世界中の「BMWモトラッドGSシリーズ」ファンが憧れる、「インターナショナル・GSトロフィー」。2020年はニュージーランドで開催され、各国の代表選手が熱戦を繰り広げました。
2020年大会の今年は8日間に亘ってニュージーランド島内を駆け抜ける内容で、並み居る強豪チームを押し退け激戦を制したのは”南アフリカ共和国”でした。 日本チームはポイントを下げ17位という結果に終わってしまいましたが、競技中の様子はかっこいいだけでなく、何よりも楽しんでいることが伝わってくる様子で、ファンを盛り上げてくれました。
とはいえ、この”GSトロフィー”の知名度はバイク乗りの間でこそ高いものの、名前は知っているけど詳しいことは分からないというバイク乗りの方も多いのではないでしょうか。とくに、GSバイクはアドベンチャーツーリングタイプの先駆けとも言えるBMWモトラッドを代表するシリーズで、このGSトロフィーとともに知ることで他のメーカーやモデルに乗っている人もGSバイク特有の魅力から乗り換えたくなってくることでしょう。
今回はそんな実は、知られていないGSトロフィーとGSバイクの魅力を紹介していきたいと思います。
そもそも「GS」って何?
大会名でもある「インターナショナル・GSトロフィー」やバイク好きが使う”GSバイク”といった名前にある”GS”という単語。これは一体何を意味しているのでしょうか。
実はこの名称はBMWが発案したもので、「ゲレンデ/シュトラッセ」を意味している頭文字の組み合わせなのです。 「ゲレンデ?シュトラッセ?何それ?」と思われた方が多いのは無理もなく、これらはドイツ語で「 Gelände (ゲレンデ)/Straße(シュトラッセ)」と書かれる単語だからです。 意味は、カタカナ英語で「オフロード/オンロード」という意味、つまり「舗装された道とそうでない道」ということを表しています。 もともとBMWは航空機用のエンジン技術を応用したバイクづくりが原点としてあり、独自の空冷水平対向エンジンを載せたモデルは堅牢かつ俊敏なバイクとして世界中に広まっていきました。
そして、「R 80G/S」の誕生と共に”GS”の歴史が始まったのです。
“GS”の誕生が新たな歴史を創り出した
1980年、これまでのバイク史に新たな一ページを刻むことになる新モデルが発表されました。それこそが”GSシリーズ”の始祖である「R80 G/S」というバイクです。 “ゲレンデとシュトラッセ”という名前を背負った「R80 G/S」は、オフロードとツーリングの両方を得意とする画期的なバイクでした。 現在でこそ”アドベンチャーツアラー”という位置づけで親しまれていますが、その始まりは「R80 G/S」が発表された1980年よりも前に遡ります。
前述したとおりBMWは航空機用のエンジン開発からスタートしており、そのノウハウを活かした水平対向エンジンは当時のエンジニアにとっても画期的でありました。 なぜなら、この水平対向エンジンがもたらす安定性やトルク性能、出力、堅牢さといった様々なアドバンテージがオンロードだけでなく、オフロードでも本領を発揮することに気づいていたからです。 そして、それを実証すべく挑戦していたのが“ISDE(インターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ)”なのです。
このISDEという大会はバイクにおける最も古いオフロード競技大会で、合計6日間で1,000km以上を走破することが求められる過酷なものとして知られています。 とくに、出場選手以外はバイクに触れることが許されておらず、操縦だけでなく修理や整備といった全てを一人でこなさなければならず、バイクに関する総合的なスキルが求められる大会でもあるのです。
この大会に「R80 /GS」の開発以前から参加していたBMWは持ち前の水平対向エンジンと設計レベルの高さから輝かしい戦績を収めており、オフロードにも対応できるバイクの開発へと舵を切ることになりました。 こうして誕生したのが「R80 G/S」であり、”GS”の歴史の始まりでもありました。
追随を許さない王者へ
R80 G/SからR1100 GSへ
ISDEで実証されたオフロード性能の高さを武器に「R80 G/S」は売れ行きを伸ばし、知名度もどんどんと上がっていきました。 もちろん、ライバルメーカーもアドベンチャーツアラーという新しいセグメントが拡大していくことを黙って見ているわけもなく、様々なライバル車を世に送り出してきました。 その中でBMWは、”GS”の歴史において大きな転換点となる「R1100 GS」を発売したのです。
1994年に発売された「R1100 GS」は、オフロード性能の高さで不動の人気を誇った「R80 G/S」のオンロード面での弱点を無くそうと開発されたモデルでもありました。 「R1100 GS」の一番の目玉は 新しく開発されたR259水平対向エンジンを搭載していることでした。いわゆる”4バルブエンジン”と呼ばれる機構を備えており、”R1100”というモデル名の通り排気量は1100ccと現在でも通用するほどの大排気量になっています。
このエンジンを支えるのがBMW独自の“パラレバー”と“テレレバー”というサスペンション機構。一般的に使われているフロント・サスペンション機構は減速G(減速時にかかる自重×重力加速度の力のこと)や、路面からの衝撃に弱く、少し扱いを間違えば転倒やドライバーが前方に投げ出されるなどのリスクも大きくありました。これを“パラレバー”と“テレレバー”で抑えることで、より安全かつ安定した走りの恩恵をオフロード・オンロードの両方で受けることができるようになりました。
まさに、現行モデルにまで継承されている基本的な設計は「R1100 GS」で完成していたと言っても過言ではありません。
GSで王者となったBMW
「R1100 GS」の成功を受けて数々のエンデューロ(ISDEの様な、オンロード・オフロード・トライアル(様々なテスト)を含んだ総合レース競技)を制した”GSバイク“は、世界中でアドベンチャーツーリングの王者として愛されるようになりました。こうして、BMWが2008年から自ら開催しているのが「インターナショナル・GSトロフィー」という”GSバイク乗りの頂点”を決める大会です。
ISDEが6日間の激闘を制す競技大会ならば、インターナショナル・GSトロフィーは8日間で数々のテストにトライしながら走り抜ける過酷さと、”GSバイク”乗りが集まる楽しさを兼ね備えた競技大会と言えます。本選への出場選手を決めるため日本国内でも予選大会が行われており、その内容は非常にユニークなものになっています。
2日間に亘って行われる予選では、バイクを降りてゲレンデを自分の足で駆け上り、英語力やスマートフォンのGPS機能を用いた宝探しなどドライバーの知力・体力が試されるユニークなテストが存在します。もちろん、ホイールの組み立てや急斜面のヒルクライムなどバイクスキルが問われるテストも行われています。
実は、本選でもユニークなテストは用意されており、過去大会ではカヌーや槍投げなども行われていました。8日間に亘る過酷なレースには変わりなく、自身の経験とスキルを存分に発揮しなければ自然の厳しさには負けてしまいます。その中でマシントラブルは致命的なものですが、”GSバイク”は8日間に亘る過酷なレースでも致命的なマシントラブルを起こすことなくドライバーをゴールへと運んでくれるのです。
先駆者であり続けるために
“GS”という名前がアドベンチャーツーリングにおいて先駆者であり続けるために、BMWは常に新しい技術を追い求めて努力を続けています。
一方でファンあってこその”GS”でもあるため、”GSトロフィー“という競技大会を開催し普及とファンとの交流にも力を入れているBMW。その見据える先には、”GS”が王者として君臨し続ける姿があります。オフロードとオンロードの両方を駆け抜けることのできる”GS“。次はどこに連れて行ってくれるのでしょうか。