BMWの8シリーズに新しいモデルが誕生(2020年1月28日発売)。それも、「M8 グランクーペ」と聞いて驚いた人も多いのではないでしょうか。
ことの発端は2019年11月に開催された「ロサンゼルスモーターショー 2019」において、2019年10月に発売されたばかりであった「8シリーズ グランクーペ」のハイパフォーマンスモデルの発売を発表したことにさかのぼります。BMWのフラグシップモデルである8シリーズに、ハイパフォーマンスモデル「M」シリーズが追加されるとあって大きな話題を呼びました。そして、年が明けた2020年1月の新春記者会見において「M8 グラン クーペ」が日本で初公開され、その美しくも強さを秘めた全貌が明らかにされました。
まさに“究極のフラグシップモデル”
デザインが美しいのは当たり前であり、そこに走る楽しさも持ち合わせているクルマを理想としているBMW。それを具現化した「M」シリーズは、他の追随を許さないようなものでなくてはならないと数々の名車を生み出してきました。そして、新しくラインナップに加わる「M8 グラン クーペ」は、過去の名車たちに負けない圧倒的なスペックを掲げての初公開となりました。なんといっても目を惹くのが「M」シリーズ初となる、“4.4L V8エンジン”を搭載しているという点です。
なんと、上位グレードのコンペティションでは最高出力625PS最大トルク750Nmという数値をマークしており、クーペにおいては規格外と言える大出力なエンジンに仕上がっています。とくにBMWは、”クロスバンク・エキゾーストマニホールド”であることを公式ホームページでも押し出しています。これを専門的に解説してしまうと難解になってしまいますが、簡潔に述べるなら”走る際のムダを削ぎ落としたエンジン設計“と言えるでしょう。クルマ好きの人には“エキマニ”という愛称でも呼ばれているのがエキゾーストマニホールドというパーツ部分なのですが、BMWは長い間このパーツの設計で特許を有していました。
今回の「M8 グラン クーペ」の設計に合わせて、これまでの弱点であったターボチャージャーへの排気で起こる排気干渉でのロス。つまり、ターボチャージャーへの排気をスムーズに行えるように設計を変更することで、ターボラグ(吸入空気を圧縮するコンプレッサーが機能するまでの時間差のこと)を感じさせることなくコーナリングでライバルを圧倒できるようなフィーリングを味わうことができるように進化しているのです。また、ボタン1つで車のセッティングを変えることのできる”M xDrive”機能にも、性能を最大限引き出すことのできる“TRACK”モードというサーキット向けのセッティングが用意されているなど、ラグジュアリーなだけではない”BMWの本気”を至るところで感じることができるようになっています。
BMWがクーペを再定義する
堂々の初公開となった「M8 グラン クーペ」ですが、なぜこのタイミングで発売にふみ切ったのでしょうか。そもそも、新型8シリーズが販売されてから日も浅く、ラグジュアリー感が強い8シリーズで新たなMシリーズを無理に開発する必要はありませんでした。その状況でも思い切ってMシリーズを開発した原動力として、BMWが2019年から現在まで掲げ続けている1つの経営方針が影響しています。それは、ラグジュアリーセグメントへの取り組み強化です。
これまで取り組んできた環境へ配慮したモデル、EV車やプラグインハイブリッドカーの拡充を続けていく一方で、高価格かつ高性能な“フラグシップ”となるモデルも積極的に開発していくとしています。そして、その第一弾としての位置づけにあるのが「M8 グラン クーペ」であり、BWMの今後を占う試金石とも言えます。「M8 グランクーペ」発表の場でも、BMWジャパン ブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティング プロダクト・マネージャーである御舘氏は「クーペの価値を革新した」と述べており、まさに“クーペの再定義”であるとアピールするなどBMWの社運を賭けた開発であることが伝わってきます。
「M8 グラン クーペ」は、日本で成功するのか?
BMWがラグジュアリーセグメントの拡充を図るための試金石とした「M8 グラン クーペ」ですが、果たして日本で成功することはできるのでしょうか。
まず、気になってくるのが価格です。単にフラグシップモデルとしてだけではなく、ラグジュアリーセグメントをけん引していくために開発されたモデルでもある「M8 グランクーペ」は、市販車の中でも抜きんでたパフォーマンスを発揮する一方で価格も相応のものとなっています。例えば、車両本体価格だけでも「M8 グラン クーペ」は2,194万円(税込)、「M8 グラン クーペ コンペティション」では2,397万円(税込)となり、これにオプションや諸経費を加えた場合は2,500万円~3,000万円に達する場合もあります。このように聞くと、性能はいいけど本当に売れるの?と思われる方もいるかもしれません。しかし、「M8 グラン クーペ」は、その性能やデザイン性の高さなどスペックの希少性が重要となってくるのです。ラグジュアリーセグメントとは、いわば市販車でありながらも“ある種のレアリティ”を持つモデルのこと。つまり、持っていることがステータスとなるような一台でなければならないのです。
そのため、そこに価値を見出す人をどれだけ作ることができるのかが「M8 グラン クーペ」の成否を分ける鍵でもあります。そして、現在の日本にはラグジュアリーセグメントに位置づけられているクルマを購入する層は増えており、「M8 グランクーペ」が成功する土壌は十分にあると言えるのです。
「M8 グラン クーペ」に吹く追い風
2020/1/9 作成 価格帯単位:万円 |
2,000以上 | 1,000~1,999 | 900~999 | |
2019年 | 台数 | 3,658 | 18,943 | 6,827 |
価格帯構成比 | 1.2% | 6.3% | 2.3% | |
2018年 | 台数 | 3,539 | 17,787 | 6,826 |
価格帯構成比 | 1.1% | 5.8% | 2.2% | |
2017年 | 台数 | 3,129 | 17,123 | 7,276 |
価格帯構成比 | 1.0% | 5.6% | 2.4% | |
2016年 | 台数 | 2,634 | 16,253 | 5,569 |
価格帯構成比 | 0.9% | 5.5% | 1.9% | |
2015年 | 台数 | 2,220 | 13,047 | 5,674 |
価格帯構成比 | 0.8% | 4.6% | 2.0% | |
2014年 | 台数 | 2,069 | 14,129 | 4,271 |
価格帯構成比 | 0.7% | 4.9% | 1.5% |
(車両本体価格帯別 輸入乗用車新規登録台数の推移)
参照:JAIA(日本自動車輸入組合 http://www.jaia-jp.org/stat/?c=stat3
日本経済がデフレから脱却したと言われている中で、輸入車を購入する人も数年の間で増えてきています。中でもJAIA(日本自動車輸入組合)の「輸入車登録台数の推移(※上図)」を見てみると、2,000万円以上の輸入車を購入する人が年々増加していることが分かります。つまり、BMWがラグジュアリーセグメントを強化していくと発表した理由の1つに、高価格帯の輸入車の売れ行きが伸びていることが関係していたのです。
そのため、今回の「M8 グラン クーペ」も2000万円以上しますが、購入者が増えている日本では比較的成功しやすい土壌が整っていると言えるのです。さらに、BMWは高級車ブランドとして知られているだけでなく、近年では傘下のMINIと合わせて新しいモデルを次々と発売していくという手法を採ったことでシェアを拡大するなど、他メーカーと比較しても日本での人気と認知度は群を抜いて高いことも特徴の1つです。
また、クルマを運転するときに安全性能を気にする人も多く、安全基準が高いヨーロッパ生まれであるBMWの堅牢かつ安全なクルマは多くの日本人からも支持されています。とくに「M8 グラン クーペ」には、下位モデルにはない先端技術やオプションとなる安全装備を標準装備として備えているために、ライバル車と比べたときに十分な差別化が図れている点も重要です。これらの理由から、価格設定が高くても日本で十分に成功することができると言えます。
まとめ
多くのファンが驚きと歓びをもって迎えた「M8 グラン クーペ」は、まさにBMWを代表するようなフラグシップとして成長することが期待されています。また、日本で高価格帯モデルの売れ行きが伸びていることもあり、今回のラグジュアリーセグメントの拡充を図りたいBMWにとっては試金石ともなる一台です。BMWの新たな歴史の1ページ目となる「M8 グラン クーペ」、今後の動向にも注目です。