MINIが初のEV車を公開 人気のディーゼルは縮小へ

街中を走るクルマを見てみると、その殆どに環境基準を満たしていることを示すステッカーが貼ってあります。先進国の日本は環境に配慮されているクルマ、いわゆる”エコカー”の製造に力を入れているメーカーが多いだけでなく、政府としてもエコカー減税などの対策で普及に努めています。

一方で、世界中のメーカーも以前のようなガソリンを主燃料とするクルマではなく、電気や水素を動力とするクルマの開発が盛んに行われています。中でもヨーロッパを拠点として活動している大手メーカーの多くが独自の厳しい環境基準、とくに二酸化炭素の排出量が少ないことを遵守したクルマの設計に力を入れています。最近ではハイブリッド車やプラグインハイブリッド車以外にも、純粋に電気のみを主動力とした「EV車」の製造に注力しています。

増えていくEV車

そもそも、世界中で開発が加速しているEV車とは何なのでしょうか。このEVとは”Electric Vehicle(Electric Car)”の略語であり、前述したように電気を動力源とするクルマのことを意味しています。意外かもしれませんが、ゴルフカートやフォークリフトなどは電池を利用した構造であり、EV車の一種とも言えるのです。

自動車開発の黎明期から電気を動力源とする試みは行われてきており、その品質やコストの問題から実現するまでに長い月日が必要とされました。そして、現在では各国でEV車の市販車化が認められ、その普及は今後10年以内に急速に増えていくとも予想されています。

MINIもEV車を初公開

各メーカーが力を入れているEV車の開発ですが、世界中に根強いファンを多く抱える「MINI」も開発と量産に多額の投資を行ってきました。イギリスにルーツを持っているMINIですが、現在はBMWの傘下としてクルマの開発と製造を行っているため、その豊富な資金力と技術力を有しているのです。また、BMWはドイツに拠点を置く一大メーカーということもあり、本国の方針から環境への取り組みには他社メーカーよりも積極的な姿勢を見せています。

これらの影響もあり、MINIはEV車のプロトタイプを世界中のモーターショーなどで披露してきました。もちろん、そのほとんどがコンセプトカーの範疇を超えていなかったため、多くのファンも未来の話として捉えていました。

しかし、そんなファンや関係者の予想を上回り、量産型で初のピュアEV車としてのMINI「クーパーSE」が公開されました。オフィシャルフォトには、カモフラージュが施された黄色のMINI「クーパーSE」が写っています。このクーパーSEですが、車体ベースとなっているのは現行の「F56」。ライナップされているモデルの中で最もコンパクトな”3ドアハッチバック”タイプのものです。現行モデルでは、最高出力が192PSとツインパワーターボの恩恵を受けているため力強さを感じることができます。もちろん、高出力エンジンはガソリン車ならではという認識が一般的ではありますが、このクーパーSEの最高出力は184psをマークしています。

EV車というと電気を動力源としているため、走行時も非常に静かであることが特徴の1つとして挙げられます。一方で、特別なカスタマイズやパーツが使われていない市販のEV車では、ガソリン車のようなパワーを感じることが少なく、エンジンパワーやハンドリング性能などは多くのクルマ好きを納得させるものではありませんでした。しかし、このクーパーSEは単なるEV仕様車ではなく、”MINIらしい走り”を感じさせる方向での販売を目指しているのです。

EV車でも”MINIの走り”を追求

画像引用:https://www.mini.co.uk

MINIといえば、FF駆動とハンドリングの良さに定評があり、いわゆる”ゴーカートフィーリング”と呼ばれることがあるほど走行性能に高いポテンシャルを備えたクルマです。初の市販車向けEV車とされているクーパーSEでも方向性は変わらず、現時点で184PSをマークするなど出力機構への不安は払拭されたといっても過言ではありません。フロント部分にモーターを格納することで、前輪へとダイレクトにパワーを伝える仕組みになっておりMINIのFF駆動という伝統は継承されています。

MINIらしいスペックの一方で、気になるのは”BMW i3”の存在ではないでしょうか。MINI初のEV車を開発するにあたってBMW i3の技術が応用されており、サスペンション機構などは同等のものが使用されています。もちろん、スプリングやダンパーなどのセッティングで差をつけることは可能ですが、クーパーSE固有のサスペンション機構ではないことに留意しておかなければなりません。

また、BMW i3がカーボンを主素材としていたのに対し、クーパーSEはスチールを採用しているため車体重量も増しています。しかし、重量配分を54:46と後方部への比重を増すことでドライビング時に重さを感じさせないように工夫が施されています。気になる加速性能ですが、0―100km/hでは7秒〜8秒台をマークしているとのことで、従来のガソリン車と比べても遜色ないと推測できます。一方で、航続距離はBMW i3と大きく変わることはないため、今後は航続距離の改善も課題となりそうです。

EV化の一方でディーゼル車は縮小

MINIがEV車の市販車化を目指す理由として、ディーゼル車の縮小に着目する必要があります。MINIのルーツである英国のMINI UKは、2018年秋にカタログラインナップから3ドアと5ドアのクーパーDモデルを削除しています。日本でも根強い人気があるディーゼルモデルですが、世界中で市販車のラインナップからは姿を消しつつあります。

燃料費が安価で力強さのある走りが魅力的なディーゼルエンジンですが、騒音やメンテナンス、何よりも環境への配慮を考えたときにメーカーとしても存続の有無を検討しなければならないものであります。とくに、BMWは環境に配慮していることをバリューとして考えているため、BMW i3やMINI クーパーSEの販売を促進する上ではディーゼル車のラインナップはマイナス評価となるかもしれません。また、ディーゼル車に好んで乗るユーザー数が少ないため、採算性を考えたときに予算をEV車へと充てがうのは合理的とも言ます。

環境基準が厳しいヨーロッパでは、日本以上にディーゼル車のカタログ削除が進んでいき、MINIのラインナップからディーゼル車が完全に消える日も近いと言われています。一方で、カタログに増えていくのはEV車をはじめとする次世代の動力機構を備えたモデルです。

走る楽しさを感じさせるクルマづくりに定評のあるBMW、そして傘下にあるMINIには多くの車好きが関心を寄せています。ガソリン車ではハンドリングやトラクションコントロールへ集中しながら走る楽しさを、ディーゼル車では旧来の内燃機関特有のコントロールを楽しむ。そんな、MINIだからこそ作り出せるMINIクーパーSEには、どのような楽しさが詰まっているのでしょうか。次世代MINIの試金石とも言えるクーパーSE。その販売を心待ちにしたい一台です。

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