただけるのではないでしょうか。ハンズ・オフ機能の発表が新型3シリーズのデビューから遅れたのも、この首都高速での最終テストへ向けてさらに工数が必要だったためとされています。
ハンズ・オフ機能、実はすでに搭載されている?
ハンズ・オフ機能は2019年夏以降、新型3シリーズを始め8シリーズやX5などに順次搭載されていくそうです。しかし、実はすでに販売されている新型3シリーズや8シリーズにもハンズ・オフの機能は搭載されており、ステアリングには操作スイッチもついています。ステアリングスポーク左側のスイッチ群にある「MODE」スイッチがそれですが、現時点ではシステムオフの状態になっており、スイッチを押しても何も起こりません。ディーラーでお客様から、「これは何のスイッチですか?」という質問に、答えたくても答えられなくてもどかしい!という思いをした営業担当者の方もひょっとしたら多いのでは?
なお、これまでに販売された新型3シリーズにもハンズ・オフ機能を有効にするためのアップロードプログラム(有償)がこれから用意されるとのことなので、すでに購入されたユーザーの方も心配は無用ですね。
「駆け抜ける歓び」は変わらない!
自動運転はクルマが誕生して以来のイノベーションとも言われています。少子化によるトラックや宅配便などを始めとした物流部門でのプロドライバーの不足、貧弱な地方公共インフラの補完、頻発する高齢者ドライバーの事故など、社会的な問題を解決する手段としても自動運転は注目されています。
自動運転に関する法律や道路を始めとしたインフラ整備など、クルマの技術だけでは解決できない問題も多いですが、AIの進歩により自動運転化への流れは一気に加速していくでしょう。BMW自身も自動車及び自動車関連の技術は、自動運転により今後の10年間で過去30年間に成し遂げたものよりもさらに大きく変化するだろう、と予測しているほどです。
しかし、このまま時代の流れが一気に自動運転に傾いていったとき、果たしてドライバーにクルマを走らせる楽しさはあるのか、と不安になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。特にBMWを購入するユーザーは、リアシートでくつろぐよりも積極的にハンドルを握っていたい、という方が多いのでなおさらでしょう。
果たして自動運転になってもBMWには「駆け抜ける歓び」はあるのか―
その疑問への回答になりそうなコメントが、BMWが2021年までに完全自動運転車 「i-NEXT」を発売すると公表した2017年のドイツ・フランクフルトモーターショーにおいてありました。
ジャーナリストからの「完全自動運転になったら、駆け抜ける歓びをどう保ちますか?」という質問に対してBMWの自動運転担当者からは、自動運転中でもBMWらしいスポーティなモードスイッチを設定して駆け抜ける歓びを実現したいと回答したそうです。
思い起こせば、2014年にBMWが自動運転プロトタイプ車をラスベガス・スピードウェイで走らせた時にデモンストレーションでドリフト走行を披露したというエピソードがありました。自動運転でも限界域で完璧な車両コントロールができることを示したものですが、今から思えば、自動運転になっても「駆け抜ける歓び」を忘れない、というBMWからのアピールだったのかもしれません。