ディーゼルエンジンやガソリンエンジンモデルを、いずれはピュアEVモデルだけにしてカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量が同じ量であるという考え方)を実現するという目標は全世界の自動車メーカーが展望として掲げています。その一方で、現実ではヨーロッパでも根強いディーゼルエンジンへの支持があったり、ガソリンエンジン以上の高性能モーターを量産化することの難しさもあったりと、実現までの道のりは前途多難であると言えます。
とはいえ、カーボンニュートラルの未来を描かないことには地球温暖化対策を進めることも難しく、日本政府も脱炭素社会の実現の一歩として2030年代半ばにはガソリンエンジンモデルの新車販売をゼロにするという大号令をかけました。このような背景から、今後は今以上にピュアEVモデルの開発競争が激化していき、技術力を持つメーカーかそうでないかで大きく水をあけられることになると予想されます。
そんな中、BMWからBMW「iX」を2021年秋に発売予定であることが発表されました。BMW「Vision iNEXT」というコンセプトカーが現実のものとなるという発表には、多くの自動車ファンが驚いたことかと思います。今回は、ティザーサイトが公開され期待が高まるBMW「iX」の詳細や、その狙いを見ていきたいと思います。
コンセプトを飛び出して現実のものへ
BMW「Vision iNEXT」というコンセプトカーを覚えているファンも多いと思います。人気のあるXシリーズをピュアEVモデルとしたもので、その大きさや先進的なデザインから実際の発売は当分先の話だとほとんどの人が考えていたのではないでしょうか。
それがなんと、BMW「Vision iNEXT」が発表された2018年9月16日から約2年後の2020年11月11日にBMW「iX」という名前が発表されコンセプトカーが現実の一台へと大きく近づくことになりました。
とくに、今回はBMWグループの新たな未来を実現するための試金石になると発表されています。
そんな「テクノロジー・フラグシップ」としての役割を担っているBMW「iX」は、5人乗りのピュアEVモデルとして開発されています。BMWにとっては、BMW「i3」に次ぐ2台目の市販車ピュアEVモデルであり、同じく「i」というシリーズの名称を冠しています。実は、BMW「i3」と大きく異なるのはモーターの性能だけでなく、プラットフォームの設計を完全に見直したというところにあります。
新しいプラットフォームはカーボン素材が多用されており、薄く軽量なのに従来以上の堅牢度を実現しています。その基盤となっているのは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)による基礎構造。それをアルミニウム製スペースフレーム、複合プラスチックで支えています。これにより、BMW「X5」と同じ車体サイズに対して、内部の居住性や積載スペースはBMW「X7」と同じくらいの広さを確保することができています。
実は、この新しいプラットフォームは既存の3シリーズやBMW「X5」などに採用されているCLARと互換性があることが明かされており、BMW「iX」が販売されて以降はCLARが採用されているものをピュアEVモデルへ移行することも念頭に置かれているのです。さらに、構造に互換性があるためドイツの製造工場においてもBMW5~8シリーズと一緒にBMW「iX」を生産できるメリットもあります。
BMW「iX」の元になっているBMW「Vision iNEXT」のコンセプトデザインを踏襲しており、大きなグリルにフレームレスドアなどが未来的な印象を与えるものとなっています。
ピュアEVモデルらしくフロント・ラジエーターが必要ないために、グリル部分は閉じたつくりとなっており、運転支援システムに必要なカメラやレーダー、センサー類が集約されていることが特徴的です。
そして、フロント部分で驚くのはボンネットが固定式となっていることです。つまり、従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンがボンネット下に格納されているわけではなく、フロント・トランクも存在しません。そのため、ドライバーはボンネットを開ける必要がないため固定式となっています。
また、フロントバンパー内のエアダクトは最小限な設計にされており、フラットなボディパネルとドアハンドル、現行モデルよりも傾斜したフロントガラスが採用されているため、Cd値0.25(Constant Drag:空気抵抗係数)を達成しました。さらに、ホイールハウスのサイズはBMW「X7」と同様のサイズですが、空力特性に特化した専用のホイールとタイヤが装着されると言います。
気になる航続距離は大幅に向上
BMW「iX」では、Xシリーズらしく4輪駆動が継承されており、2つのモーターによって駆動力を生み出すとしています。今のところ、このモーター出力も明かされていませんが後輪駆動にパワフルなモーターが採用される見通しです。
100kWh以上のバッテリーユニットが搭載されており、最高速度は200km/h以上をマークしていると言います。さらに、平均消費電力は21.0kWh/100kmで航続距離は600kmとBMW「i3」の460kmと比較しても大幅に伸びていることが分かります。そのためか、前述したようにプラットフォームを軽量化していても車体重量は約2.5トンとなっており、ピュアEVのネックとも言える重さを解消することが市販化までの課題とも言えるでしょう。
とはいえ、それだけの大型バッテリーを積んでいるのにもかかわらず、急速DC充電に対応しているため、わずか40分で80%まで充電できると発表されています。ちなみに、加速力は0-100km/hで5.0秒以下をマークするなど、充電時間と走行性能を比べてもコストパフォーマンスはかなり高いと言えます。
インテリアは印象的な意匠に
BMW「iX」が新世代のBMWをけん引するフラグシップカーと言われる所以は、ピュアEVという点だけではありません。なんと言っても驚くのは、ドアを開けた瞬間にエクステリアとは対照的にナチュラルな雰囲気が醸成されていることです。
サステイナビリティが重要視されている現在、シートやインテリアには再生プラスチックを利用したマイクロファイバー・ファブリックを中心に、オリーブの葉の抽出液でなめしたレザーなど天然素材などがふんだんに使われています。
また、インテリアの配置もこだわりが詰まっています。例えば、スピーカー類は視界に入らない位置に集約、ダッシュボードと一体化したHUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)、複雑な位置に配置されたエアコンの吹き出し口など、従来のクルマとは居住空間のコンセプトも一線を画しているのです。
さらに、シンボルともなりうる六角形のステアリングホイールは、市販車で初装備となっていたり、エレクトロクロミック・シェエード付きパノラミック・ガラス・ルーフ(従来のように上下開閉するシェードではなく、電圧・電流のかけ方で色を変更させる仕組み)がオプションで用意されていたりするなど、天然素材がふんだんに使われている中でも最新技術が惜しみなく使われています。
全くの新しいBMWを体現、成功の鍵とは
従来のBMWにはない新世代のフラグシップカーとなるBMW「iX」ですが、現時点では有力なライバルカーも少なく、強いて言うならばAudi「e-tron」やTesla「Model S」などが候補として挙げられます。
とはいっても、BMW「iX」は単にピュアEVであるというだけでなく、サステイナビリティをはじめとしたSDGsに適合するクルマとして設計されている点でライバルカーとは思想が異なっています。
そのため、BMW「iX」は新世代のクルマとして市場をリードしていく存在になることは間違いないでしょう。日本でもそう遠くない将来にお目にかかることができる見通しです。
それまではぜひ、BMW「iX」のティザーサイトや解禁されていく情報を楽しみながら、期待に胸を膨らませ待つこととしましょう。