みなさんはBMWと言えば、どのようなクルマを想像するのでしょうか。もちろん、黎明期の名車から最新モデルまで様々なものが挙げられますが、「BMW E30」を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。1982年に登場した「BMW E30」は、“イーサンマル”という愛称で多くのクルマ好きから親しまれていた人気のモデルです。その人気には、日本が高度経済成長期を経て“バブル経済期”を謳歌していたという時代背景もあります。事実、バブル期の日本では“六本木のカローラ”と呼ばれるほど多くの人が購入していた「BMW E30」ですが、1991年に新モデルの3シリーズが登場したことで一気にブームは去ってしまいました。
しかし、この「BMW E30」は現在でも名車と言われており、カーマニアからは根強い支持を集めています。そして、2019年3月に往年の名車である「BMW E30型」が出てくる短編映画「青い手」が公開されました。
BMWが映画を製作
この短編映画「青い手」は、BMWが手掛けている作品としてWEB上で公開されることとなりました。ずばり、テーマは「BMWに乗っていることが、もう一度嬉しくなる」となっており、BMWのオーナーすべてに向けた作品となっています。監督・脚本は、映像作家の山中有氏が務めており、「それは、BMWがおくる絆の物語。」という副題に相応しいドラマが劇中では展開されていきます。
もちろん、BMWのブランディングムービーということもあり、劇中の大事なカギとして「BMW E30」が登場します。劇中で使用されているモデルは、1989年製の第2世代。当時と変わりないくらい綺麗な姿にカーマニアだけでなく、多くの人が在りし日の姿を思い出したのではないでしょうか。
名車と呼ばれる理由
BMWが短編映画で使用するほど、多くの人から名車として認識されている「BMW E30」ですが、なぜこれほどまでに根強い支持を集めているのでしょうか。実は、そこには現在のBMW人気につながる、いくつもの理由が存在するからです。1975年に発売された3シリーズの人気が高かったことから、1982年にフルモデルチェンジとして発売されたのが2世代目の「E30」でした。
現在の3シリーズと比較するとコンパクトに感じるかもしれませんが、初代モデルからのコンセプトとしての“コンパクトサルーン”を継承しているためです。とくに、全長は4,325mm、全幅1,645mmという小さなボディサイズになっており、現行の普通車より短く、軽自動車の全幅とほぼ同じ大きさです。
しかし、コンパクトボディに載っているエンジンは、2Lまたは2.5Lの直列6気筒エンジン(1.8L直列4気筒モデルも存在)であり、4速または5速ATのFR駆動というBMWらしさを凝縮させたようなマシンスペックとなっています。
多彩なスタイル
「E30」と言うと、3シリーズで初めての“4ドアセダン”のボディタイプをラインナップしたために、2ドアまたは4ドアという姿を思い浮かべる人も多いと思います。実際に街中を走っていた「E30」も2ドアまたは4ドアセダンタイプが多く、当時の市場でも多く出回っていました。
しかし、意外にも「E30」には全部で5種類ものボディタイプが用意されていたということをご存知でしょうか。「2ドアセダン」「4ドアセダン」のほかに、「セミオープン・カブリオレ」「フルオープン・カブリオレ」「ツーリング」が追加されています。現在の3シリーズでも、セダンやツーリングといったモデルがラインナップされていることから、当時の「E30」で多彩なラインナップ展開をしたことが現在まで強く影響を及ぼしています。
つまり、12年間という3シリーズ史上最長の販売モデルであった「E30」は、BMWのセダンというものを定義する上でも非常に重要なものを担ってきたと考えられ、そこに現在でも名車と呼ばれている理由があるのです。
レースカーとしての「E30」
クルマを製造しているメーカーそれぞれがモータースポーツに特化したブランドを持っており、BMWは“BMW M”というモータースポーツ用の研究や開発を行っている子会社が存在しています。クルマ好きではない人からしたら名前だけではピンと来ないかもしれませんが、その特徴的なロゴを見たことある人も多いのではないでしょうか。
中でも有名なのが3シリーズをベース車とした「BMW M3」と呼ばれているスポーツセダンの開発であり、その活躍を昨日のことのように覚えている人もいると思います。このM3の初代モデルこそ「BMW E30」をベースとしたものであり、DTM(ドイツツーリングカー選手権)や欧州各地のレースを制した名車なのです。その活躍ぶりは日本でも知れ渡り、1987年には日本でも正規輸入されることとなりました。
「E30」人気も高まる
「BMW M3」は中古車としても手に入りにくく、年数の経過から状態の悪い車体が多いため、修復に膨大な費用が発生してしまいます。そのため、現在ではベース車となった「BMW E30」の人気が高まっています。その要因の1つとして、カーマニアを中心とした1980・1990年代のレストアブームが到来していることが挙げられます。レストアとは英語の“restore”のことであり、経年劣化した車を新品のように復活させることを指して使われている言葉です。中でも、マシンスペックが秀でている「BMW M3」の人気は国内外ともに高く、価格が高騰しているため「BMW E30」の需要も高まっているのです。また、「BMW E30」は前述したようにコンパクトな車体にパワフルなエンジンを積んでいることが特徴です。現在の日本においては軽自動車人気が強く、コンパクトな車体の方が日常生活で乗り回しやすいなどの都合が良いという側面もあることからも根強い支持を集めています。これらのことからも、日本や海外で「BMW E30」が再び脚光を浴びているのです。
なぜ、映画に「E30」なのか
今回の短編映画のストーリーは、「すべてのBMWオーナーにおくる、父から息子へ。今日から明日へ。そして手から手へとつながる、絆の物語」とあるように、“親子の絆”と“手から手へとつながる”というものがフィーチャーされています。
まず、「BMW E30」というものが父親世代の憧れのクルマでもあり、人気がクルマい車だったという部分が大きく1つ挙げられます。そして、もう1つが「BMW E30」というものがクラフトマンシップ溢れるような造りになっていたという部分です。当時のクルマはマシンスペックやデザインに差別化が図られていた時代でもあり、ドイツ車というと連綿と受け継がれている職人技を感じるような精緻な車造りに人気がありました。とくにBMWは高級車として認識されており、他社とは一線を画すようなデザインと本格派のマシンスペックが売りでもありました。
そんなBMWの渾身の一台である「E30」は、短編映画に登場する藍染め職人としての父親が所有する一台としても相応しいクルマでもあったのです。互いにクラフトマンシップを大切に受け継ぎ、連綿と次の時代に伝えていくという物語。前述したように、「BMW E30」は現在でも多くの人から愛されているクルマであり、大切に乗り継がれています。そうしたところにも、今回の短編映画に「BMW E30」が使われた理由を見出すことができます。
多くの人に観てほしい映画に
BMWの手掛けている短編映画「青い手」は、公式ホームページで公開しています。いわゆるブランディングムービーではありますが、BMWオーナー以外の人も思わず引き込まれてしまうくらい映像作品としての完成度が高い一作になっています。もちろん、一人で観るのも良いですが、子供がいる人は一緒に観てみるとさらに感慨深いものになること間違いなしの内容です。往年の名車「BMW E30」が登場する短編映画「青い手」。ぜひ、みなさんも観てみてはいかがでしょうか。