産業技術に関する展示会「ハノーバーメッセ 2019」にて、BMWがMicrosoftとの提携をより強めることを発表しました。特筆すべきは、IoTを駆使した次世代製造システムの導入です。同システムはすでに「BMW レーゲンスブルク工場」に導入され、生産効率の向上やコストカットに大きく貢献しており、産業の新たな形として注目されています。世界最高峰の自動車メーカーとソフトウェアメーカーが手を結み、クルマづくりはどう変わったのでしょうか?
産業用IoTプラットフォーム「OMP」
BMWが発表したのは、IoTを駆使した産業用クラウドコンピューティングプラットフォーム「Open Manufacturing Platform(以下、OMP)」なるシステムです。やや難解な名称ですが、その仕組みは「自動車製造ロボット間における高性能ネットワーク」というように解釈することができます。
みなさんもご存知のとおり、自動車の製造には複数の工程があり、膨大な数の部品を段階的に組み上げていく必要があります。そこには数千台もの設備やロボットが関わっており、それぞれの機器の相互接続が極めて重要と言えるでしょう。
BMWが導入しているOMPは、IoTの特性を最大限活用することで機器同士を効率よく接続するシステムです。システムの基盤には、提携関係にあるMicrosoftが開発した「Microsoft Azure」というクラウドサービスを採用しており、自律的な機械学習によって作業を効率化するように設計されています。
コミュニティを形成しシステムを共有
「産業知能」というテーマのもと開催されたハノーバーメッセ2019ですが、数ある先進テクノロジーの中でもOMPは一際注目を集めました。ハノーバーメッセは産業専用展示会としては世界最大の規模を誇り、その出展企業は5,000社にも達します。ゆえに、OMPの注目度は相当なものと言えるでしょう。ここまでOMPが注目を集めたのは「システムが高性能だから」というだけでなく、独自の仕組みとその展望が最大の理由と言えます。
IoTと機械学習によって作業効率を高めたOMPですが、その真骨頂はプラットホームの共有化にあります。従来の生産ラインには「プロプライエタリ・ソフト」、すなわちソースコードが明かされない私的なプラットフォームが採用されていました。当然ですが、自社のノウハウは自社で保有し、他社に明かすことなどまずあり得ません。
しかしながら、OMPは形成されるコミュニティにさえ加われば、たとえ他社でもソースコードを活用するできる仕組みとなっており、その名の通りオープンなソフトなのです。公開された国際産業規格のデータを使用することで、OMPコミュニティに属していれば、BMWグループ以外のメーカーでも既存の機器とシステムを導入することが可能になります。
また、このプラットフォームはただ運用できるだけに留まらず、そこから独自のシステムに組み替え、発展させることも可能。端的に言えば、好みに合わせてOMPをカスタマイズできるということです。他社の編集内容も共有できるので、外部のアイディアを学べたり、自社のノウハウを与えたりして、コミュニティ全体の発展が期待されます。
現在のメーカー業界は他社を強くライバル視し、全体的に閉鎖的な空気が漂っています。この空気を変えるべく、BMWは先陣を切ってノウハウを提供することを表明しています。Microsoftを筆頭に、2019年末までには4~6社ほどコミュニティに迎え入れ、最低でも15の環境で導入することを目指しています。
レーゲンスブルク工場でOMPを導入
冒頭で触れたように、OMPはドイツ レーゲンスブルクのBMWグループ工場で導入されています。現在は3,000台以上の設備やロボットがシステムに接続しており、生産効率を向上させつつ、従業員の負担を軽減させています。
この代表例が、ROS(ロボット運用システム)による「物流自律輸送システム」です。自動車の製造工場は敷地が広いことから、部品などを輸送するだけでも膨大な仕事量となるため、自律ロボットの貢献が大きいのです。現に、レーゲンスブルク工場の物流プロセスは大幅に簡素化され、生産効率が飛躍的に向上しました。
また、物流自律輸送システムは他にも興味深い使い方があります。IoTによってスマートフォンやタブレットといった端末と接続される自律ロボットは、アプリケーションを導入すれば機能を拡張することが可能です。例えばVR機能が拡張されれば、新製品に関わる物流プロセルを緻密にシミュレーションすることができます。余計な発注を防ぐことにもつながり、コスト削減に大きく貢献することでしょう。
加えて、前述のようにこの物流自律輸送システムは、OMPコミュニティに参加すればソースコードを活用し導入することができます。具体的には、ROSは「OPC UA」という相互運用規格によってデータを共有することになります。
第4次産業革命の先駆け
レーゲンスブルク工場は物流自律輸送システム以外にも、OMPに接続された様々な最先端システムが導入されています。具体例としては、組み立てラインで働く従業員をサポートするための「ロボットアーム」など。このロボットはOMPへの接続を始め、3Dカメラが先端に備わっており、従来のロボットアームよりも高速で精密作業を実行することができます。今や、リベット留めやビットの挿入など、人の手が必要だった作業もロボットが介入しているのです。
先進的な取り組みはロボットの導入だけでなく、作業員の身の回りにも目を向けられています。OMPを効果的に活用するため、レーゲンスブルク工場の作業員にはスマートウォッチが支給されており、様々な作業を個別に通知する仕組みなので、意思疎通にロスがありません。
このように、BMWグループでもとくに設備が先進的なレーゲンスブルク工場は、WEF(世界経済フォーラム)から正式に「第4次産業革命の灯台」と称されました。現代の経済状況をあらゆる角度から分析するWEFは、世界中の1,000を超える生産施設を厳しく視察し、そのうち7つを「未来の工場」と定めています。この中でも、レーゲンスブルク工場はとりわけ評価が高く、「灯台(lighthouse)」という表現が用いられているのです。まさしく、産業の新時代へと先駆ける存在といえるでしょう。
産業も次のステップへ
自動車を含む産業界では、近年「Industry 4.0」というキーワードがたびたび登場します。200年前の蒸気機関に始まり、重工業、コンピュータと、産業のあり方を変えてきた産業革命ですが、今四度目の革命が「IoT」によって起こり始めているのです。AIやVRなど、インターネットを通じてあらゆるものが接続されることで、これからの「ものづくり」はスピードとコストが飛躍的に短縮されることは間違いないでしょう。
人工知能や機械学習といった分野は現在ドイツが非常に力を入れており、2018年11月には政府から民間企業へ30億ユーロもの支援を行っていたほどです。その筆頭とも言えるBMWは、製造ラインの向上を日々研究しており、今後レーゲンスブルク以外の工場にもOMP導入を検討しています。
クルマとしてのクオリティの高さに目を奪われがちですが、こういった妥協のない仕組み作りこそ、BMWの強みといえるかもしれません。