「MINI」は、2019年で生誕60周年を迎えました。
1958年に誕生してから、紆余曲折を経て現在でも愛されている「MINI」は、もはやクルマという枠を超えて多くの人々から愛されているモデルです。そんな「MINI」は、なぜ60年間にも亘って人々の人気を勝ち取ってこられたのでしょうか?今回は、60周年を迎えた「MINI」が愛され続ける秘密を、5つに絞って紹介していきたいと思います。
革命的なデザイン
なんといっても「MINI」の魅力は、そのデザインに潜んでいます。それは、単純に“小さくてオシャレ”というだけではなく、実用性も兼ね備えたプロダクトデザインとなっているからです。
今から60年前、1959年のイギリスは石油危機に陥っていました。教科書にも登場する、“スエズ動乱”と呼ばれる戦争が勃発したことを受けて、石油価格は高騰し人々は乗用車(当時は1000ccクラスが主流)を捨てて“バブルカー”に乗り換えていました。このバブルカーは、当時の「BMW イセッタ」などに代表される超小型車のことであり、現在のミニカーに近いクルマになります。もちろん、乗り心地や運転性能は乗用車のレベルからは、かけ離れているものでありました。そこで、アレック・イシゴニスが設計を担当し、試行錯誤を経て誕生したのが、「オースチンセブン」と呼ばれている初代「MINI」です。当時としては革命的とも呼べるデザインとなっていて、小型の車体に高いハンドリング性能を備えていました。また、ハイエンドモデルには“魔法の絨毯”とも称えられた新しいサスペンション機構を採用するなど、当時の最先端をいくクルマだったことがわかります。
エリザベス女王も愛用
前述したような革命的ともいえるデザインで、イギリス国内では爆発的に人気が高まっていきました。運転性能の高さもさることながら、「MINI」特有の小型ながらも独創的なデザインに人気が集まったのです。とくに「MINI」を愛用したことで知られる著名人として、“エリザベス2世女王”の存在が挙げられます。イギリス国内外において、“イギリス王室御用達(ロイヤル・ワラント)”と呼ばれている令状を持っているメーカーは、その品質の高さを王室が保証したという証になり、多くの人々が信頼を寄せています。もちろん、公の場では、“ベントレー”や“ロールスイス”といったVIPカーと呼ばれている公用車が用いられていますが、エリザベス2世女王が「MINI」を個人所有するというのは非常にセンセーショナルなことでした。「MINI」そのものにイギリス王室御用達の令状は与えられていませんが、個人所有して自ら運転をするためのクルマということもあり、当時の「MINI」の人気の高さを伺い知ることができます。このような出来事もあり、「MINI」はクルマという枠を超えてブランド化されていくこととなります。
手を加えやすい車両ベース
クルマの醍醐味といえば?という質問に対して、「ワインディングロードを軽快に走り抜けること」と言う人もいれば、「サーキットで自慢の愛車を走らせること」と答える人もいると思います。
しかし、「MINI」に関しては多くのクルマ好きやアーティストにとって“自分を主張するモノ”でもあります。
「MINI」は小さな車体の大衆車というイメージがある一方で、イギリスらしいエッセンスが凝縮された1台としても人気があります。とくに、「MINI」の“パワートレイン(動力伝達系のことで、エンジンからタイヤまでに動力を伝えるために必要な一連のパーツ群のこと)”は1つで完結していたために、バックヤードビルダー(自宅のガレージなどで、クルマの改造や組み立てを行う人たちのこと)が揃って流用していたことは有名です。
そのため、「ミニ・マーコス」や「ユニパワー」といった名車がバックヤードビルダーによって造られていますが、これらはすべて「MINI」がベースとなっています。また、デザインそのものに関しては、公式モデルとしてアーティストとコラボしたものもあれば、セレブやアーティストらが個人的にペインティングした「MINI」も多く残っています。たとえば、公式モデルとして記憶に新しいのは1998年に発売された「ポール・スミス」ではないでしょうか。1500台限定で発売しており、ファッションデザイナーのポール・スミス氏がデザインを手掛けています。この「ポール・スミス」は、他のリミテッドエディションと比較しても抜群の人気を誇っており、現在でも高値で取引きされています。エンジンカバーやプラグコード、トランクルームなど細部にまでオリジナルの色を多用し、エンブレムにはグレートブリテン島のモチーフを採用するなど、上質で遊び心あふれる1台となっています。この1998年に発売されたモデルが人気を博したことから、2009年にもコラボレーションしていて、「ポール・スミス展」などで限定公開されていました。
このように、メカニックシステムを流用し新たな名車の一部となることや、アーティストらに好まれた結果として「MINI」は60年間も存続することができたのです。
BMWによる復活
初代「MINI」が発売されてから、世界中でヒットする中でもとくに日本では根強い支持を集めていました。1990年代には「MINI」の多くが日本へ輸入されることとなり、一時は製造・販売権を獲得しようとする動きまで出るほどでした。
そんな中、開発元であるBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)が、いくつもの合併吸収を経て、最終的にはローバーグループと呼ばれる巨大な英国自動車メーカーの連合組織の傘下として半国有企業となります。
このとき、英国でのシェアを拡大したいBMWはローバーグループを買収しました。
BMWがローバーグループを買収した時点から「MINI」の製造はスタートしていましたが、収益が悪化したためBMWからローバーグループは切り離されることに。幸い、前述したように多くの著名人やアーティストから愛されていた「MINI」は、ファッショナブルなアイコンの役割を担うとしてBMWに残ることができました。これによって、2002年3月2日を”MINIの日”と名付けて日本でも販売が開始されました。
この頃から、従来の「MINI」とは異なる“スモールプレミアムカー”としての新たなる歴史が始まりました。
販売当初は、大型化した「MINI」の外観に批判的な意見も相次ぎましたが、デザインコンセプトを変更せずに多くのバリエーションをラインナップすることで、幅広い世代に受け入れてもらえるようになっていきました。
そして、2019年に60周年となった現在でも大きくデザインのキーコンセプトは変えない姿は愛され続け、BMWの“オリジナル”に対するリスペクト精神の下でレースやラリーでも当時と変わらない活躍をしています。
車という形に囚われない“先進性”
「MINI」が60年の歴史の中で、ファッショナブルなアイコンとしての役割を果たすようになったと前述しました。そして、60周年を迎えた現在、「MINI」は単なるクルマのブランドという枠を飛び出して“ライフスタイル”ブランドとしても活躍の場を広げています。
60周年を迎えるにあたって、2017年からニューヨーク、ロンドンで空間の可能性を提示してきた「MINI」は、2019年の秋には中国・上海で初の“住居と空間をプロデュースした施設”をオープンする予定となっています。これ以外にも、ファッションやアートも手掛けるなど、私たちの日常的な空間に「MINI」が次々と面白い仕掛けを展開しているのです。
こういった取り組みに関して、多くの人は「MINI」と関係ないと考えるかもしれません。しかし、「MINI」が60年も愛され続けてきたのはクルマのスペックが優れているという理由だけでなく、特徴的な外観などが多くの著名人・アーティストに好まれてきたという歴史があるからです。
これから先の60年後の未来を見据えて、「MINI」は進化を止めることはありません。“クルマ”から“ライフスタイル”ブランドへの進出。「MINI」は私たちにどのような未来を提示し続けてくれるのでしょうか。考えるだけでワクワクするような、今年はそんな「MINI」の60周年となりそうです。