「駆け抜ける歓び」をスローガンに掲げるBMW。「エンジン屋」という名の通り、高回転域までスムーズに吹き上げるフィーリングによってこれまで多くのファンを魅了してきました。この心地いい加速感は大きな魅力の1つですが、BMWの「走り」へのこだわりは感性のみならず、きちんと数字にも表れています。
今回フォーカスしたのは、静止状態から100km/hまでの加速にかかる時間――通称「0-100km/h加速」のタイムです。2019年上半期の現行モデルをすべてリサーチし、ボディタイプごとに「どういった特徴があるのか?」などお話していきたいと思います。
BMWの「0-100km/h加速」タイム一覧
日本ではあまり聞き馴染みがありませんが、ドイツでは0-100km/h加速のタイムがメーカーごとに公開されています。これはドイツのほうが速度制限が高く設定されており、巡航速度が速いことが大きな理由です。今回は「BMW Deutschland」の公式ページより、0-100km/h加速タイムの公称値を一覧にしてみました。それでは、まずはこちらをご覧ください。
モデル名 | 0-100km/h |
M8 | 3.3秒 |
M5 | 3.4秒 |
M7 | 3.8秒 |
7シリーズ | 4.0秒 |
M4 | 4.2秒 |
i8 | 4.4秒 |
4シリーズ | 4.7秒 |
5シリーズ | 4.9秒 |
6シリーズ | 5.3秒 |
Z4 | 5.4秒 |
X5 | 5.6秒 |
X3、X6 | 5.8秒 |
X1 | 6.5秒 |
i3 | 6.9秒 |
1シリーズ | 7.0秒 |
X2 | 7.7秒 |
BMWの全モデルを載せると長くなるので、ここでは主要モデルを17種類まとめました。モデルによってはグレードで性能が大きく変わるため、すべて上位グレードの加速タイムで統一しています。それでは5秒を区切りとして、それぞれ加速感について簡単に総評してみましょう。
「5秒以下」のモデルは圧巻の加速力
スタートから5秒かからずに100km/hに達するのですから、これらのモデルは文句なしに「ハイスペック」と言えます。イメージとしては、現行型スバル「WRX STI(4.7秒)」が分かりやすい例でしょう。すなわち「5シリーズ」「4シリーズ」「i8」などは、ラグジュアリな外見でありながら、国産最高峰のスポーツカーと同等のスペックを秘めているということになるのです。
さらに上のパフォーマンスを発揮する「7シリーズ」、そして名前に「M」を冠ざすモデルの加速は、まさに圧巻の一言。とりわけ、BMWでも最上級スペックを持つ「M8」と「M5」の加速は、文字通り “シートに張り付つられる” ような強烈な加速Gを生み、鋭いエンジン音とともに景色を置き去りにしてしまうほどです。
「5秒以上」のモデルも十分な加速力
加速に定評のある国産車との比較
日本人にとって身近なWRX STIを引き合いに出したため、先ほど5秒を区切りにしました。しかし一般的に考えれば、6~7秒というタイムも加速性能としては十分です。むしろ日本の道路事情を考慮したとき、このクラスの加速がもっとも扱いやすく、かつ楽しくクルージングできる性能とも言えます。引き続き国産車を引き合いに出すならば、以下のようなモデルがイメージしやすいでしょう。
- ホンダ「シビック タイプR」ー6.3秒
- トヨタ「86」ー7.4秒
- スズキ「スイフト スポーツ」ー8.1秒
- スズキ「アルト ワークス」ー11.3秒
この4車種は加速に定評のあるモデルです。「シビック タイプR」「86」は現代を代表する国産スポーツカーとして有名ですが、実は「スイフト スポーツ」「アルト ワークス」もスポーツ走行に使用されるほどのモデル。とくにスイフトは、軽量小型を武器に本格スポーツカーとサーキットで競ることさえあります。これらを念頭に置いた上で、BMWの0-100km/h加速のタイムを見ていきます。
BMWは下位モデルでさえ性能が高い
先ほどの一覧表を見て分かるとおり、SUVモデルの「Xシリーズ」は軒並み5秒台をマークしており、「ニュルブルクリンク最速のFF車」と言われるシビックを超えています。その他の「2シリーズ」「i3」「1シリーズ」もハッチバックでありながら、86より一段上の加速性能なのです。すべて上位グレードではありますが、それを差し引いても “実用的なモデルとしては加速性能が高い” と言えるでしょう。
一方でさすがのBMWも、ハッチバックモデルの下位グレードの加速は「スポーツカー並み」とは言えません。この一覧には載っていませんが、BMWで最も遅いモデルは「2シリーズ アクティブツアラー」のグレード「216i」で、0-100km/h加速は11.3秒です。しかしながら、これは “ブランドの中で低スペックなモデルでさえアルト並み” ――ということにほかならず、逆説的にBMWの「高性能さ」が示されているのです。
0-100km/h加速の総評が済んだところで、続いて「ボディタイプごとの特徴」を簡単に見ていきたいと思います。「セダンとSUV」「ハッチバック」について、主要モデルをグレードごとにまとめてみました。
排気量で加速が変わる「セダン」
モデル | 排気量 | 0-100km/h |
3シリーズ | 2L | 5.5~9.0秒 |
3L | 5.1~5.5秒 | |
5シリーズ | 2L | 6.0~7.8秒 |
3L | 4.7~5.7秒 | |
7シリーズ | 3L | 4.6~6.2秒 |
4.4L | 4.0~4.1秒 | |
M5 | 3L | 4.4秒 |
4.4L | 3.4~3.8秒 |
BMWはグレードが細かく分けられているため、一口に「3シリーズ」といっても性能に差があります。3シリーズであれば直列4気筒ターボ(1,998cc)の「320i」、直列4気筒ディーゼルターボ(1,995cc)の「318d」、直列6気筒ターボ(2,998cc)の「M340i」など、人気モデルには複数のグレードが用意されているのです。したがって、選んだグレードによって「出足の速さ」「5,000rpmからの伸び」など乗り味が変わってきます。
ところが、こと「短期加速」に関して言うならば、排気量によってある程度決まってくると言えるでしょう。上の一覧表を見ていただければ、0-100km/h加速のタイムが排気量順になっているのが良く分かるはずです。
セダンと同じ特性を持つ「SUV」
モデル | 排気量 | 0-100km/h |
X1 | 1.5L | 9.7秒 |
2L | 6.5~9.3秒 | |
X2 | 1.5L | 9.6秒 |
2L | 6.6~9.3秒 | |
X3,X4 | 2L | 6.4~8.3秒 |
3L | 5.8秒 | |
X5 | 2L | 7.5秒 |
3L | 5.5~6.5秒 | |
X6 | 3L | 5.8~6.7秒 |
X7 | 3L | 6.1~7.0秒 |
SUVもセダンと同様で、0-100km/h加速のタイムは排気量によって決まってきます。少し専門的な話ですが、ラダーフレーム構造を持つ本格クロカンモデルを除けば、SUVの構造はセダンがベースになっていることがほとんどです。
例えば、「X3」は「3シリーズ」(2017年以降は「7シリーズ」)と同一のプラットフォームを流用しており、「X3(20i)」と「3シリーズ(320i)」は同じ「B48B20型」というエンジンを搭載しています。ゆえに、SUVがセダンと似た特性を持つことは必然なのです。
スタイルで加速が変わる「ハッチバック」
モデル | グレード | 0-100km/h |
1シリーズ | 116d | 10.3秒 |
118(i,d) | 8.5秒 | |
120d | 7秒 | |
2シリーズ
アクティブツアラー |
216(i,d) | 11.1~11.3秒 |
218(i.d) | 9.0~9.3秒 | |
220(i,d) | 7.4~7.6秒 | |
225(xe,i) | 6.5~6.7秒 | |
3シリーズ
ツーリング |
320d | 7.4~7.5秒 |
330(i,d) | 5.4~5.9秒 |
ところがハッチバックの場合は、排気量だけでは加速性能が判断できません。もちろん、排気量が大きいほうが加速傾向にあるのですが、イレギュラーも存在するのです。例えば、「2シリーズ アクティブツアラー」の「225xe(1.5L)」は「218i(2L)」よりもタイムが2秒以上も速く、同じモデルでも大きな差があるのです。
ハッチバックはファミリー向けなので、ニーズに合わせて特性が異なります。性能にもばらつきがあるのですが、それゆえに選ぶ楽しさがあるとも言えます。もし性能を重視してハッチバックモデルを検討するなら、予算を多めにしておくことが望ましいでしょう。
数字にも表れている、BMWの「駆け抜ける歓び」
「速いからえらい」――けっしてそんなことはありません。しかし、クルマが好きな者として、性能諸元の数字が良いほど心が躍るものです。いわゆる、男のロマンというものなのでしょう。「駆け抜ける歓び」をスローガンに掲げるBMWですが、その「歓び」はたしかに数字となって表れていました。