最近、SNSでBMWのサイトをチェックして、アイコンの変化にあれ?と思った方はいらっしゃいませんか?おなじみの青と白のデザインですが周囲の黒い部分が透明になっています。すっきりしたフラットデザインですが実は先にデビューしたコンセプトカーのエンブレムにも使用されていたので、もしかしてエンブレム自体も変わってしまうの?と気になっている方もいらっしゃるでしょう。今回は新たなエンブレムについて見ていくとともにこれまでのBMWエンブレムの変遷についても解説していきます。
「コンセプトi4」に新しいエンブレムが採用された!
2020年3月3日、ドイツ・ミュンヘンのBMW本社でバーチャルワールドプレミアされたのがコンセプトカーのi4です。本来であればスイスのジュネーブモーターショーでワールドプレミアされる予定だったのですが、残念ながらショー自体が新型コロナウイルスの影響で中止となったことを受けての対応でした。
i4はフルEVというメカニズムの点もさることながら、次期4シリーズクーペのコンセプトとも言われる端正でエレガントなデザインでまさにBMWのコンセプトカーらしい仕上がりですが、ここで注目したいのはエンブレム(ブランドロゴバッジ)です。
一見これまでのエンブレムと同じようですが、中心の青と白はよりシンプルなデザインに代わり、従来黒色で縁取られたリングの部分は透明になったことからボディカラーが一層強調されています。
この新エンブレムにはすでにwebデザインでは主流となったフラットデザインという手法が用いられています。もともとはスマートフォンやPCなどでマルチデバイスに対応して効率的にwebサイトを最適化するために主流となっていったものです。2013年にアップルがiOS7で採用してiPhoneのUIがフラットデザインになってから一気に広がっていった印象があります。BMWのサイトやSNSでのアイコンにもすでに使用されているので、「お、変わったね」と思った方も少なくないのではないでしょうか。
そういえば同じBMWグループのMINIも、BMWに先駆けてウイングエンブレムを立体感のあるものから線だけで構成したシンプルなものにすでに変えていますね。
実は意外に変わっているBMWのロゴ
ずっと変わっていなかったように見えるBMWのロゴですが実は細かい部分で結構変化しているのをご存じでしょうか。実はこの103年間の歴史の中で過去6回、変更を行っているのです。
BMWという会社名になったのは1917年のことで、1916年には前身となるBFW(バイエルン航空機製造株式会社)が誕生していましたが、そのときにはブランドロゴはありませんでした。というのも当時の主製品はドイツ空軍向けの航空機のエンジン製造やそのメインテナンスだったので、一般の消費者にアピールする必要は全くなかったのです。
1917年の会社登記の際におなじみの黒いリング(ラウンデルと呼ばれています)の中に青と白を使うデザインが採用されました。BMWの文字はゴールドが使われ、ラウンデルにも同じくゴールドで縁取られています。BFWのさらに前進にあたるRapp Motorenwerke(ラップ・モーターワークス有限会社)のロゴもこのラウンデルが使われているので、デザイン自体はそれを引き継いでいると言えます。
1933年に最初の変更が行われますが、初代のロゴのマイナーチェンジといったもので、BMWのロゴが大きくなったこととラウンデル及び周囲のゴールドの部分が太くなり、その分、中の青と白の部分が小さくなった程度です。これ以降、今回発表された新しいロゴに至るまでラウンデルと中の青白の部分の比率は変わっていません。
次に変更されたのは戦後、四輪車の生産も始まっていた1953年です。ラウンデルの周囲のゴールドが白色に代わり、BMWの文字にも白色が使われています。ラウンデルの中の青色の部分がやや薄い水色に変わったこともあわせて非常にすっきりした印象を受けます。
その10年後となる1963年にはBMWの文字のフォントを変更するとともに青色の部分が以前と同じくやや濃い青に戻されています。1963年といえば、その前年に現在の3シリーズの始まりとも言える「ノイエクラッセ」こと1500を発売しています。いよいよ四輪車の生産が本格化してきたことを受けてのロゴ変更なのかもしれません。
次にロゴが変更されたのは1997年で、基本的なデザインは変わりませんが、ラウンデルの縁取りの白色が銀色になり、さらに全体的に立体的に見えるような処理がなされています。実車のエンブレムについては引き続きこちらをベースにしたものを使用していくこととされています。
BMWのロゴはプロペラではなかった!
BMWのロゴについては、かつて飛行機のエンジンをつくっていたことに由来してプロペラをモチーフに青色の部分は空を白色の部分が雲を表していると言われることがあります。しかし事実はちょっと異なります。
BMWロゴのモチーフがプロペラ、と言われるようになった原因は1929年にBMWが発表した広告ポスターにあります。このポスターにはプロペラにBMWのロゴがついた飛行機が描かれていました。これはBMWがプラットアンドホイットニー社のライセンス生産による新しい航空機用エンジンの製造をアピールするものでした。
つまり、もともとのロゴがあってそれを飛行機のプロペラのイラストに当てはめたもので、飛行機のプロペラをもとにロゴをつくったわけではないのです。なお、このポスター以前にBMWのロゴを飛行機のプロペラに結びつけるような資料は存在していませんし、もともとBMWは航空機だけでなくエンジン全般を手掛けていたのでことさら飛行機だけに特化したロゴをつくるのもよくよく考えてみるとちょっと不自然です。
このポスターのデザインが秀逸でインパクトがあったためにBMWのロゴ=飛行機のプロペラ、という説が生まれたのではないでしょうか。さらにBMW自身もBMWロゴ=飛行機のプロペラという神話について特段の修正や否定をしなかったことからこれまで90年の間に半ば事実として受け入れられてきました。
なお、青色と白色はBMWの本拠地であるバイエルン州の旗の色を取り入れたものなので青空と雲の話も誤りということになります。ちなみにバイエルン州の旗は上が白色で下が青色です。BMWのロゴは上が青色で下が白色(紋章などは左上から時計回りに見るのがルール)と逆になっています。これは当時の商標法で州の紋章は旗などを商用ロゴに利用することが禁じられていたためにアレンジしたことによるものです。青色がバイエルン州の旗の色よりも濃いのも同じ理由と思われます。
ロゴが飛行機のプロペラでない、という話の発端は意外な経緯から
それまでなかばオフィシャルと思われていたBMWのロゴ=プロペラという説が誤りだったことが判明したのには意外な経緯がありました。
アメリカの新聞、ニューヨークタイムズ紙記者のステーヴン・ウィリアムズ氏がたまたまドイツにあるBMW博物館を訪れたところ、ガイドの方から「BMWのロゴは飛行機のプロペラではないんです」と説明を受けたことに始まります。当然、ウィリアムズ氏もロゴは飛行機のプロペラがモチーフだと信じていましたし、ウィリアムズ氏に話を聞いた友人たちも「それは本当なのか?」と一様に驚いたことから、北米BMWの広報担当者に確認します。最初は「青と白の分割された円は青空をバックに回転する飛行機のプロペラに由来する」との回答がありました。しかし、その数日後に「BMWミュージアムのガイドの方の説明が正しかった」という訂正メールがウィリアムズ氏に送られてきたそうです。
ウィリアムズ氏がこの経緯を2010年1月7日付けのニューヨークタイムズに「BMWのロゴマークは飛行機に由来しない(“BMW Roundel: Not Born From Planes”)」という記事にして発表したところ、多くの方が知ることとなったのです。
それにしてもこの北米BMWの広報担当の方も一度は回答したものの、やはり気になって昔の記録をしっかりと調べ直したのに違いありません。そして誤った回答をしていたことが判明してすぐに訂正のメールを送ったところにはとても誠実な印象を受けます。広報担当者がよりによって企業の顔ともいえるロゴの歴史について誤った知識を持っていたことを認めるのは相当勇気がいることだったのではないでしょうか。
新しいロゴに込められた意味とは?
i4に採用されたことから、BMWのロゴはこれから新しいものに変わるの?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、BMWでは市販車のエンブレムには採用しない旨をアナウンスしています。
それではなぜ、今回実車に使うのとは別に新たなロゴをつくったのでしょうか。新しいロゴのリリースにあたりBMWのカスタマー&ブランド担当のシニアバイスプレジデント(上級副社長)のイェンス・シーマー氏は「新しいロゴは、開放的で明瞭なイメージを打ち出すため」と説明しています。
またBMWブランドのデジタル化に対応し、BMWブランドが将来のモビリティとドライビングプレジャーを促進するために重要な存在となることを象徴しているそうです。
企業にとって顔ともいえるブランドロゴを替えるのは非常に勇気のいる決断です。とくにBMWのように一般にも浸透しているブランドロゴであればなおさらのことでしょう。
BMWにはブランドロゴにも匹敵するものとしてフロントグリルにつけられたキドニーグリルもあります。こちらも基本の形は変わらないものの時代や車種に合わせてデザインを大胆にアレンジしています。伝統はもちろん大事にするが、常に新しいことへのチャレンジは怠らないーそんなBMWのクルマづくりを象徴していると感じるのは私だけでしょうか。
これまでの伝統を最大限に活かしながら新たなイメージの導入を図った今回のロゴ、とても新鮮に感じましたが、皆さんはどう思われましたか?