世界的なSUVブームの中、根強い人気を誇るのがBMWのステーションワゴンであるツーリングシリーズです。これまでのヒストリーやセダン、SUVとの比較、気になる新型3シリーズツーリングの情報など、BMWツーリングシリーズの魅力について解説していきます。
ツーリングは3シリーズ及び5シリーズのみに設定
BMWのステーションワゴン、ツーリングはこれまでのBMWの長い歴史の中でも3シリーズと5シリーズのみに設定されています。ちなみにこの「ツーリング」という名称ですが、3シリーズのご先祖様とも言える2002(通称マルニ)に追加されたBMWとしては初の3ドアハッチバックモデル、2002 ツーリングから取られています。
最初に登場したツーリングは二代目3シリーズ(E30)でセダンのデビューからなんと6年後の1989年のことでした。日本に導入されたのはさらに後の1991年で、実はすでに三代目3シリーズ(E36)が発売されていました。このためツーリングは「クラシック3シリーズ」と称されていました。
三代目3シリーズでは1995年にツーリングが導入されますが、日本へはチューニングモデルである「アルピナ」を除き、最後まで正規輸入されませんでした。
四代目3シリーズで2000年に追加されたツーリングの国内正式輸入が復活、五代目3シリーズからはセダンのE90に対しE91と専用のコードネームが初めて与えられました。これは現行型となる六代目3シリーズにも引き継がれており、セダンのF30に対しツーリングはF31となっています。
一方、5シリーズの初代ツーリングは1988年にデビューした三代目(E34)で、日本では1992年から販売が始まっています。1996年デビューの四代目(E39)、2003年の五代目、2009年の六代目、そして現行型となる2017年の七代目までのすべてにツーリングがラインナップされていますが、いずれもセダンのほぼ1年後にツーリングがデビューするというサイクルが確立しています。
また3シリーズ同様、五代目以降は専用のコードネーム(E61→F11→G31)がつけられていることから、よりツーリング専用の設計部分が増えたということなのでしょう。BMWのツーリングシリーズがセダンから時期をおいて発売されることが定例化しているのは、追加モデルを逐次投入することにより話題性を持続させるため、というマーケティング上の理由として説明されることが多々あります。しかし、それだけではなく、ツーリングの開発にはセダンよりも時間がかかることも理由と考えられます。次項ではその理由を解説していきます。
「良い」ステーションワゴンを設計するのは難しい
ステーションワゴンはセダンのリアセクションに大きな荷室を追加しただけのように見られがちですが、設計にあたってはさまざまなハードルが存在します。セダンに比べてステーションワゴンはボディを仕切る隔壁が一枚少なく、大きな筒のような状態になっているので路面からの振動が伝わりやすくなります。その振動がボディ内部の空気を震わせることで、ドラミングと呼ばれる低周波のノイズが発生しやすくなりますが、このノイズはとくに後席に乗っている方には耳障りとなり快適性を損ねます。そして車体後部にはハッチドアという大きな開口部があることから、ボディ剛性の面でもセダンよりも不利です。静粛性を高めるための防音材の追加や、剛性を確保するための補強に加え、重い部品であるガラスの使用量も増えることで重量の増加は避けられず、走行性能や燃費にも影響を及ぼします。
かつて日本では初代スバル・レガシィツーリングワゴンの大ヒットを受け、ステーションワゴンがブームとなり国内の各メーカーも次々とステーションワゴンをデビューさせました。しかし中には商業用のバンをベースにターボチャージャーを追加し、固めたサスペンションと太いタイヤでスポーティなステーションワゴンに仕立て上げたという、やや安易なつくりのモデルも少なくありませんでした。
そういったクルマはカタログ上のスペックはともかく、実際に運転してみるとパワーはあるけれど、燃費は芳しくなく、ハンドリングや乗り心地まで含めて仕立てに荒っぽさを感じさせることも多々ありました。ラージからコンパクトまで、ほぼすべてのクラスでステーションワゴンをラインナップしていたにもかかわらず、現在販売されている国産のステーションワゴンは6車種(※)にまで減っています。
ユーザーの嗜好がステーションワゴンからSUVやミニバンに移った結果と説明されることも多いのですが、一方でBMWツーリングを始めとした欧州のプレミアムステーションワゴンは現在でも国内市場で人気を博しています。長期間のバカンス旅行のために大量の荷物を載せて快適に長距離を移動する、そんな要望に応えるために性能を磨いてきたBMWツーリングシリーズを始めとする欧州のステーションワゴン。それに対し、厳しい言い方になりますが国産のステーションワゴンは一過性の流行商品でしかなかったということだったのかもしれません。
※トヨタ・プリウスα、トヨタ・カローラフィールダー、ホンダ・シャトル、ホンダ・ジェイド、マツダ・アテンザワゴン、スバル・レヴォーグ(OEM車、派生車種を除く)
3シリーズセダンと比較すると?
セダンは一足先にモデルチェンジしたので、先代3シリーズセダンと現行型ツーリングを比較してみました。3シリーズツーリングで特徴的なのは、荷物の積載量を最優先にしていない点です。ステーションワゴンモデルではリアのオーバーハングを伸ばしたり、ルーフの後ろ側を一段高くしたりするなどしてラゲッジスペースを拡大するクルマもありますが、BMWツーリングでは全長は同じ、全高もルーフレールを除けばセダンと同じです。
BMWのデザイナーによれば「ラゲッジルームを背負ったようなプロポーションになるモデルはBMWにふさわしくない」と語っていたことから、BMW独自の美学に基づいた決断と言えるでしょう。
しかし、ラゲッジルームの容量はセダンに比べて15L拡大した495Lを確保しています。
同じプレミアムクラスで比較すると、先ごろ一部改良を行ったメルセデスベンツCクラスが480L、BMWよりも約100㎜全長が長いアウディA4が505Lなのでライバルに比べても十分な容量があり、さらにリアシートバックを倒すことで最大1500Lまで拡大します。
さらにシートバックは40:20:20の分割可倒式で、テールゲートはつま先をバンパーにかざすことで自動的に開閉が可能、またガラス部分のみを独立して開閉することも可能とワゴンに求められる使い勝手の良さを十分研究していることがうかがえます。
3シリーズツーリングでは剛性を確保するために補強を行うなどにより、セダンに対して車重は約70㎏増加しています。しかし実際に運転して、セダンからの重量増を体感することはほとんどなく、セダン同様の走りの良さを味わえます。もちろん、サーキットに持ち込んで全開走行を行えば話は別ですが、通常使用している限り十分なボディ剛性を確保しており、後席での静粛性や乗り心地もセダン同等です。一方でルーフがまっすぐ後部まで伸びていることから、後席のヘッドルームがセダンに比べて余裕があるなど、ツーリングならではのメリットもあります。
SUVのX3と比較すると?
世界的に大流行しているSUVですが、2000年に初代がデビューしたBMW X3はその中でも元祖的存在です。最新のX3は2017年にモデルチェンジした三代目となります。X3の最大の特徴は高い最低地上高と大径タイヤ、優れた4WDシステムによる走破性で、こればかりはさすがの3シリーズツーリングでも敵わない部分です。
また、全長4,720㎜ x 全幅1,895㎜ x 全高1,675㎜と大柄なボディながら車体の見切りが良いことで、街中でもボディの大きさをあまり感じさせず運転しやすいのもSUV(BMWではSAV:スポーツアクティブビークルと呼んでいますが)ならではのメリットです。トランク容量はツーリングを上回る550Lを確保、さらに後席シートバックを倒せば最大1600Lとこちらも100㎜近い全長を活かしてツーリング以上の容量を確保しています。
アウトドアスポーツが趣味で荷物をたくさん載せて出かけたい、ということで3シリーズツーリングにするかX3にするかで迷っている、という方も多いのではないでしょうか。X3とツーリングを比較する際に、まず考慮しなければならないのはツーリングよりも200㎜以上高い、X3の1,675㎜という全高です。機械式の駐車場では全高1,550㎜までに制限されていることもまだまだ多く、都心に出かけた際、駐車場探しで苦労する可能性もあります。また自転車やサーフィンのロングボード、カヌーといった車内に搭載できないものをルーフに積むのも車高の高いX3ではかなり骨が折れる作業になるでしょう。
同じ直列4気筒2LのB48B20Aエンジンで比較すると、ツーリングの15.4km/Lに対しX3は13.5 km/L(いずれもJC08モード)と、重量が200㎏以上重く、駆動方式も4WDのX3の方が燃費の面ではやや不利な結果となっています。
デビュー間近?気になる新型3シリーズのツーリングは?
いよいよ日本国内でも新型3シリーズの販売が始まりましたが、現在はセダンのみでツーリングについてはまだ正式な発表はされていません。これまでのツーリングの伝統どおり、セダンとほぼ同サイズに設定されるとすれば、全長4,715㎜x全幅1,825㎜x全高1,440㎜と全長でプラス90㎜、全幅でプラス25㎜とやや大きくなることが予想されるので、荷室容量などワゴンとしてのユーティリティはさらに向上していると考えられます。車体の剛性アップと軽量化を両立している新プラットフォームが採用され、エンジンや変速機についても新型3シリーズ同様に大幅に性能がアップすることは間違いないでしょう。もちろん安全装備やコネクテッドには最新の技術によって大幅なアップデートが図られることになるでしょう。今春のジュネーブショーでお披露目されるとの予測もありましたが、正式な発表はもう少し先に伸びたようです。
一方で、現在販売されている現行の3シリーズツーリングは長いモデルサイクルの中で熟成を重ねてほぼ完成の域にあると言えます。また、価格の面では新型車に比べ有利な条件が引き出しやすいため、1ランク上のグレードを選ぶことも可能です。最新装備の新型ツーリングか、熟成の現行型ツーリングか、クルマの買い替えを検討している方には当面、楽しく頭を悩ませる日々が続きそうですね。