クルマは、日々のメンテナンスをちゃんと行うことを前提に造られています。愛車のBMWに末永く乗るには、車検・定期点検・日常点検などの整備は欠かせません。そのために、日頃の点検から、プロの確かな目でチェックするメンテナンスに至るまで、BMW車を知り尽くした整備士たちが、お客様のカーライフをしっかりとサポートしています。ということで今回は、BMWならではの資格制度、「マイスター制度」という5段階の厳しい検定制度についてのコラムです。整備士の世界もかなり奥深いものがありますよ。乞うご期待!!
愛車BMWを診断する、まさにドクターの存在
クルマの整備やメンテナンスには、決められたマニュアルがあり、それらを読み込んで、部品交換さえすれば修理は完了するのではないの? と思ってはいませんか…。それで簡単に終わる修理もありますが、なかなかそう甘くはないのが、整備の奥深い領域なのです。例えばこんな例が…。一眼レフカメラの調子が悪いので「お客様相談センター」に持ち込んだが、原因が分からないので、同じカメラの新品に交換されてしまったとか…。クルマの世界では、全とっかえは有り得ませんよねぇ。
またこんな例も…。肩こりが酷いのだが、原因が分からない。たまたま眼科へ診察に行ったら、肩こりは眼の症状からくるものだったとか…。クルマの場合でも、お客様が運転時の感覚で不具合を訴えてくる場合があります。異音が気になる…、足元がうるさい…、ブレーキの効きが悪いとか…。調べていくとまったく違う部品同士が干渉し合って、不具合の原因になっていることがあります。カメラの新品交換は論外として、整備士とは、マニュアルに載っていない繊細な見立ての感覚が必要になる、まさに愛車のドクターとも言える職業ではないでしょうか。
国家1級・2級自動車整備士の資格プラスα
整備士としてディーラーで働くには、最低でも「国家2級自動車整備士」の資格を持っていればOKです。整備や修理・分解を含めた、クルマに関わる一般的なメンテナンス全般に携わることができます。「国家1級自動車整備士資格」を取得すれば、豊富な知識と技術経験を活かして、指導する立場にも立てます。国産車のディーラーならこれでもう十分なのですが、自社のラインアップが増えたために、専門の整備資格制度を設けているメーカーもあります。大手では、トヨタ自動車の「トヨタ検定」。1〜4級までの上級整備士の独自の資格を設け、国家資格だけでなく、トヨタ車に関する新技術の教育をしています。同じ整備士と言っても、メーカー独自の展開をし、様々な研修制度を通じて、日々技術を高めているんてすね。
独本国の慣習に由来する昇格制度、“マイスター”
BMWでは、一般的に言われている「整備士」のことを、メカニックや修理工とは呼ばずに、「テクニシャン」と呼んでいます。BMWのシリーズ展開が今まで以上に増えてきて、XモデルやMモデル、iシリーズなどが追加。マイナーチェンジは3年毎、フルモデルチェンジでは6年毎と、販売サイクルがどんどん短くなってきています。その早いスピードに対応していくためにも、次々と変わる新型車に搭載される技術の進化を知り、追求するのがテクニシャンの役割とも言えるでしょう。
そのテクニシャンを立派に育て上げるのが、「BMWマイスター制度」です。マイスター(独語:Meister)とは、ドイツ語圏の高等職業能力資格認定制度です。中世から続くドイツ手工業で使われる徒弟制度や、頂点の匠の技術を有する人物のことを意味する「マイスター」ですが、BMWがこの言葉を使い出したのは30年程前のこと。今では他社も使っていますが、BMWはその先駆けとも言えましょう。BMWでは、厳密な徒弟制度ではなく体系的な職業訓練を行い、独自の実地試験を受けながら昇格し、メンテナンスとしての仕事の幅を広げ、各正規ディーラーで活躍してもらおうという昇格制度なのです。
BMWでは、5段階のレベルでテクニシャンの技術を定義
❶アプレンティス(図左)
入社してすぐのテクニシャン。
アプレンティス(Apprentice)とは、「見習い・初心者・練習生」を意味する英単語。見習いと言っても、「国家2級自動車整備士」の資格を持つ者も多く、他ディーラーではフツーに働いている整備士なのです。BMWグループの社員としての自覚や、必要不可欠なBMWの基本的な知識を理解しながら、テクニシャンとしてキャリアを積むスタート地点です。ピットの掃除や雑用も多く、整備に携わることさえままならない日々もあるとか。
❷BMWジュニア・テクニシャン(図右)
BMWの研修を受けたテクニシャン。
BMWでは、整備士のことを「テクニシャン」と呼びますが、「BMWジュニア・テクニシャン」の多くは、入社2〜3年目の新人です。BMWの正規ディーラーに就職をした彼らは、研修や試験を受けながら、「ワークショップ・スーパーバイザー(工場長)」のサポートを得て、BMWの基幹車種でもある1~3シリーズ車種の定期点検や、通常点検で必要なパーツの交換作業などを行います。
❸BMWテクニシャン(図左から2番目)
BMWの研修をさらに積んだテクニシャン。
肩書きから「ジュニア」が外れると、本格的な「故障診断」を扱うステージに入ります。対象車種は、ここでもBMW 1~3シリーズです。点検やパーツ交換だけでなく、故障診断という目に見えない部分のメンテナンスの技術を徹底して磨きます。
BMWでは最新のメンテナンス技術を、フラッグシップカーの7シリーズに反映させ、徐々に下位のシリーズ車種に活かしていくという方法を取ります。1〜3シリーズ車種は、あらゆるトラブルシューティング(問題解決)の方法が確立しており、故障診断がある程度容易なモデルと言えます。ただ「BMWジュニア・テクニシャン」と同様に、故障診断の作業を行う際は、ワークショップ・スーパーバイザー(工場長)のサポートを受けなければなりません。
❹ BMWシニア・テクニシャン(図右から2番目)
テクニシャン大会(実技+筆記)の成績優秀者。
肩書きに「シニア」が付くと、いよいよ独り立ちです。扱えるのは全シリーズ。ここで一気にハードルが高くなります。このクラスになると、BMW車のすべての動作や構造を理解し、故障診断やパーツの交換作業などが、独りで確実に行えるようになるレベルです。
「BMWテクニシャン」までは、トレーニングを受ければ順次昇格できるようになりますが、「BMWシニア・テクニシャン」になるには、BMWサービス・テスター※をベースとした、実技試験に通る必要があります。電気系統など、表面上では分からない不具合に関しても、独りでメンテナンスができるレベルまで到達しなければなりません。試験は、過去に出題された問題は二度と出ないため、昔の問題を一通り復習・練習しただけでは、到底合格できない厳しい資格です。
※車両内部に搭載されたコンピュータと通信し、故障診断を行う機器のこと。
❺BMWマイスター(図真ん中)
BMWテクニシャンの中でも超絶レベル。
現在販売中の車種だけではなく、新旧問わずBMW車に精通していて、どんなトラブルでも対応可能なレベルです。あらゆるBMWのテクノロジーや知識を深く習得しなければ、絶対になれないテクニシャンの最高峰、それがこの「BMWマイスター」です。BMWマイスターに合格するには、年一回実施される「BMWマイスター認定試験」に受からなくてはなりません。筆記と実技を伴いますが、実技の試験時間はわずか25分。レベルは非常に高く、合格率は約4%と言われています。現在、活躍しているテクニシャンのなかで、BMWマイスターの称号を持つのは1割という狭き門です。BMWの正規ディーラーは、日本全国に280店舗ほどありますが、BMWマイスターはまだ日本に170名程度と、数えるほどです。
また、日常作業としては、「BMWシニア・テクニシャン」とほほ同じですが、より高度な判断力が求められます。例えば、故障診断は前述の「BMWサービス・テスター」を主に用いますが、BMWのデータベースには照会されない不具合が発生する場合が多々あります。今まで培ってきた経験や知識をもって、短時間の内にトラブルシューティング(問題解決)ができるようになることが必須条件だと言えます。それ故に、認定試験の実技試験の時間が25分というのも頷けます。まさにBMW車ドクターとしての役割を担う重要職です。
ゴールは決してない、BMWマイスターという仕事
最高位の「BMWマイスター」に昇格すると、その証として“BMW MEISTER”という刺繍入りのロゴが背中に入った、名誉ある「つなぎ」を身につけることができます。ようやく手に入れたBMWマイスターの称号ですが、それは決して整備のゴールではありません。
例えば、マイスターの技術力維持と技術力の高さを測る「BMWマイスターコンテスト」への出場など、研鑽する道のりはまだまだ続きます。高度な技術力はもちろんのことですが、営業的なスキルも持ち合わせたスペシャリストとして、まさにBMWを知り尽くしたテクニシャンこそ、真のBMWマイスターと言えます。もし、あなたの通っているBMW店にマイスターがいれば、ぜひ一度ご自分の疑問をぶつけてみてください。きっと分かりやすく的確に答えてくれることでしょう。