スズキ「ラパン」と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。多くの人は、四角形のかわいらしい軽自動車を連想すると思います。現在のラインナップにあるラパンは、3代目として2015年から発売されています。そこに、昨年の12月に特別仕様車として「ラパン モード」が追加されました。一目見ただけで、これまでのラパンとは異なる印象を与える一台となっており、多くの好評を得ている「ラパン モード」。今回は、その特別な1台をクローズアップしていきます。
女性的なデザインと狙い
スズキ「ラパン」のベースとなっているのは、スズキを代表する名車である「アルト」です。アルトというと、そのデザインと軽自動車らしからぬ性能の高さから、多くの車好きの心を掴んだ名車として現在でも高い人気を誇っています。そのため、購買層としては女性というよりも、男性層が過半数を占めるという状況が続いていました。そのような一極集中化を避けるために、スズキは若い女性にターゲットを絞った開発を進めました。それが、2002年に登場した初代「ラパン」です。
「ラパン」は、特徴的な丸みのある四角形のフォルムを採用しており、同時に低重心化することで広い室内空間を確保し、居住性も追求されています。また、「部屋にいるようなくつろぎと心地良さ」を追求した結果として、内装のデザインは家具や雑貨を連想させ、インパネやカラーリングまで女性を意識した造りとなっています。このコンセプトは見事にヒットし、現在発売されている3代目を開発する頃にはユーザーの過半数が女性という結果になりました。
しかし、実際には初代モデルが登場した当初と比べると状況が一変していました。たとえば、ライバルメーカーであるダイハツからは「ミラ」が登場しており、「ミラ イース」や「ミラ トコット」といった女性にメインターゲットを絞ったクルマが多く登場しています。
また、「女性の趣味趣向は“かわいさ”にある」と認識して開発していたスズキですが、3代目の開発にあたり女性を中心とした開発グループを設けることで、女性ユーザーが“よりシンプルなかわいさ”を求めているという移り変わりにも直面しました。
そこで、満を持して登場した3代目の特別仕様車が「ラパン モード」となります。
シンプルかつ上質なかわいさ
女性を中心にファッションやライフスタイルとしても流行しているのが、“ミニマル”です。
ミニマルとは“最小限の”という意味があり、最近では”ミニマリスト”という言葉も一般的になってきています。その中で、クルマにおいても従来の“ステレオタイプなかわいさ”から、“ミニマルなかわいさ”へと視点を変えている車に注目が集まっています。最近では、2018年6月に前述したダイハツ「ミラ トコット」が発売され、そのミニマルでシンプルな内装と外装がヒットしています。そして、この“ミニマル”というものに重点をおいて、スズキが開発した特別仕様車が「ラパン モード」です。
「ラパン モード」は“モード”という名前を冠している通り、どこか通常のラパンよりも落ち着いた大人の雰囲気を感じるデザインに仕上がっています。まさに開発コンセプトの1つでもある“大人かわいい”という部分が意識されており、一目見て従来のラパンとは異なる意匠に惹かれます。専用のメッキフロントグリルには、ラパンのエンブレムである兎のモチーフが施されています。また、ドアハンドルもメッキ仕様になっており、専用のエンブレムもドア部分に設けられています。
ラパンは、かわいさという部分が全面的に意識されていますが、特別仕様車の「ラパン モード」では、シンプルなデザインの中にかわいさを見出すという“ミニマリズム”が意識されています。また、内装においても上質なものを好む女性から好感を集めるようなデザインになっています。運転席に座ると目に入ってくるのが、木目調のインパネではないでしょうか。とくに、木目調のヘリンボーン柄になっているため、一般的に多い単純な木目が目立つイミテーションよりも高級感を感じることができます。また、シート表皮には、専用のファブリックシートが採用されています。これは、キルト生地のような質感になっており、ドアトリムクロス、フロアマットと併せてネイビー色で統一されています。
これらの差別化されたデザインにより、流行している“ミニマル”な家具に包まれたような雰囲気、落ち着いたおしゃれなカフェにいるような気分をドライビング中に味わうことができるようになっています。
こだわりの装備で安全性も確保
ここまで「ラパン モード」の特徴的なデザインに触れてきましたが、こだわりのポイントは装備にまで及んでいます。特別仕様車だけのこだわりとして、「ナノイー」が搭載されたフルオートエアコンを採用しています。とくに、クルマの中で飲食をする人や小さな子どもがいる場合には、ナノイーがついていると消臭や減菌が期待できるため便利な機能と言えます。
また、「SUZUKI Safety Support」として“衝突被害軽減ブレーキ”も標準装備となっているため、運転に不慣れな人でも安心です。追加装備として“全方位モニター”も選択できます。さらに、助手席シートヒーターも追加することも可能になっており、乾燥が気になりエアコンをあまり使いたくない女性にとって検討する価値が大きいオプションと言えます。
スズキにとっては“モード”を冠する特別仕様車は、いずれも上質感があるラインナップとなっており、今回の「ラパン モード」でも外装や内装のデザインだけではなく、現代に求められている安全性と快適性も兼ね備えた一台となっています。
市場寡占への布石となるか
スズキ「ラパン」のライバル車といえば、ダイハツ「ミラ」が挙げられます。
ダイハツ「ミラ」の中でも、派生モデルとして誕生したダイハツ「ミラ トコット」は四角形を基調としたフラットなデザインが多くの女性に支持されています。とくに、「ラパン モード」とはコンセプトデザインやターゲット層も似通っている部分があるために、ライバル車として比較されることが多いと思います。どちらも“ミニマル”で近年の流行を取り入れたデザインが共通因子としてありますが、細かな部分では「ラパン モード」がより女性向けとして生産されていることが分かります。たとえば、特徴的なフロントグリルであったり、ヘリンボーン柄のインパネなど“上質なかわいさ”を追求しており、女性をターゲットにしていることを全面的に押し出しています。一方で、「ミラトコット」の場合は、フロントグリルや内装においてもシンプルです。一言で表すならば、性別でターゲティングしているというよりは、ミニマルな生活志向が強い人に向けたクルマというコンセプトを強く感じます。
それを表すかのように、「ラパン モード」では公式ホームページやCMで、女性人気が高い俳優の坂口健太郎をイメージキャラクターとして起用するなど、女性に絞ったマーケティング戦略がなされています。これらのことから、「ラパン モード」はライバル車と比較して“女性に向けたクルマ”という側面をますます強くしていくことで差別化を図り、将来的な市場寡占へと布石を打っているようなクルマとも言えます。もちろん、それが狙えるだけのデザイン性の高さと安全性、快適性を持ち合わせています。もし、デザインに目が奪われるようなクルマが欲しいと考えているならば、一度検討してみてはいかがでしょうか。