市販車初のターボ車はBMWだった?伝説の車2002 TurboとBMWのターボを解説!

BMW車のエンジンと言えば、「シルキーシックス」と称されるなめらかな自然吸気の直列6気筒エンジンを思い起こされる方も多いでしょう。しかし、ターボエンジンについても他社に先駆けて開発を行ってきたことをご存知でしょうか。
今回は、市販車初のターボ車と言われているBMW2002 Turboを紹介するとともに、現在のBMW車におけるターボの位置づけについて解説していきます。

1.市販初のターボ車、2002 Turbo

今では軽自動車にも使われるようになったターボチャージャー、通称ターボ。皆様ご存知のとおり、ターボとは排気ガスの力を利用してタービンを回し、圧縮した空気を強制的にエンジンに送り込むことでハイパワーを得る仕組みです。

画像出典:http://bmw-m-heat.jp/

高性能車の代名詞とも言える存在のターボですが、もともとは航空機用エンジンの技術から来ていることをご存知でしょうか。空気の薄い高高度を飛ぶ航空機においては、より多くの空気をエンジンに取り込むことが求められたためです。航空機については第二次世界大戦時にはすでに実用化されていましたが、自動車のエンジンに転用されるのは1960年代になってからです。

市販車にターボが装着されたのは1962年にアメリカのGMが発売したシボレー・コルヴェア/オールズモビル・F85が初と言われています。ただし、これらはメーカーオプションとして用意されていたに過ぎず、出力の向上も特筆すべきものではありませんでした。このため、実質的に世界初の市販ターボ車となるのが1973年にリリースされたBMW2002Turboと言われています。航空機用の技術として生まれたターボチャージャーを、航空機エンジンメーカーだったBMWが自動車のハイパフォーマンス化の手段として選択したのは、ごく自然なことだったのかもしれません。

2.ターボ=高性能車を定義した2002 Turbo

BMW2002 Turboのベースとなったのが1968年にデビューしたBMW2002で、日本でも「マルニ」の愛称で親しまれています。特徴的な二灯式のヘッドランプとキドニーグリルを配したフロント、直線基調の端正な3BOXボディ、精緻なエンジンに正確なハンドリングでBMWの自動車メーカーとしての地位を確立した一台です。3シリーズの祖先にあたる車ですが、これらの特徴は現代の3シリーズにもしっかりと受け継がれていますね。

しかし1973年に追加された2002 Turboのスタイリングはそれまでのマルニのイメージを大きく覆すものでした。空力特性を向上させるため、バンパーを取り外して大型のエアスポイラーを取り付け、リアにはラバー製のスポイラーも追加されました。ボディサイドにまわれば185/70R13という当時としてはワイドなタイヤの履かせるために、オーバーフェンダーがワイルドにリベット止めされていました。ちなみにこのリベット止めが日本では役所から認可されず、日本に輸入された車はパテで埋められていました。

さらに、フロントには先行車の鏡文字で「Turbo」のステッカーまで用意されていました。これには当時のドイツの運輸省から物言いがついたようで、この鏡文字ステッカーはディーラーオプションとし、さらに貼り付け自体もユーザー側に行わせることでなんとかお許しが出たようです。しかし、ベースはジェントルなセダンであるにもかかわらず、スポーツカーのポルシェに匹敵するハイパフォーマンスを発揮することを、これらのアイテムが強烈にアピールしたのです。

2016年にはBMW自身が2002 Turboをモチーフにしたコンセプトカー、2002 Hommage (オマージュ)を作成しています。BMWの公式チャンネルで公開されたPVでの2002Turboと2002 Hommageのワインディングロードでの競演をぜひご覧ください。


映像出典:You Tube BMW 公式チャンネルより(英語版)

3.ターボで圧倒的なパフォーマンスを示した2002 Turbo

迫力のルックスを手に入れた2002 Turboですが、ターボによる高性能化はそれを上回るものでした。ベースになったインジェクション仕様(2002tii)の最高出力130ps/5,800rpm、最大トルク18.1kg-m/4,500rpmに対し、2002 Turboの最高出力は170ps/5,800rpm、最大トルクは24.5kg-m/4,000rpmと、実に30%ものパフォーマンスアップを実現していました(出力はいずれもグロス表示)。

その上、車重は現代のコンパクトカー並みの1,060㎏に過ぎず、これで速くないわけがありません。最高速度は211km/hをマークしたとされています。

ただし、ターボには欠点もあります。エンジンから出る排気ガスの力を利用するため、ある程度アクセルを踏み込んでからでないとターボが効きません。しかしエンジンの回転が上がり、ターボが働くゾーンに入ると一気にパワーが盛り上がるので、当初のアンダーパワーな状態との落差が激しくなります。

これをターボラグといい、ターボ車でのコーナリング中のアクセル操作などにはシビアなコントロールが要求されます。そういった意味で2002 Turboは、パフォーマンスを引き出すために高度なドライビングスキルが必要な歯ごたえのある高性能車だったと言えるでしょう。

また、当時はハイパワーと省燃費を両立したと宣伝されたターボですが、現在ほど電子制御が進んでおらず、またターボらしい走りをするためにはアクセルをある程度踏み込む必要があったことから、実際の燃費は芳しいものではありませんでした。

画像出典:https://www.bmw.co.jp/ja/index.html

残念ながら2002 Turboはデビューした1973年に世界を襲った第一次オイルショックの影響を受け、1975年までのわずか2年間しか生産されませんでした。総生産台数も1672台にとどまりましたが、世界中の自動車ファンに与えた印象は強烈なものがありました。

オイルショックの影響が一段落した1980年代に、国産車においても日産スカイラインや三菱ランサーを始めとしたターボ車が登場してきました。それらはフロントに2002 Turboと同様に鏡文字の「Turbo」をかかげ、その高性能ぶりをアピールしていました。当時の国産ターボ車のお手本となったのが2002Turboであったことは間違いないでしょう。

4.現代のターボはハイパワーと省燃費を両立

2002 Turboの生産中止以降もBMWではターボの開発を続け、現在もラインナップされています。1シリーズに搭載される1.5Lの直列3気筒から7シリーズに搭載される3.0L直列6気筒、さらに「M」用の直列6気筒ツインターボ、さらにターボがマストとなっているディーゼルエンジンまで含めれば、むしろターボでない車種を探すほうが苦労するほどです。現在はBMWグループとなったイギリスの高級車、ロールス・ロイスにはV型12気筒ツインターボエンジンが搭載されていますが、このエンジンも実はBMW製です。

画像出典:http://bmw-m-heat.jp/

BMWの公式サイトでも、ことさらにターボであることを強調しておらず、すでにターボがエンジンの主流になっていることをうかがわせます。現代のBMWターボは直噴システムが基本となり、バルブトロニックも装備されていることから、よりきめの細かい制御が可能となり、かつてのターボのようにターボラグを感じることはほとんどありません。

1シリーズに搭載される1.5L直列3気筒ターボは低回転域からでも軽くアクセルを踏み込むとスムーズに加速していき、「これで本当に1.5Lの3気筒なの?」と思わせるほどで、ターボ技術の進化を実感させられます。もちろん、かつてのターボ車のようにアクセルを大きく開ける必要がないことは省燃費にも寄与します。

ターボが当たり前となったBMWのラインナップですが、2002 Turboのようなハイパフォーマンスターボも健在です。中でも2002 Turboの血統を色濃く感じさせるのが「M」シリーズの最小モデルとも言えるM2コンペティションです。通常の2シリーズクーペに対して前後のオーバーフェンダーを装着して全幅を80㎜拡大、エアインテークを拡大した迫力のフロントマスクも2002 Turboを思い起こさせます。

画像出典:BMW Japan

直列6気筒3.0Lツインターボの最高出力はなんと410psに達します。2002Turboのデビューからすでに45年以上が経ちますが、M2コンペティションは2002Turboから始まるBMWターボ車の一つの到達点とも言えるのではないでしょうか。

M2コンペティションをドライブして、ワインディングロードを駆け抜ける。アクセルを踏み込み、ターボが過給を始めた瞬間にあなたは2002Turboの魂を感じるかもしれません。

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