BMWは歴史的転換点を迎えているかも
1シリーズと言えばBMWのエントリーモデル。現行F20・118iの新車価格は320万円と、3シリーズなどに比べるとだいぶリーズナブルな価格設定となっています。手ごろな価格でBMWの「駆け抜ける歓び」が存分に味わえる、非常にコストパフォーマンスが良いモデルと言えます。
この1シリーズを巡っては、ファンの間にちょっとした波紋が広がっています。というのも次期モデルではFF(前輪駆動)になると言われているからです。1シリーズはこのクラスでは唯一と言ってもいいほど希少なFR(後輪駆動)車です。室内の広さや快適性を犠牲にしてまでFRにこだわってきたBMWが、1シリーズをFF化すると言うので、ファンの間にさざ波というか大波が立っているわけです。FRであることがドライビングの楽しさの要因の1つだとBMWのファンは思っているわけで、これがFFになったらどうなるのかと心配しているのです。
もちろんBMWですから、1シリーズがFFになったからといって「駆け抜ける歓び」が損なわれるとは思えないので、こうしたファンの心配は杞憂に終わるでしょう。とは言っても、CセグメントにおけるFRコンパクトという独自のポジションを確保してきた1シリーズがFF化されることは、大げさに言えばBMWの歴史における大きな転換点です。そこで1シリーズとしては最後のFRモデルになるかもしれないF20の良さをもう一度見直してみよう、というのがこの記事の目的です。
1シリーズの起源は3シリーズにあり
1シリーズは現在のBMWラインナップのなかではもっともコンパクトなモデルです。もともと3シリーズの派生型として1994年に登場したE36コンパクトの316tiや318tiといったモデルが起源とも言われます。ただ、これらはボディやエンジンこそセダンとほぼ共通であるものの、シャシーやサスペンションはその先代3シリーズE30のものを使っていました。これは、コストを抑えるためだったようです。そのため、E36コンパクトのセダンモデルとは乗り味がかなり違いました。同じ3シリーズなのに、乗ってみるとまったく違うクルマという、不思議なことになっていました。3シリーズが次のE46に進化すると、E46コンパクトもニューモデルがラインナップされるようになります。
そして2004年、ついに1シリーズが登場します。初代はE87というモデルコードでした。3シリーズコンパクトの後継という位置づけでしたが、このモデルからは正式に1シリーズとして独立したことになります。続いて2011年、いよいよ現行1シリーズ、F20がデビューします。Cセグメントのハッチバック、そしてFRであるという基本特性は従来のアイデンティティを継承するものでした。当初日本市場では直列4気筒1.6Lエンジンを積む116iと120i、直列6気筒3Lエンジンを搭載するM135iが投入されました。また、2015年にはマイナーチェンジを受け、フロントとリアのデザインが変更。これによってよりシャープで精悍なイメージになりました。その後エンジンも変わり、118iは直列4気筒1.6Lか直列ら3気筒1.5Lとなりました。
現行1シリーズの魅力を検証する
では、いよいよF20の魅力に迫ります。まずスタイルですが、マイナーチェンジ前のフロントはかなり特徴的で、「ブサカワ」とか「タレパンダ顔」などとも言われます。ファニーフェイスと表現する人もいるようです。顔のデザインに関しては好みがわかれるところですが、近くに寄れば寄るほど、カッコよく目に映るのが不思議です。接近して見ると非常に考え尽くされたデザインであることがよく分かります。
横から見ると、このクラスにしてはきわめてロングノーズであることが分かります。直列エンジンを縦置きしていることにもよると思うのですが、このスタイルだとドライバーのポジションはボディの先端と後端を結ぶ線のほぼ中心に位置することになります。つまりドライバーはより重心に近い位置に座ることになり、それが回頭性の良さ、すなわち素直なハンドリングにもつながっていると思われます。実際にドライビングしてみると、ボディが自分のお尻を中心に旋回するような感覚が得られます。一方、後ろから眺めてみると、明らかに台形を意識してデザインされていることが分かります。これによって、きわめて安定感のある走りをしてくれることが予想されます。
エンジンはいずれも直列の3気筒、4気筒、6気筒をラインナップしています。3気筒モデルは2015年から採用されているので比較的新しく、6気筒はハイエンドモデルに搭載されているので、現在走っている1シリーズの大半は4気筒エンジンを積んでいると考えられます。また、現行のF20のエンジンはすべてターボが採用されています。この4気筒エンジンとターボの組み合わせは、1シリーズをとても楽しいクルマに仕上げています。素早いレスポンス、低回転から盛り上がるトルク、スムーズな吹け上がり、高回転の伸び・・・。116iだと1.6Lしかないのに、2L車を軽く凌駕するような俊敏でパワフルな走りをしてくれます。直列4気筒DOHCとツイン・パワーターボはまさにゴールデンカップルと言っていいでしょう。
この組み合わせは燃費性能も高めました。排気量を小さくし、パワーの低下をターボでカバーするという、いわゆるダウンサイジングターボの考え方は1シリーズでも効果を発揮しています。渋滞しがちな街中ではともかく、郊外を60km/hでのんびりドライブすると、燃費計は20km/L前後という数値を示すことがあり、いい意味で驚くことがあるのです。
街中、高速道路、峠道でドライビングプレジャーを体感
では、ドライブしてみましょう。
まずスタート。低速トルクが太いせいか、アクセルを踏まなくてもスルスルっと走り出します。そのため、1.4tの車重を感じさせません。もちろんアクセルを踏めば、ただちに加速します。ブレーキはもちろん強力ですが「ドカン」といった衝撃はまったくなく、スムーズかつ確実に減速してくれます。ハンドリングは、ほとんど感動的。まるで自分の身体のように、意図した通りに向きを変えてくれるので、きわめて爽快です。コーナーを曲がるたびにこの感覚が得られるのがBMWのすごいところです。
街中を抜けて高速道路へ。本線合流へ向けて気持ちよく加速していきます。よくある登りのランプウェイもまったく苦にしません。本線を走るクルマよりもスピードが上がってしまってあわてることもあるほどです。高速クルージング中の安定感もバツグン。直進ではハンドルに軽く手を添えているだけで、車線の中央をブレなく走りますし、カーブでの挙動もロールを感じさせないほど安定しています。また、橋などによくある道路の継ぎ目を時速100kmで乗り越えてもサスペンションはしっかり追従して、バタツキ感などはみじんもありません。
峠道に入ると、このクルマの素性の良さがさらにはっきりします。加速・減速はもちろん意のままで、ストレスをまったく感じさせません。タイトなコーナーでの回頭性はため息をつきたくなるほどすばらしく、その場でクルッと回っているような錯覚に陥ります。そしてコーナーからの立ち上がりはFR車の真骨頂。FF車でステアリングを切った状態でアクセルをオンにすると、ステアリングが外側に取られて挙動がおかしくなりがちなのですが、このクルマではもちろんそんなことはありません。スパッと曲がりながらググッと加速してくれるのです。
まとめ
というわけで冒頭に書いたように、リーズナブルな価格でBMWの「駆け抜ける歓び」が満喫できるF20。ニューモデルでFF3気筒がメインになるとしたら、現行型の4気筒版はのちのち、同社の歴史において名車と位置づけられるかも。イヤそうなってほしいと願わずにはいられません。
そういう昔ながらのファンに限らず、おしゃれな若者や女性、単に輸入車に乗ってみたいという方にも自信を持っておすすめできる一台です。