MINIの魅力はさまざまありますが、エクステリアはもちろん、独特のインテリアに惹かれて購入したオーナーの方も少なくないのではないでしょうか。MINIのインテリアは初代から一貫してクラシックMINIのインテリアをモチーフにしており、とくにセンターメーターはMINIのアイデンティティとも言える存在です。その一方で安全性やナビゲーションなど、クルマのインテリアに求められる機能は年々増える一方です。MINIはこの伝統と革新をどうバランスさせて進化してきたのかをセンターメーターの移り変わりを元に解説していきます。
センターメーターはMINIの伝統…ではなかった?
MINIのインテリアで最大のアイコンとなっているのがダッシュボードの中央に置かれた大型のセンターメーターです。BMWがMINIを新たにデビューさせるにあたり、インテリアについてもクラシックMINIのインテリアをオマージュしたものを取り入れました。3代目となる現在のMINIは、センターメーターをセンターディスプレイへと形を変えて受け継がれています。MINI VISION NEXT100と名付けられた未来のコンセプトカーでもセンターメーター状のものがインパネ上に置かれており、これからもずっとMINIの象徴となっていくのでしょう。
しかしクラシックMINIがずっとセンターメーターを採用していたわけではなかったのをご存知でしょうか。実は、クラシックMINIでセンターメーターを採用していたのはデビューした1959年から1980年まで生産されていたモデルまで、それ以降は一般的な位置にメーターは移されて2000年に生産が終了するまでそのままでした。
当初クラシックMINIにセンターメーターが採用された理由ですが、これはクラシックMINIの特殊なハンドルの角度にあると言われています。クラシックMINIではメカニズムの都合上、バスのようにハンドルを寝かせたような角度でレイアウトされていたため、一般的な位置にメーターナセルを置くようなスペースがなく、また無理に置こうとするとハンドルの陰になりメーターが見づらくなってしまうということから考案された苦肉の策でもあったのです。また、最近のクルマではセンターメーターにする理由として、インパネを右/左ハンドル共用できることでコストダウンが可能になることが挙げられているのでクラシックMINIの場合もそういったメリットがあったと考えられます。
しかし時代が進むにつれて空調関係やオーディオなどの快適装備が一般的になっていったことから、インパネのセンター部分にそれらを収めるためのスペースを確保する必要が出てきました。このため1980年代以降のクラシックMINIはセンターメーターが廃止され、一般的な位置に戻されましたが、やはりメーターがハンドルの陰に隠れるような位置にしか配置できなかったので非常にメーターが見づらくなっていました。
日本でもクラシックMINIは人気がありましたが、マニアではなく一般のユーザーが購入しやすくなったのはクーラーなどの快適装備が装着できるようになり、円高により輸入車が身近な存在となった1990年代以降のモデルなので、こだわる方以外はMINI=センターメーターという印象は強くなかったのではないでしょうか。
BMWがMINIを復活させた時にオリジナルのMINIに敬意を表して採用したことが、センターメーターをMINI伝統のアイコンへと押し上げたのでしょう。
MINIの方向性を示した初代のインテリア
初代MINI(2001~2006年)のインテリアは丸形をモチーフにしており、アイコンとなる大型のセンターメーターやハンドル前のタコメーターだけではなく空気吹き出し口、エアコンスイッチ、シフトパネルなどあちこちに丸い形状がちりばめられています。下手をするとチープで子どもっぽい印象になるリスクもあるのですが、そこは樹脂などに高い品質感のパーツを使うことでうまくカバーしています。当時は大きいな、と感じたセンターメーターですが、今見ると普通に見えてしまうのが時代の流れを感じさせます。
センターメーターの下にはオーディオが据えつけられていますが、前期型ではなんとCDではなくMDプレイヤーが標準装備されていたのが時代を感じさせます。当時は市販のカーオーディオに交換する方も少なくありませんでした。オーディオの下には空調関係のダイヤルとスイッチがまとめられています。
よく見ると丸いダイヤルを中心にしてMINIのエンブレムであるウイングマークの形状にスイッチが並べられています。こういったちょっとしたところに遊び心が感じられるのが初代MINIの良さではないでしょうか。
空調関係の下側には、こちらもクラシックMINI伝統のトグルスイッチが並びます。ヘッドライトのロー/ハイの切り替えなどとともに、パワーウインドウのスイッチもここに収められています。初代MINIに乗った時には、どこにパワーウインドウのスイッチがあるのかを探すのがお約束になっているようですが、確かに慣れないと使いづらいのは事実です。しかしパワーウインドウのスイッチが無い分、ドア側はすっきりしたつくりで横方向には狭さを感じさせない狙いもあったのでしょう。
BMWはMINIを復活させるにあたり、センターメーターと並びこのトグルスイッチを採用することも開発当初から決めていたそうなので、クラシックMINIの伝統を活かしたデザインコンシャスな小型車をつくるというコンセプトは最初からゆるぎなかったのでしょう。
2代目のBMW MINIのナビ問題
2代目MINI(2006~2013年)ではセンターメーターがさらに大きくなりました。単にサイズが大きくなっただけでなく、オーディオ用のディスプレイが下半分に移されています。それだけではなくオーディオ関係のオン・オフ&音量スイッチなども配置されているので、センターコンソールにはCD挿入口のみが残され、すっきりした仕上がりとなっています。見た目だけではなく、センターコンソールの幅自体がスリムになっているので前席の足元空間も広くなっています。初代のデザインを基本的には受け継いでいますが、エアコンの送風口をより外側に配置したことで車幅は5ナンバーサイズに抑えながら横方向での広々感を演出しています。
初代に比べてクオリティがアップした2代目MINIのインテリアですが、特徴的な大型センターメーターのためにカーナビの置き場所がユーザーの悩みの種となりました。メーカー純正の場合はCD挿入口の上にマウントしていましたが、ボリュームなどオーディオの操作がやりづらくなってしまうのがネックです。センターパネルを交換してモニターを埋め込む方法もありましたが、モニター位置がやや下側になり視線移動が大きくなってしまいます。
裏技(?)としてダッシュボード助手席側や、なんと天井、ルームミラーの後ろ側に設置する方法もありました。MINIの場合は最近のコンパクトカーとしては車高が低いので首が疲れるようなこともなく、意外に視認性も良いとのことです。しかし知らずに乗せてもらった同乗者は、天井にぶら下がるモニターをみて、さぞ驚かれたのではないでしょうか。
まるでロールス・ロイス?なインテリアのMINIインスパイア―ド・バイ・グッドウッド
初代MINIは3ドアハッチバックとコンバーチブルのみでしたが、2代目ではそれに加えクラブマン、クラブバン(クラブマンのバンモデル)、クーペ、ロードスター(クーペのオープンバージョン)、クロスオーバーにペースマン(クロスオーバーの2ドアクーペ)と実に8タイプものバリエーションを用意していたのはMINIファンならご存知でしょう。
それだけではなく2代目BMW MINIには限定車や特別仕様車も多く用意されていました。中でもとりわけ世間の注目度が高かったのが2012年5月に発売された限定車、「MINI インスパイアード・バイ・グッドウッド(INSPIRED BY GOODWOOD)」でしょう。グッドウッドとは、正式名称をグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードといい、イギリスモータースポーツイベントの名称です。世界中から好事家やメーカーが集まり、クラシックカーのコンクールデレガンスやヒストリックカーレースなども行われる、いわばクルマ好きのための世界的なお祭りです。
そんなグッドウッドにインスパイアされたということで、ベースとなったMINIクーパーSよりもさらに英国紳士のテイストを感じさせる雰囲気が漂っていますが、それもそのはずで、この限定車を手掛けたのは、なんとロールス・ロイスのデザイナーであるアラン・シェパードなのです。コーンシルクベージュという上品なカラーのレザーシートとウォールナットのインパネはロールス・ロイス専用のものを、スピードメーターとタコメーターの書体はロールス・ロイスと同じものを使用するという徹底ぶりでした。
ご存知のとおりMINIもロールス・ロイスも現在は同じBMWグループということで実現した、まさに奇跡のコラボレーションです。元ビートルズのジョン・レノンは生前、クラシックMINIとロールス・ロイス(サイケカラーの!)を所有していたことで有名ですが、もしジョンが生きていたらこのMINI インスパイアード・バイ・グッドウッドを真っ先に購入していたかもしれませんね。
販売価格は570万円とベース車のほぼ倍と高価でしたが限定1000台があっという間に完売しています。
クオリティと利便性が向上した3代目
3代目となる現行型MINI(2013年~)から、コードネームが2代目までのR型からBMWにも使用されているF型へと変更されました。つまり、よりBMW色が濃くなったということであり、インテリアにもそれが反映されています。
まず一番大きいのはスピードメーターが一般的なハンドル奥の位置に移されたことでしょう。初代及び2代目でインテリアのアイコンとなっていたセンターメーターは8.8インチの液晶画面を使ったセンターディスプレイに生まれ変わりました。2018年の一部仕様変更により、ナビゲーションシステムがタッチスクリーンに対応できるようになるなど、利便性の面では大きく進歩しています。
BMW流を感じさせるセンターディスプレイコントローラーも装備されており、初代及び2代目のユーザーの方は当初、あまりの変化に驚かされたようですが、実際に使用してみると利便性は高く、すぐに操作にも慣れるようです。
あまりに多機能なので本当に使いこなせるの?と不安になるかもしれませんが、センターディスプレイ下側には最大6つまでワンタッチで呼び出せるプログラマブルボタンが設けられています。ラジオのプリセットやナビの自宅登録、よく使う電話番号など、自分が使いやすい機能を設定しておけるので便利ですね。
ハンドルから手を離さずにラジオのチャンネル変更やCDの選曲といったオーディオの操作に加えBluetooth接続によりハンズフリー通話にも対応したマルチファンクションスイッチがほぼ全車に標準装備されました。またBMWで好評なETC車載器つきルームミラーも選択できるようになりました。
一方でセンターパネルのウイングエンブレムを模したスイッチは廃止され、パワーウインドウスイッチも一般的なドア側に移されており、やや独自性が薄れたと感じたマニアの方もいらっしゃるかもしれません。
しかしセンターディスプレイのリング部分が操作や走りに応じて色が変化したり、伝統のトグルスイッチが残されていたりとMINIらしい遊び心は健在です。
シンプルさが特徴だったクラシックMINIの時代とは違い、ナビゲーションや安全対策と現代のクルマのインテリアにはさまざまな機能が求められています。MINIらしさを残しながら、いかに最新の機能を盛り込み、しかも使いやすいものに仕上げるのはハードルの高い仕事ですが、最新のMINIではそれが高い次元で達成されているのではないでしょうか。