ただのエコカーじゃない?レースにも出場するMINIクーパーSEから広がるMINIのEV戦略!

MINIのEV、クーパーSEがルーマニアで開催されたレースに出場して話題になりました。EV=エコカーというイメージから走りやレースとはなかなか結びつかず意表をつかれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。欧州、とくにドイツの各メーカーが電動化を推し進める中、MINIはどんな将来像を描いているのでしょうか。SEから始まるMINIのEV戦略について解説していきます。

MINIがラリーに出場!でもEV?

画像引用:https://www.mini.uk

2020年10月9~11日にかけてルーマニアで開催されたラリーで1台のクーパーが出走し、注目を集めしました。その理由は、クーパーがただのクーパーではなく、EV(電気自動車)のクーパーSE だったためです。このラリーバージョンのEV クーパーを製作したのはドイツの大手自動車用部品・タイヤメーカーであるコンチネンタル傘下で電動化などのパワートレイン部門を受け持つ「ヴィテスコ・テクノロジーズ」とMINIの共同プロジェクト によるものです。

「MINI エレクトリックレーシング」と名づけられたプロジェクトでは、クーパーSEをベースにしたレーシングカーの開発を目標としています。このラリー仕様のクーパーSEですが純正のシートやインテリアのトリムなどが外され、代わりに競技用の軽量なバケットシートにレギュレーションに基づいたロールケージや消火システムが取りつけられた結果、市販モデルよりも約150kgの軽量化 を果たしたとされています。

その一方でパワートレインについては大きな変更はされていないようです。市販車の
クーパーSEのスペックですが最大出力は184PS、最大トルクは270Nm、0~60km/h加速は3.9秒、0~100km/h加速は7.3秒の性能を発揮するとされています。バッテリーは12個のモジュールで構成されるリチウムイオン、蓄電容量は32.6kWh です。コンパクトなMINIのボディに収めるためにクルマの床下にT字型にレイアウトされている所に苦心がうかがえますが結果的には低重心化を図れています。

EVでもっとも気になる航続距離ですが、1回の充電で最大で270kmとされています。通常ではフル充電3時間半かかりますが、急速充電ステーション(出力50kW仕様)を使えば35分でバッテリーの80%まで充電できるとされています。EVの航続距離=バッテリーの大きさ(容量)なのでボディの小さなMINIはどうしても不利ですが、急速充電と組み合わせればロングドライブにも対応できるレベルになってきました。

クーパーSEでのモータースポーツへの参加はレースという極限の状態で電動化技術の可能性もテストすることが目的とされており、今回のラリーでも電費(km/kWh:1kWhで走る距離))や回生、バッテリーで重要となる熱管理に加え、プロジェクトの次のステップについても多くの収穫があったと言われています。

なぜ今、MINIは、さらに言えばBMWグループではここまで熱心にEVに取り組んでいるのでしょうか?

電動化を急ぐ欧州の事情

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今から10年ほど前まで、欧州での主役はディーゼル車でした。ガソリン車よりも燃費が良く低回転域からパワフルなことから高速道路を使ったロングドライブが多い欧州の事情にぴったり合っていたからです。日本では既に主流となったハイブリッドは高速道路ではメリットが少ないことから普及は進んでいませんでした。

しかし、現在の状況を見ると2020年第1四半期のディーゼル車のシェアは29.9%と日本に比べれば依然として高いものの、前年同期で比較すると3.3%マイナスと減少傾向が続いています。ちなみに2016年にはディーゼル車のシェアは49%とほぼ半分 だったことを考えると急速にディーゼル離れが進んでいることが分かります。

この転換点となったのがVW社によるディーゼル車の燃費不正問題、いわゆるディーゼルゲート事件です。環境シンクタンクの国際クリーン交通委員会が、VW社について排出ガスに不正なコントロールを行っている可能性がある、と発表したことから始まった一連のスキャンダルによって欧州の自動車業界には激震が走りました。

欧州のCAFE規制(各メーカーは販売車両の1km走行あたりのCO2排出量を基準値以下に抑えることを定めたもの)では2015年当時130g/kmだった規制値が2020年には95g/kmに引き下げられ、さらに2025年以降も強化が続くとされています。 当初、欧州の自動車メーカーはディーゼルエンジンの改良により対応する予定でした。しかしディーゼルゲート事件による消費者のディーゼル離れに加え、排ガス対策の強化に伴うコストの大幅増がのしかかります。ちなみに、もしメーカーがこの規制値を満たせなかった場合には超過分のCO2に一台あたり95ユーロの罰金が課せられます。もし超過量が2g/kmとわずかだったとしても、年間販売台数が100万台であれば罰金の額は190万ユーロ(約247億円:1ユーロ130円で計算 )にまで膨れ上がります。欧州のメーカーがディーゼルから電動化の推進に舵を切ったのにはこういった事情があるのです。

ディーゼルから電動化へ、主役はPHEV

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欧州、とくにドイツではEVとPHEV(プラグインハイブリッド車)の販売が急増しています。ドイツの2020年7月の新車販売台数を見るとEV・PHEVの新車登録台数は約3.6万台で、前年比ではなんと288%増でした(VDA(ドイツ自動車工業会)の発表による) 。ガソリン、ディーゼル車の新車販売台数が伸び悩んでいることもあって、新車登録台数に占めるEV・PHEVの割合も上昇傾向が続いています。2019年まではEV・PHEVの新車販売台数に占める割合はずっと3%前後でしたが、2020年に入り3月には9.2%、7月は11.4% とついに1割以上を占めることになりました。

内訳を見るとEVが約1.7万台(前年比182%増)、さらにPHEVは約1.9万台(同485%増) とPHEVの伸びが目立ちます。補助金等の優遇政策の面ではPHEVよりもEVのほうが手厚いようなのですが、やはり走行距離の長いドイツではEVの航続距離の短さがハンデとなっているようです。もちろん充電ステーションの整備や各モデルの航続距離改善も進んでいるのですが、バッテリー残量が0に近くなってもガソリンさえ入れれば走行できるPHEVはディーゼル車の有力な代替手段となっているのでしょう。

またドイツの会社には役職に応じて社用車が貸与されるカンパニーカー制度がありますが、PHEV車については走行税(毎月車両価格の1%、または走行距離に応じて算出された額が使用者の所得に上乗せされて課税される)が0.5%に減額されたこともPHEV車の販売を押し上げたと見られています。

MINIではクロスオーバーPHEVをラインナップ

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MINIもクーパーSEでピュアEVの可能性を広げる傍ら、より現実的なPHEVモデルにも力を入れています。MINIではPHEVのMINIクロスオーバー クーパー SE ALL4をすでに日本でも導入しています。

クーパー SE ALL4は4WDですが、前輪を直列3気筒のガソリンエンジンで駆動し、後輪はモーターで駆動するのがユニークです。電気のみで走ろうとする「MAX eDRIVE」、EVとエンジンを使い分ける「AUTO eDRIVE」、そしてバッテリーを充電しながら走行する「SAVE BATTERY」の3種類の走行モードが用意されているので、完全EVで走行するときにはFRになるということです。

気になる走行性能ですが、ガソリンエンジン+モーターのシステム全体パワーは224PS、0~100km/h加速は6.8 秒とPHEV化によるハンデをものともしない俊足ぶりを見せます。

PHEVの要となるバッテリーには最新世代の高電圧リチウムイオンバッテリーを採用、リアシートユニットの下に配置することで居住空間への影響を最小限にとどめています。このバッテリーの蓄電容量は10kWhを確保しておりEVモードにしても最大55kmを走行可能です。これなら毎日の通勤程度ならずっとEVモードで使うことも可能でしょう。このバッテリーにより欧州複合モード燃費は58.8km/Lと優秀なのももちろん、CO2排出量も40g/kmと環境への負荷低減にも貢献します。

クーパー SE ALL4はプラットフォームをBMWの1シリーズ及び2シリーズと共有していることから今後グループでのPHEV車戦略を考える上で非常に重要なモデルと言えるでしょう。

EVになっても「MINIらしさ」は失わない!

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MINIを含むBMWグループ全体でサステイナブルなビジネスを目指す「10カ年計画」が現在進行中であり、目標として2030年までに全世界で700万台以上の電動モデル(フルEV及びPHEV)の普及を掲げています。このうち70%をフルEVでカバー する予定であることから、その先駆けとなるクーパーSEに与えられたミッションは重要と言えるでしょう。

この10カ年計画が予定通り完了すればBMWグループのクルマが1kmあたりの走行で排出するガスは2030年までに約40%も削減されることになるそうです。併せてBMWグループ全体でPHEV車が都市部に設定した低排出ゾーンを走行すると自動的にフルEVモードに変更される「BMW e Drive Zone」を展開したり、ドイツ国内だけでも約4,100ヶ所もの企業向け充電ステーションを設置 したりなど環境整備にも余念がありません。

とはいえ、いくら環境に良くてもクルマ自体に魅力がなければ計画は絵に描いた餅に終わってしまう可能性があります。しかしフルEVのクーパー SEは市街地であればほとんどのクルマをスタートダッシュで置き去りにできる実力を持つ上、バッテリーを床下に収めたことで低重心化を実現、交差点の角を曲がっただけでもニヤリとできるMINI伝統のゴーカートフィーリングまで身につけているなど、MINIの魅力はさらにパワーアップされています。

社会への要請には企業として責任を持って応える、しかしクルマとしてMINIの魅力を失うことは絶対にありえないークーパーSEはそんなMINIの矜持を体現した一台と言えるのではないでしょうか。

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